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出勤した机の上に何かしらの物が乗っていることは、テオバルトにとっては日常にすぎない
今日も、手紙やプレゼントらしきものが机に乗っている
宰相室はごくわずかの人数しかいない
上位貴族であっても護衛や側近が一緒にいることは許されていないため
各個人が身の回りの世話や掃除をする必要がある
プレゼント類を片付けないと仕事に取り掛かれないが、こうして毎日どうやって運び込まれるのか、テオバルトの机には何かしら置かれているのだ
小さな箱に大きなぬいぐるみ、手紙
それらを表情を変えることなく、箱の中に片付ける
ふと見慣れない文字と一凛の花が添えてある手紙を手に取り読んだ
”ロッソ侯爵令息 テオバルト様
あなたの美しさに一目で打ち抜かれました
今夜屋敷の外で待つ
友達になりたい、アマーリア・クロスフォードより”
手紙には一輪の花が添えてある、ピンクの小さな可愛らしい花だ
その手紙と花を箱の一番上に入れた
変な女だと思った
突然暗闇から飛び出してきると大きな声で名を名乗り友達になりたいという
しかも、その女は先日現れたあの幻の伯爵令嬢だというではないか
「あれが、幻の伯爵令嬢・・この前とは別人??」
そう小さな声で呟くと、上司である宰相閣下が出勤してきた
「おはよう、みんな!今日もご苦労さん!」
ロマンスグレーの髪を後ろに固めるようにした清潔感ある髪
がたいのよい引き締まった体
若いころはモテモテだったという凛々しい顔つきが年を取るごとに渋さを増し貫禄をだしている
宰相という大変な職についていても、家庭を優先する愛妻家という完璧な男
幻の伯爵令嬢の父である彼は娘を溺愛していると有名だ
「おはようございます、閣下」
「おはよう、テオ」
「あの、ご令嬢、アマーリア様のことなんですが・・・」
「なにかあったかね?」
「いや、あの~手紙が、それよりも騎士の格好で顔に傷が…」
「そうだろう?我妻にも似ていて世界一可愛いのだよ。うちの子は・・
それで、先日の国境近くの防波堤の修理の件はどうなっている?」
「その件につきましては・・」
幻の伯爵令嬢の話をした瞬間の瞳の奥の揺らぎ
あれはどういう意味だろう
騎士姿のことを出したとき、素早く話しを切り替えたし
声も大きくなった
これ以上その話題をするつもりはないということだろう
私はどうしたらいいのだろう・・
テオバルトは別人として現れた変な女とその娘を溺愛する
上司を含め恐怖すら感じていた




