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DIVINE×HEART ― デウスの心臓は偶像の夢をみるか  作者: ponta-kun
第三部 世に羽ばたくは天使たちの歌声
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方舟と御使い様

 俺はエルギリスさんの言葉に頷く。


「では、まずは確認からさせていただきます。ニムス達の報告では、御使い様は現世でのこと以外は記憶にないと伺っていますが、間違いありませんか?」

「ええ、私に前世と言ったものの記憶はないです」

「なるほど、ただ焰軌えんき殿から聞いた話では、イナンナ様のお名前を口にされたとか」

「そこは、正直言って覚えてないんですよね。私自身には全く覚えがないです」

「承知しました。それでは、やはり最初からお話しした方がよさそうですね」

「ええ、是非そうしていただけると」


エルギリスさんが、ニムスのオッサンや焰軌のオッサンにウィルから少しずつ聞いていた話をちゃんと伝えてくれる様だ。

まとまって聞くことがなかったから、自分たちである程度は補完する形で理解していたので正直助かる。

情報源は一つじゃない方が精度も上がるしな。

実際にはリルスに聞くのが確実な気はするんだが、あいつはすんなり話してくれそうにないし、本当に丁度良かった。


「承知しました。既にニムスや我が愚弟、あとは焰軌殿からも、お聞きになられている事もあるかとは存じますが、本日はエイラミル家に伝わる口伝や東方教会に残る資料を元に、各地に残る伝承、遺跡、文献など私が長年に渡って研究し、まとめた事について話させていただきます。いくつか推測も含まれますので、そこはご容赦いただければと」


 俺が頷くと、エルギリスさんも頷き続きを話し始めてくれる。

 

「まずは『盟約』についてですが、これは簡単に言ってしまえば人類という種の監視と報告を行う事ですね」

「報告?」


 俺は、つい疑問を声に出してしまう。

 監視ってことなら、なんとなく分からなくはない。ある意味人類の上位種と言ってもおかしくない天人ネフィリムが人類のことを見守っているという意味にもとれるからだ。

 しかし、報告となると別だ。報告はする相手がいなければ成り立たない。

 それが始祖ってことか? しかし始祖から伝わるとか言うからには既にいないのだろう。


「ええ、報告です。監視については伝わっている内容に色々と違いはありますが、報告だけは行き着く先は同一の相手でした」

「やはり、相手がいるんですね。……まさか、それが私だと?」

「いえ、違います。御使い様は、本来は報告した後に現れる存在として伝わっておりますので」

「それは私の様な見た目だとか、特徴が伝わっているということですか?」

「それも違います。見た目と言った特徴は伝えられておらず、ただ我々には分かるとしか伝わっておりませんでした。そして、実際に私も含めた主立った天人ネフィリムは、あなた様を御使い様である、と感じているわけです」


 なんとも適当な話だなと思いつつ、おそらくは相当昔からの言い伝えだろうし、そんなものかとも思う。

 しかし、そうなるとやはり俺が御使い様だという確実な証拠はないということだと思うんだが、その当たりはどうなんだろうか? 確認しておくか。

 

「なるほど……、そうなると私が御使いという存在である可能性は100%ではないということですよね」

「……客観的に見れば、そうなりますね。しかし私は……いえ恐らく私たちは確実にあなた様がそうであると確信しております。そう感じるのです」


 エルギリスさんは、周囲の面々に視線を送りながら答える。その答えに合わせる様に皆が頷いているが、紅歌ちゃんだけは何々と言った感じだ。ちょっと癒やされた。


「話が逸れましたな。その報告の相手ですが、それが神々なのです」

「神様ですか……」

「ええ、神様です。信じられませんか?」


 いわゆる神という存在を信じられるかというと、ハッキリ言って信じられない。

 自然現象や感覚的なものを神ということもあるだろうが、物語に出てくるような全知全能の人格を持った様な存在はいない。そもそも人類が一度として観測できたことなどない相手だ。

 百歩譲ってそんな存在がいたとしても、そんな相手からしたら何もできない様な俺たちなんて認識すらされていないだろう。街作りするゲームの住人一人一人ことなんて、プレイヤーが認識する訳もない。

 こちらから観測できず、相手からも認識されないなら、それはお互い存在していないのと一緒だ。

 そんな物からの報告なんて聞けるわけもなければ、盟約を課すことなど更に無理な話だ。

 もちろん、概念としての神様ならいるだろう。とても有用な商材として今も絶賛売り出し中だしな。

 あと一つ思い当たる物もあるが、あれには意思などなければ人格もない。

 

 それ以外に神様となると、自称か、周りが勝手に神と言ってる相手だけだ。

 天人ネフィリム達が言う神は、このどちらかなんだろうな。

 

「信じられませんね。そんな存在がいて人類に手を貸してくれてるなら、世の中で騒がれる色んな問題なんて起こってないんじゃないかと思うので」


 俺は適当な理由をつけて、信じられない旨を伝える。

 

「その通りですね。ただ我々の始祖が神と敬う相手がいることは確かです」

「いるですか? まだ存在していると?」

「はい。存在していなければ報告できませんからね」

「まさか宇宙人とか?」

「それは分かりませんが、私が研究した限りでは地球上に生きる生物のはずです」


 エルギリスさんは地上に生きる生物と言った。と言うことは、大穴として想定していた精神生命体の線はないという事だろう。

 人の中にあるアストラルゲートの存在は観測できている。だがその向こうに存在するのはただの空間と意思の元になるであろう純粋なエネルギーとも言うべきものだけだ。

 ただ、繋がるポイントによって人の意思に影響を与えうる。そう魂の根源とでも言うべき何かになるだけの媒体、いや触媒といったものだからな。

 

「そう、それこそ遙か昔から生きている存在です。私が知り得た情報から、推測するには恐らく250万年前には、この地球上に存在していたと思われます」

「250万年前!?」

「そうです。まさに我々の人類の元となる生物が生まれたと言われている頃ですね。そして、その頃から地球は第四記氷河期に入ったとも言われてもいます。ご存じかもしれませんが、第四記氷河期は現在も続いていて、今はちょうど間氷期かんひょうきと言われる時期です。第四記氷河期は、この間氷期かんひょうきと氷期と言われる時代を交互に数万年単位で入れ替えています。私はこの入れ替わりは神々による人類の選別だったのではと考えているのです」

「選別ですか……」

「ええ選別です。これも推測にはなりますが、恐らく神々は何かの目的があって、我々人類の祖先を作った。そう始祖様と言われる存在をです。そして、その始祖様に何かの役目を与えた。役目を与えたからには、それを果たしたかの確認がいる。しかし、もしも自分たちで確認を行えないとするならば? 監視する役目を与えられたものもいる。それが我々なのではないかと思っている訳です」


 そこで、エルギリスさんはカップを手に取り口を湿らせる。

 

「……失礼。ここで御使い様に伺います。もし貴女が砂浜で作っているお城が思っていた物と違ったら、どうされますか?」

「……壊して作り直すでしょうね」

「私も同意見です。恐らく神々も同じ事をしているのでしょう。目的を成し得ない形で人類が成長すれば、選別した物以外は全て地上から洗い流す。そう、ノアの方舟です。あれは史実だったのだと私は思っています。そして、今まで人類は何度も洗い流されてきているのだろうと」

「その洗い流す役目が私だと……?」

「はい、最初に貴女を感じたときは、その様にも思いましたが、貴女は洗い流すどころか、度々お救いになっている。それは本来の御使い様であれば、有り得ないことだと私は思っています。さらに、そもそも神々への報告が成されていない。これは確認を取りました。確実にまだ成されていない。となれば御使い様はまだ現れないはず。しかし感覚として貴女を御使い様と感じてしまう自分もいる。だからこそ、私は貴女に会い直接お話しをお聞きしたかったのです、……貴女は何者なのかを」


 俺が何者なのか? か……。

 正直に話せば、俺は『不動実ふどうみのり』という人間の意識を持ったバイオロイドといったところだ。

 もちろん、神様とやらに人類を洗い流せと命令を受けた御使い様とやらではない。

 かと言って、正直に話せば俺の本来の研究に支障をきたす。

 うーむ。ここは以前にDALIだりや姉と共に考えていた設定で適当に誤魔化すか。

 

「私が何者なのか、ですか。……私は『不動みのり』です。不動家の次女として生まれた、只の人間ですよ」

「……失礼ながら貴女のことは調査はさせていただきました。確かに貴女は不動家の次女として出生記録も残っていました。しかし貴女自体の行動記録は、ここ数年のものしか存在していない。それまでは全く世の中に存在していないかの様に、まるで突然、世界に現れたかの如くです」

「行動記録ですか……確かに残っていないでしょうね。私は生まれた時点で心臓にとても重い持病を患っていました。そのためずっと表に出ることなく過ごしてきていたのです。私はこのまま表にでることも叶わないまま、一生この部屋で過ごすのかと思っていた時、みのり兄さんが救いの手を差し伸べてくれたのです」

「……」


 エルギリスさんが視線で続きを促してくる。

 今のところは上手く誤魔化せてそうだな。

 

「兄はどこからか見つけてきたという、不思議な心臓を私に移植してくれたのです。それからは驚きでした。10才程度で成長の止まっていた私の身体が、まるで身作り替えられるかの如く、たった数ヶ月で年相応の姿にまで成長したんです。それからは、恐らくエルギリスさんの調査された通りかと思いますが、不思議な力まで操れるようになった為か、様々な自体にも遭遇し、ここに来ることになった訳ですね」


紅歌ちゃんが鼻水をすすりながら、めちゃくちゃ泣いている。作り話なのにとても申し訳ない。

何故か後ろのウィルからも鼻水をすする音が聞こえてくるし、他の面々もどこか申し訳なさそうな、同情する様な表情を向けてきている。

ちょっと、後ろめたいな……。あとで心の中で神様とやらに謝っておこう。


「……なるほど、そういう事でしたか。心臓……いくつかの伝承に心臓について触れているものがありました。もしかしたら、それの事かもしれませんね。是非、お兄さんにもお話しをお伺いしたい」

「兄になら伝えておきますよ」

「おお! それは是非お願いしたい! まさかあの伝承が本当かもしれないとは……」


 なんか、気になる事を言ってるな。

 デウスの心臓に関することなら、俺も聞きたいから早めに会う機会を設けてもらう様にしようかな。この人忙しいらしいし。

 

「……それで、今日のお話は終わりですか?」

「いえ、貴女が本来の御使い様ではないということは分かりましたので、是非とも相談させていただきたいことがございます」


 どうやら、まだまだ話は続くようだ。

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