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DIVINE×HEART ― デウスの心臓は偶像の夢をみるか  作者: ponta-kun
第三部 世に羽ばたくは天使たちの歌声
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地下の鳥居と面倒な兄弟

 どこ連れて行かれるのかと思ったら、どうやら皇居の地下の様だ。

 首都高を走っていたら、存在しないはずのルートに入っていって気付けばここだ。

 DALIダリの方での追跡と自分自身の計算で、ここが皇居の地下なのは間違いないはずだ。 

 なんで東方教会のお偉いさんと日本の皇居が関係してるんだ? 全くもってよくわからんな。

 

「さあ、着いたぞ」


 ニムスのオッサンが到着を知らせると、ここまで運転士くれた運転手さんが降りてきてドアを開けてくれる。

 

「ここって皇居ですよね? 地下にこんな駐車場があったんですね」

「流石はみのり様。よくここが皇居だとわかりましたな」


 突然後ろから声を掛けられ振り向くと、そこには焰軌えんきのオッサンと紅歌くれかちゃんに香貫火かぬかさんが立っていた。

 

「紅歌? なんでここに?」

「お父様に呼ばれてね。みのりとの会談にお前も立ち会えって」

「会談って……大げさね」


 紅歌ちゃんが俺に近寄ってくると、焰軌のオッサンもセットで付いてくる。

 

「それにしても、第七使徒の件は聞いておりましたが、この目で見ても少々信じられませんぞ」


 焰軌のオッサンは俺の斜め後ろに立っているウィルに視線を向けながら呟くように話すと、ウィルのすぐ後ろに香貫火さんが移動したことを俺は検知する。

 

「それで、第七使徒殿はどの様な目的でこちらに?」


 香貫火さんがウィルの首筋に何かをあてながら質問を投げるが、ウィルは微動だもしない。

 

「怖いですねぇ。私はみのり様の従者としてお供させて頂いているだけですよ」

「西方教会の犬がよく言いますね」

「ワンちゃんとは、可愛らしい例えをしていただけて嬉しいですねぇ。しかし、私は西方教会などとは既に関係はありませんよ。私がお仕えするのは、みのり様以外におりませんのでねぇ」


 ウィルの言葉に香貫火さんは手を下ろし、また焰軌のオッサンの傍に移動した。

 

「まあいいでしょう。しかし何か怪しいことをした場合には容赦しませんよ」

「ええ、もちろんですねぇ。ただし、そちら側でみのり様にご無礼を働くようなことがあれば、私も容赦はしませんので、お気をつけ願いたいですねぇ」


 うーん、闇社会というかドラマやマンガで見るようなやりとりをリアルで見ることになるとは、どこか感慨深いものがあるな。

 しかも話に出てくるのが自分という。これが一般的な感覚の青少年ならワクワクするのだろうか? 俺は一向にワクワクしない。どちらかというと面倒くさいの一言だ。

 そんなことより、奈美なみに勘ぐられないような視線の送り方を研究する時間が欲しいものだ。

 ふぅ、奈美に会いたいな。バレンタインイベント以来、顔を見ていないからな。

 前はこんなことは全く思わなかったが、気付いてしまうと、どうにもチラチラと頭をよぎってしまう。

 すっかり、俺も普通の成人男子になったということだろうか? この心境に至った俺なら、もしかして既に視線の問題をクリアしているかもしれない? これが終わったら、すぐに男の身体に戻って街中にでてみて確認してみるしかないな!

 

「みのり、どうしたの? 車酔いでもした?」


 俺が考え事をしていると、紅歌ちゃんがジッと動かない俺を心配して声を掛けてくる。


「ううん、大丈夫。ちょっと考え事してただけだから」


 俺たちのやり取りを静観していたニムスのオッサンがタイミングを見計らったかのように声を掛けてきた。

 

「話はついたみたいだな。じゃあ、こっちに付いてきてくれ」


 ニムスのオッサンを先頭に皆が移動し始める。

 俺は紅歌ちゃんと並んで歩きながら、今日の格好について聞いて見た。

 

「ところで紅歌の来てる服って、お父さんとお揃いなの?」

「ああ、これ? これは一応は陽ノひのもと家の正装なの。ぱっと見は作務衣にしか見えないから変だよね」

「たしかに正装には見えないかな。でも二人の赤い髪に、その紺碧の作務衣? は似合ってると思うわ」

「ありがと。一応正式な名前はあって、作務衣じゃなくて神楽衣かぐらいって言うらしいわ。何か特殊な作り方があるらしくて、一族の中でも特殊な力を継いでる人たちしか作れないらしいの」

「へぇ〜。だから何か雰囲気みたいなのがあるのかしら?」


 俺たちが話しながら歩いていると、随分と大きな空間にでてきた。

 徐々に下っていたのは気付いていたが、地下なのにえらく広い場所だなと思っていると、突然目の前の開けた空間に大きな鳥居と建物が現れる。

 さっきまでは、そこには何の反応もなかったが、これも誰かの力なのか? こりゃ力場フィールドの検知は常に実施しておかないと拙そうだな。

 しかし地上や一般的な通信網が届いている環境じゃないとDALIのセンサー網が仕えないからな……。みのりや俺本来の体だけでも検知できる様に、何か考えてみるか。

 

「相変わらず、隠れるのだけは巧いものですねぇ……」


 俺のすぐ後ろからウィルの呟きが聞こえてきた。

 

「ん? ウィルはこれをやってる相手をしってるの?」

「ええ、よく知っていますねぇ。とても面倒くさい相手なので、本当はみのり様に会わせたくはないんですがねぇ」

「そ、そう」


 ウィルが面倒くさいって言うとは相当だな。

 というか、お前も充分に面倒くさい部類だろうがと突っ込みたくなってくる。

 うーん、やっぱり帰りたくなってきたな……。

 

「さあ、こっちだ」


 ニムスのオッサンは、俺の思いなど知る由もないので、さっさと先に進んでいく。

 はぁ、一気に足取りが重くなってきた。

 

  +++++

  

「……やっと、御使い様とお会いできる。本当に上の連中は使命を忘れて権力闘争ばかり。俺を巻き込むなというに……」


 三十席はあろう会議室らしき部屋の一席に座る、華奢な体つきをした金髪の男が愚痴をこぼしている。

 

「そうですな。どうやら弟君に随分と先を越されている様ですし」


 男の隣に座る初老ぐらいの白髪の目立つ男性が相づちを打つ。

 

「そうだ! それが問題だ! あのバカが御使い様に何か無礼を働いていないか心配でならん。只でさえ一度は戦いを挑んだというではないか! ああ、どう謝罪をすればいいのやら……」

「御使い様とは言え、年若い女性とのお話ですし、とても素直で良い方と伝わっていますから、貴方も素直に謝罪されれば良いかと」

「うーむ、しかしだな……」

「決して、いつものような相手を虚仮にするような言動はお控えくださいますよう」

「私は虚仮になどしていない! ただバカと話しているとイライラして、つい態度にでてしまうだけだ!」

「それがダメだと言っているんですよ」

「ぬぅ……」

「やはり、ご兄弟なんですかな?」

「あいつと一緒にするな!」


二人のやり取りが続く中、会議室の扉を叩く音が部屋の中に響く。


「来られた様ですな」

「うむ!」


 来客を招き入れるべく、二人は席から立ち上がった。

 

  +++++

  

この建物って、外はがっつり和風の神社って感じなのに、中は結構洋風だな。

というか大正ロマンって感じか。

廊下には金縁の赤い絨毯が敷き詰められ、所々には調度品が飾ってある。

ニムスのオッサンの前にはいつの間にか現れた仲居さんみたいな人がいて、道案内してくれている。

結構複雑な廊下の作りになっていて、マッピングでもしないと迷子になりそうだから、案内がないとニムスのオッサンも場所が分からないのかもしれない。


数分ほど歩くと、一際大きな廊下に出た。

その先には大きめの扉が待ち構えており、恐らくあそこが目的地だろうと思われる。

しかし、なんか厳かな雰囲気があって、建物に入ってからは誰とも会話してないんだよな。

なんで神社とかお寺って、静かにしてなきゃダメな感じがするんだろうか?

こういう空気感が漂う場所って、どうにも緊張を強いられる感じがして好きではないな。

やはり、何かしらの機械音がする方が俺は落ち着く。


ようやく扉の前に全員が揃うと、仲居さんみたいな人が扉をノックする。

すると、ひとりでに扉が開いていき中が見えてくる。待ち人は二人だけの様だ。


仲居さんみたいな人は、扉の横に控えたままで中に入る様子はない。


「御使い様、本日はご足労いただき誠にありがとうございます。さあ、まずはお座りください」


どうするんだろうかと思っていると金髪のお兄さんが座るように言ってきた。するとニムスのオッサンが「こっちだ」と声を掛けてくる。


どうやら、このお誕生日席が俺の座席らしい。

一番の上座ってヤツだな。いわゆる議長席とも言うが、議長などやったことはないので初めて座るポジションだ。


縦に長いテーブルに座る他の面々は、俺の右手に今回会いたいと言ってきたと思われる東方教会のお偉いさんが二人、その隣にニムスのオッサン達、そして左手には焰軌のオッサン、紅歌ちゃん、香貫火さんと続いている。

ウィルは当たり前の様に、俺の斜め後ろに立っている。


先ほどの金髪のお兄さんが、ウィルのことをやたらと睨んでいる様に見える。というかこの二人って顔が似てるな〜と思っていると、唐突に金髪のお兄さんが立ち上がり声を荒げた。


「貴様! 御使い様の傍に控えるなど失礼であろうが! お前は外にでも控えていろ!」

「私は、みのり様の従者ですのでねぇ。お傍を離れることなどできませんねぇ」

「お前などが従者だと!? 笑わせるな! 御使い様の傍に貴様のような汚らわしい男がいることなど有り得んだろうが!」

「みのり様の前で、名乗りもせずにいきなり声を荒げる方が、よほど有り得ないと思うんですがねぇ? そんな無礼な態度を続ける様なら殺しますよ?」

「……き、貴様!」


 ウィルの言っていた面倒くさい知り合いはこの人のことか?

 

「エルギリス様。その程度にしてください。御使い様の前ですので」

「ぐ……」


 初老のダンディな感じがするオジさんの制止により、金髪のお兄さんが席に座り直す。

 このままだと面倒くさそうだから、俺からも一応釘は刺しておくか。

 

「ウィルは、私がそばにいてもいいと言っていますので、お気になさらないでください。あと、ウィル。殺すとか言ってはダメだと言ったでしょう?」

「はっ、ついつい。申し訳ありませんねぇ」

「はぁ……気をつけてよ。改めて、私は不動みのりです。そちらは?」


 俺の質問に二人は席を立ち、ピンと背筋を伸ばし自己紹介を始めた。

 

「御使い様に先に名乗らせてしまうとは、大変失礼いたしました! 私は東方教会日本支部を任されております『エルギリス・エイラミル』と申します。そこの男は我が愚弟となります。その男が何かしでかしましたら、私が責任を持って対処させていただきます!」

「ウィルのお兄さんだったんですか。道理で顔とか髪の色とか似ていますもんね」

「「……」」


 似ていると言ったら、お互いが苦虫を噛み潰したような顔をしている。その顔も似てるな。やはり兄弟ということなのだろう。

 

「私は、エルギリスの秘書をしております『霧島士郎きりしましろう』と申します。御使い様には先ほどから、我が主が失礼をしており誠恐縮であります。後ほど、私の方できっちりと報いを与えておきますので、平にご容赦を」

「む、報いとかまではいいんじゃないですかね?」


 ダンディなオジさんがエルギリスさんに視線を送りながら言うと、エルギリスさんは顔を真っ青にしている。普段からこんな感じなんだろうか? どうやらウィルとは別方向に面倒くさい様だ。

 

「……ゴホン。さて本日、御使い様とお会いしたかったのは、我ら天人ネフィリムが始祖の頃より受け継いでいる盟約、いえ役割といいましょうか。その件についてお聞きしていただきたかったからです」


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