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DIVINE×HEART ― デウスの心臓は偶像の夢をみるか  作者: ponta-kun
第三部 世に羽ばたくは天使たちの歌声
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車中の四人と緩い空気

 カオスなライブから数日経ち、俺は久しぶりにニムスのオッサンとミリアさんと一緒にいる。

 あれからも何度か連絡は取り合っていて、メディアから直接的にみのりに辿り着くような情報が漏れないようにコントロールしてもらったりしているからだ。

 まあ、電子データだけという意味ならDALIダリでも大抵はなんとかなるが、記者とかに張り付かれたりするのまでは防げないし、あまり不用意に近づかれてもウィルに痛めつけられる可能性があるから、正直助かっている。

 

 ちなみに、今は中々の高級車の中だ。

 東方教会日本支部のお偉いさんがやっと日本に帰ってきたらしく、なんとか会ってくれと頼まれたので会合場所に移動中という訳だ。

 

「……お前まで付いてこられると、正直言って話がややこしくなるから遠慮して欲しかったんだがな」


 ニムスのオッサンが俺の横に座るウィルに向かって話しかけてきた。

 

「いえいえ、私のことなどはお気にされなくて結構ですよ。あくまで、みのり様の一従者ですのでぇ」

「……決して暴れてはくれるなよ」

「ええ、もちろんですよ。ただ、そちらが無礼を働けば話は別ですけどねぇ」

「はぁ、頭の悪そうな連中は来ないはずだから、あまり短気はおこさんでくれよ」


 俺が東方教会のお偉いさんと会うことになったと言ったら、ウィルが自分も連れて行けとうるさかったので一緒に連れてきているんだが、元々の関係性が悪いみたいで車内はピリピリした空気が流れている。

 とりあえず、いきなり暴れ出さないようにだけ釘は刺しておくか。

 

「ウィル。何かする前に必ず私に確認するようにね」

「それは、もちろんですねぇ」

「ホントにね。あなたは結構こっそりと動くからさ……」

「めっそうもない。私はみのり様の従者として、その安全を脅かすものに身の程を教えてやってるだけですしねぇ」

「……今回は、それをしないでって言ってるのよ」

「ええ、善処させていただきますねぇ」

「…………」


 どうにも、DALIダリからも最近扱いが適当になってきているが、このウィルも俺に対する扱いが段々緩くなってきる気がするんだよな。

 最初にマンションに現れた時なんて、騎士みたい例をしては、何か言う度に恭しく大仰に跪きながら「拝聴させて頂きます」とか言ってたのにな。

 今は「善処します」だよ。DALIにも同じ事を言われた気がする。

 俺の周りは、どうにも主人と仰いでくる割に、主人より決定権を持っている奴らばかりになってるな……。リルスなんて端から言うことなんて聞く気もないし、勝手に妹を名乗ってるし。

 まあ、元々主人という気もないから、どうでもいい話ではあるんだが。ただ結果として大抵の場合に割を食うのは俺になるので心配はつきないんだが……。

 どうにもなりそうにない心配よりは、気になってたことを確認しておくか。


「ところで、ニムスさん。今日のお話の要件ってわかりましたか?」

「いえ、申し訳ありません。まだ返答がないのです」

「そうですか。会いたいと言うからには要件はあるものと思っていたのですが……」

「なにぶん日本支部の代表は変わっておりまして……。私とミリアにて必ず失礼がないようにフォローさせて頂きますので、ご容赦いただけますと」

「それにしても、ニムスさんの話し方はなんとかなりませんか? 初めて会ったときの感じの方が、こちらとしても話しやすいんですけど」


 ニムスのオッサンは、俺の言葉にミリアさんの顔色を伺う。

 ホントにこのオッサンは見た目に反して尻に敷かれてるな。そんなこと口に出したらミリアさんに怒られそうだが。

 

「……はあ、みのり様がそう仰ってるんですから、いつも通りに話せばいいでしょう?」

「そ、そうか? じゃあ、そうさせてもらうか!」

「まったく……」


 ミリアさんが、ニムスのオッサンの態度にため息をつく。

 それにしても、この二人ってどういう関係なんだろうか? 美女と野獣って感じだが、息は合ってるし結構お似合いに見えるな。ただ、年は離れてるように見えるんだよな。

 そういや年齢って聞いてなかったな。気になってきたし聞いて見るか。

 

「そういえば、聞いてなかったんですが。お二人っておいくつなんですか?」

「ああ、そういえば話してなかったな。俺は今年で189歳だ」

「……は?」

「私は、127歳です」

「……へ?」


 俺は二人の回答に首を傾げるばかりだ。人の寿命を大幅に超えている気がするんだが……。と言うよりも見た目からは想像できないんですが……。

 

「もしかして驚いたか?」

「え、ええ。とっても……」

「ちなみに、そこのアホはもっと年上だぞ」


 ニムスのオッサンの言葉につい、ウィルの方に顔を向けるとニッコリと笑顔を見せながらウィルが自分の年齢を伝えてきた。

 

「そういえば、お話ししてませんでしたねぇ。私は今年で476歳になりますねぇ」

「はぁ!?」

 

 こいつら一体どうなってんだ? もしかして天人ネフィリムってみんな長生きなのか?

 となると紅歌ちゃんや焰軌のオッサンも実は結構な年齢だったり?

 ちょっと、その辺の事情を確認しておくか。

 

「もしかして、天人ネフィリムの人って、みんな長寿だったりするんですか?」

「いや、そういうわけじゃないな」

「ええ、大抵は普通の人と寿命は変わらないですね。ちょっと私たちが特殊な部類です」

「始祖と言われている神から直接力を与えられた存在がいると言われているが、その血が強くでた場合に長寿になる場合が多いという話だ。中でも俺のような身体特性を持つタイプが特に多い」

「身体特性ですか?」

「そうだ。みのり様には見せたことはないが、俺はいわゆる人狼と言われている様な存在だ。身体自体が狼の様な姿に変化する」

「え!? それってモフモフになるってことですか!? ミリアさんもその虜に!?」

「虜にはなっていませんよ!」


 俺はついモフモフになっているニムスのオッサンにミリアさんが抱きついて、そのモフモフを堪能している姿を想像でしてしまうが、違うらしい。

 

「……モフモフは置いておいてだな。そこのアホとミリアも俺と同様に身体特性が表れているタイプだが、俺の様な変化はしない」

「どういうことですか?」


 俺が不思議に思っていると、ミリアさんが口をイーっと開けて歯を見せてくる。

 そこには立派な牙上の犬歯が生えていた。それを指さしながらミリアさんが教えてくれた。

 

「ご覧の通り私の身体特性はこの牙でわかるかもしれないんですが、いわゆるヴァンパイアですね」

「ええ!? じゃあ夜な夜な血を吸ったり?」

「いえいえいえ! 今はそんなことしてませんよ。それに吸血行為自体が数年に一度で充分なので、必要な時は組織でストックしている輸血パックを分けてもらってます」

「今は、って……」

「お話しに出てくるような人の体から直接摂取するような事は、私よりもっと前の世代の頃ですね。それこそ中世のころまでですね」

「なるほど。……じゃあ、ウィルもヴァンパイア?」


 俺はミリアさんの回答に一応の納得をし、ウィルにも視線を向けた。

 

「いいえぇ、私はヴァンパイアではありませんよ」


 自分の口の両端を人差し指で開いて歯を見せながら否定の言葉を伝えてくる。

 

「そいつは、妖精族。今風にいえばエルフだ」

「エルフ!? ……でも耳はとがってないよね?」

「ええ、私たちの特性は瞳ですからねぇ」

「瞳?」

「私ども瞳は、碧がかった色をしていましてねぇ。その色がより濃く、それでいて透き徹る様な美しさを持っているほど力が強いと言われていましてねぇ。私は歴代でも相当優秀だと言われてはいますねぇ」

「へぇ〜。確かにウィルの眼って、すごい綺麗だもんね〜」


 俺は感心したかのようにウィルの眼を見つめて、確かに宝石みたいに綺麗じゃねぇかと思い。この眼を使って今まで色々とモテていたんだろうと推察すると、くたばれイケメン! と内心で呪詛を吐いていた。


「……ゲフン」


 呪詛が通じたのか、咳払いをしたウィルは俯いて黙り込んでしまう。

 

「ははっ! このアホが照れてやがる! おい見ろミリア! 十二使途様のこんな姿はそうそう拝めんぞ! 写真を撮っておけ!」


 ん? これ照れてんのか? イケメンのくせにちょっと女子に見られただけで照れるとか、意外に俺と同じ魔法使いなのだろうか? いやこいつの年齢を考えると、もはや大魔道士と言えるんじゃないだろうか? 一気に親近感が湧いてきたな! これは今後は是非先輩と呼ぶしかないだろう!

 

「ニムスさん。子供みたいな言動はやめてください。こっちまで恥ずかしくなってきますよ……」

「す、すまん」


 こんな感じで車内では思ったよりも緩い空気が終始流れたまま、目的地に向かっていったのだった。

 

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