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DIVINE×HEART ― デウスの心臓は偶像の夢をみるか  作者: ponta-kun
第二部 焰の導き
30/40

青い髪の少女と土下座

 リルスは、焰軌えんき奈美なみ達が待っている部屋に案内すると、扉をノックする。

 

「みのりです。開けても大丈夫ですか?」


——どうぞ


 扉の向こうから了承の旨が返ってきたので、扉を開けると部屋の中では奈美がベッドの上で寝息を立てていた。

 

「奈美さんは、やはり随分と消耗されていた様ですね」

「はい。ベッドに横になられてすぐに眠ってしまわれました」


 リルスの言葉に香貫火かぬかが同意してくる。

 そしてリルスの後ろからは、焰軌が中の様子を確認するべく顔を覗かせる。

 

「……そんなに気になります? じゃあ入りましょうか」

「え、いや、はぁ」


 焰軌はリルスの揶揄からかいに、照れくさそうに頭を掻くと、一緒に部屋に入った。

 

「……焰奈美ほなみは、大丈夫な様だな」


 静かな寝息を立てる奈美の様子をみて、焰軌は改めて自分の娘の無事に安堵の息を漏らした。

 

「…………あの、お父様。姉というのは? それに焰奈美ほなみという名は? この方は、奈美さんですよ?」

「そうだな、お前にもちゃんと説明をしよう」


 焰軌が紅歌くれかからの問いに、経緯を説明しようとし始めるが、リルスが待ったをかける。

 

「ちょっと待って! その話は長くなると思うから、一旦お三方で家に帰ってから話した方がいいんじゃないかしら。ここには奈美さんも寝ていることだしね」

「……たしかに、そうですな。では、このはお預けしても?」

「ええ、構わないですよ。私が責任を持って、回復するまで付き添います」

「はっ。ありがとうございます…………では、我々は一旦失礼することとしよう」


 焰軌とリルスのやり取りに、紅歌は自分の事がどうなるのか疑問を心に浮かべるが、今は持ち出すことでもなさそうだと、何か言いたげな表情を浮かべながらも肯首する。

 そんな様子をリルスは見逃さず、フォローを入れた。

 

「そうだ。紅歌さん、貴女さえよければ、私の家で一緒に暮らしてみませんか?」

「え? 本当にいいんですか?」

「もちろんです。それに私の家に居れば、兄に会う機会もいっぱいありますよ」

「えっ!? いや、それは嬉しいです……」


 リルスの発言に顔を赤らめ、発した言葉の最後は消え入りそうになっていた。

 

「焰軌さん達も、それでいいんですよね?」

「はっ。先ほど通り、異存などあるわけがありません」

「じゃあ、今後のことは紅歌さんに連絡しますね。兄が連絡先を知っているはずなので」

「承知いたしました。では、我々は失礼させていただきます」


 焰軌はリルスに一礼すると、香貫火と紅歌に視線を送る。

 それに応え、香貫火も一礼し、紅歌も慌てて後を追うように一礼をする。

 そして、焰軌達は部屋を出て、来る際にも乗っていた車に向かい帰路についた。

 

(危ないところだったわ。また長話に付き合わされるところだった……。さて、私は兄さんの様子でも見に行きますか。奈美さんはしばらく目を覚まさないでしょうし)


 リルスは内心ごちると、地下の研究室へと足を向けた。

 

  +++++


 研究室のメンテナンスカプセル内ではみのりが薬液の中で眠っていた。

 

「どう、兄さんはどれくらいで起きるかしら?」

『マスターの回復率は、現状で25%程度です。意識の回復には、およそ10時間程度かかる見込みです』

「わかったわ」


 リルスはDALIに確認したいことを確認すると、研究室の奥にある保管庫へと移動する。

 

「たしか、この奥よね」


 保管庫の更に奥にある扉までくると、リルスは躊躇いもなく扉を開いた。

 途端に、扉の開いた箇所から冷気が下りてくる。

 

「寒っ! せめて着替えてからくるべきだったわ……とはいえ、みのりの衣装部屋は吹っ飛ばしちゃったしな……。まあいっか」


 リルスは少々どころではないほどに冷えた部屋に、貫頭衣姿のまま入っていく。

 部屋の中には、メンテナンスカプセルに似た形状の設備が並んでおり、その内のいくつかはランプが灯っており稼働中だと見て取れた。

 

「どの子がいいかしらね……」


 リルスは稼働中と思わしきカプセルの上部にある、小さな窓らしき箇所から中を順に伺っていく。

 五つ目のカプセルを覗いた時、リルスは足を止めた。

 

「……この子がいいわね」


 リルスが足と止めたカプセルには『N-00.β』と記載されていた。

 

  +++++

  

「……ん? ここは? ……研究室か。あれからどうなったんだ? みのりじゃない、リルスのやつは……」


 俺はメンテナンスカプセルから出ようとするが、自分の手がみのりの手であることに気付く。

 

「あれ? いつの間に身体が変わったんだ? DALI? どうなってるんだ?」

『おはようございます。マスター。マスターの本体は現在、修復を完了し、強化調整中となります』

「強化調整? なんだそれ? 充分強化されてたから、もう必要ないだろう」

『いえ、二度とあの様な事態にならないよう、人類という種の限界を超えて強化するべく調整を進めています』


 DALIからの返答に俺は一瞬フリーズしそうになるが、ここで負けてはダメだと自分を奮い立たせる。

 最近はDALIに良いように言いくるめられすぎたが、今回はダメだ。種の限界を超えるとか無茶苦茶すぎる。こいつの良いようにさせたら、俺はその内に目や口からビームを出したり、足から火を出して空を飛びかねない。なんとしても止めねば。

 

「ちょっと待て。DALI冷静になれ。何も俺がそんな化け物の様な存在になる必要はないだろう。今の時点ですでに十分すぎるくらいに強化されている。これ以上は不要だ」

『いえ、私は天人ネフィリムの脅威度指数をかなり下方に見積もっていました。今回の反省を活かし。より上方修正した脅威度にてシミュレートしなおし、マスターの死亡確率を極限まで下げるための強化を実施します』

「いや、でもね。俺、人間は辞めたくないので、ほどほどにして欲しいななんて……」

『ご安心ください。見た目は分からないようにします』

「安心できねぇよ!?」


——クスクス


 俺とDALIが掛け合いをしていると、研究室の隅から笑い声が聞こえてくる。

 

「誰だ!?」


 思わず俺が誰何すいかすると、一人の少女が姿を現す。

 その髪は生来ではあり得ない、透き通る様な碧色をしていた。

 そして、瞳に同じ碧色の光りを湛え、こちらに笑顔を向けている。

 

「なっ、その身体は……?」

「私よ、兄さん。リルスよ」

「なに!?」


 俺はその返答に思わず、驚きの声を上げた。

 と言うよりも、その身体が動いていることに驚いている。

 あれは『N-00』シリーズだ。この『N-01』シリーズの前にテストベッドとして作っていた実験体で、俺が初めて女性を目で追うようになってしまった頃、そう中学生頃の奈美をモデルにした素体だ。

 だが、身体の大きさ的に放熱機構や、求める運動性能などを搭載しきれないと判断したので、そのままテストベッドにもならずお蔵入りになったものだ。

 そもそも『デウスの心臓』もなしに、どうやって動いてるんだ?

 

(たぶん、色々疑問が浮かんでいると思うけど、動力源となる心臓は私が新たに作ったわ)

(脳量子通信まで!?)

(ええ、私もDALIと繋がってるからね)

(おい、DALI! どういうことだ!?)

(『イエス、マスター。リルスの持つ技術的情報がマスターの強化に有効であったため、取引条件として譲歩しました』)

(……なんか最近、自由すぎない?)

(『すべては、マスターのためです』)

(ふふふ。二人は本当に中がいいわね。あっ、心臓を作ったと言っても、その心臓と同じ物は、この星に材料もなければ、設備ももう残ってないから作れないから、あくまで似たような物だけどね)

(……それでも、その身体に収まって動かせるだけの効率を持った、軽量な動力源は作れるってわけか)

(ん? 今、私の体重量った? ちょっとレディに対して失礼じゃない!?)

(うるさいな。お前絶対すげえ年齢だろ。レディというには些か若さが足りんわ)


「……いい度胸してるわね? 女性に対して年齢の話を持ち出し、あまつさえ若さが足りないと? いくら兄さんとは言え、お仕置きが必要ね。DALI?」

『イエス、リルス。マスターの意識を一時的に本体にリンクします』

「えっ? おい、DALI!? どういうことだ!?」

『今の発言はマスターに非が認められます。大人しくお仕置きを受けることを推奨します』

「なにを——って、いったぁぁあっぁぁぁ!!」


 俺は突然の激しい痛みに床をのたうち回る。

 しばらく、俺が痛みにのたうっていると、ようやく痛みが引いた。

 

「い、痛みだけで、し、死ぬかと思った……」


 俺が安堵の息を吐きながら、四つん這いになっていると後ろから声を掛けられる。

 

「どう、ちょっとはレディに対して失礼なことを言ったという、罪の重さは理解できたかしら?」

「……はい。二度と年齢の話はしません」


 俺はこの小さな姿をした、恐ろしい悪魔に屈服する。こいつ、絶対にすげえ年増のくせに、とは思っても二度と口にはしまい。


「……ちょっと、心の声も少しはわかるんだけど、もう一度お仕置きする?」

「誠に申し訳ございませんでしたぁ!! 貴女様は私の妹ですので、年増な訳がありません!!」


 俺は即座に地にひれ伏し、キレイな土下座をかます。

 

「はあ、もう少しカッコイイところを見せて欲しいわ……」

「すまんな、今のところカッコイイと言われたことは人生で一度もない」


 俺が、胸を張りながら自慢げに言うと、リルスの視線が俺の胸に向かった。

 

「……とりあえず、服着たら兄さん」

「…………」


 俺も視線を自分の身体に向けると、立派な双丘が目に入る。

 どうやら、ずっと裸のままだった様だ……。

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