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DIVINE×HEART ― デウスの心臓は偶像の夢をみるか  作者: ponta-kun
第二部 焰の導き
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天使の目覚めと新たな妹

 四人を標榜するように、上空から見つめている真紅の瞳は、最後にその端で横たわっているみのりに視線を移すと、その横に滑るように降り立った。

 

「……DALIが、上手くやってくれている様ですね」


 みのりと思わしき、貫頭衣だけ身につけた姿の天使は、みのりの様子を確認すると、未だ焰軌えんきに対して、黒い炎による攻撃を続けている奈美に向かって歩き出す。

 

「「「…………」」」


 奈美を除く三人は、その神々しくも自然な動作に何も言えずに眺めているしかない。

 天使が、焰軌に集中している奈美の前に立ち塞がると、焰軌に向かっていた黒い炎は、天使に集中するかと思われたが、黒い炎による攻撃は止み、奈美自身を覆うのみとなる。

 

「……みのりちゃん? どいて、そいつは殺さなきゃ」

「大丈夫ですよ……。奈美さん。そんなに辛そうにしないでください。兄さんなら大丈夫」

「何言ってるの!? アイツは死んだのよ! そいつに殺されたの! だから殺さないと!!」


 叫びを上げる様に声を上げる奈美を、天使は唐突に抱きしめる。


「みのりちゃん!?」


 奈美を抱きしめた天使にも、黒い炎が纏わり付くかのように燃え移り始めるが、その炎はすぐ燃え上がるであろう、貫頭衣すら焦がすことはなかった。

 

「貴女は優しい人ね……。憎悪の炎に抗っている。さあ、血の呪縛などに囚われないで」


 天使の、朱金色に燃えたなびく髪は更に強く光り、その背中の翼はまともに直視することが難しいほどに、その輝きの強さを増していく。

 

——周囲を染めていた光が、徐々に収まっていくと、先ほどまで黒い炎を纏っていた奈美から、炎は立ち消え、天使に抱かれたまま眠りに落ちていた。


焰奈美ほなみ!」


 その姿に焰軌は、ダメージを負った身体とは思えない動きで、駆け寄っていく。

 

「大丈夫ですよ。この子は寝ているだけです。あなた方は……イナンナに連なる者達ですね?」


 天使からの問いかけに、焰軌は目を見開き、その場に跪くと肯定の意を返す。

 

「はっ! 御使い様の仰る通り、始祖様に連なる者でございます」

「未だ、あの子の思いは繋がれていたのね……」


 天使は、どこか哀しくも嬉しそうな顔を見せながら、遠くを見るように顔を空に向けた。

 

焰奈美ほなみは? 焰奈美は大丈夫なのでしょうか!?」

「ええ、もう大丈夫です。とても強くて優しい子。もう囚われることはないでしょう」

「あ、ありがたき……!」


 天使の言葉に、焰軌は顔を下に向け感謝を述べる。

 二人のやり取りを呆然と見ていた、紅歌くれかおもむろに天使に詰めよると、懇願する。

 

「御使い様! 無礼を承知でお願いします! みのりさんを、あの人を助けてください!」


 紅歌が、天使の貫頭衣を掴み、目に涙を溢れさせながら訴える。

 先ほどの、奈美を御した姿を見て、この人ならもしかしたら、という思いを抑えきれなかったのだ。

 

 必死に縋り付く紅歌の頭の上に、ポンッと天使の手が乗せられると、優しく赤子をあやすように撫でられる。

 

「あっ……」


 その感触に、思わず紅歌は赤面してしまうが、それどころではないと天使の顔を必死に見つめると、天使が答えをくれた。

 

「兄さんなら、無事ですよ。最初から死んでいませんから」

「……えっ!? でも心臓も脈もなかったのに……」

「一時的に仮死状態になっていただけです。そろそろ目が覚めると思いますよ。(ねえ? DALI)」


(『……肯定します』)


 天使の意識に、DALIの肯定する声が響く。

 

 天使の言葉に、紅歌はみのりに顔を向けると、少しずつ歩き出した。

 次第に歩みは早くなり、駆け出す。

 すぐにみのりの元に辿り着くと、その場に座り込み、みのりの頭を自身の太ももに乗せると抱きしめる。


「……実さん!!」


 名前を呼ぶと、みのりからわずかな反応が返る。

 その反応に紅歌は、思わずみのりの顔をのぞき込むと、また名前を呼ぶ。

 

「実さん!! 目を覚まして!!」 


 紅歌が、名前を呼び続けていると、みのりの身体が唐突に大きく反応する。

 

「——いってぇぇぇ!!」


 叫び後を上げながら、目を開けたみのりが、まともに身体を動かせないながら、周囲を見回し、状況が掴めないでいると、その身体を紅歌が思い切り抱きしめてきた。

 

「ぐ……身体中がいたい……。何が……どうなって……」

「……よ、よかった!! みのりさん!!」

「ぐぁぁ!!」


 ただでさえ身体中を痛め、無理に酷使した反動で痛みに参っているところに、紅歌からの追撃を受け、再び叫び声をあげたみのりを救ったのは、紅歌の後ろから現れた、よく知っているはずの自分自身だった。

 

「おはよう。兄さん」

「……なんだかよくわからんが、色々助けてくれた様だな。あとで詳しく色々と聞かせてもらいたいものなんだが」

「ええ、もちろんよ。兄さん」

「……まあいい、ちょっとこの状況をどうにかして欲しいんだが」


 みのりを放すまいと、しっかり抱きついたままの紅歌を、目で示し助けを求めるみのりに、天使は笑みを浮かべて首を横に振った。

 

「おい!」

「まだ、しばらくはそうしていてください。役得じゃないですか。私はあちらの人たちと少し話してきます」


 そう言うと、天使は少し離れたところで、こちらを見ていた焰軌えんき達のところへと足を向けた。

 

  +++++


「——さて、その子の事ですが、もう黒い炎に囚われることは二度とないでしょう」


 奈美を抱きかかえていた、焰軌は天使の言葉に顔に喜色を浮かべ、感謝を伝える。

 

「あ、ありがたき! これで焰奈美ほなみは助かるのか」


 色々な感情を讃えた、感慨深げな顔を奈美に向ける焰軌に天使が問いかける。

 

「あなた方の家の事情は分かりませんが、その子は先ほどの事は覚えていないでしょう。目を覚ました際に、事実を伝えるのか、伏せたままにするかは、親たる貴方にお任せしましょう」

「……はっ。重ね重ね慈悲深きお言葉、ありがとうございます」


 焰軌は何かを思案する顔をしながらも、再度感謝を伝えた。

 

「では、私は兄さんを治療できる場所に連れて行かねばなりませんので、こちらで失礼します」


 天使が再び、みのりたちの元に向かおうとすると、香貫火かぬかが声をあげた。

 

「お、お待ちを! 貴女は御使い様なのでしょうか?」

「……いいえ、私は『不動ふどうみのり』です。あちらにいる『不動実ふどうみのり』の妹で、それ以外の何者でもありません」

「……はっ。失礼をいたしました」


 みのり名乗る天使からの回答に、香貫火は深く頭を垂れ、礼をとった。

 もう話はないだろうとばかりに、天使はそのままみのりと紅歌の元に向かう。

 

(……あの方は、御使い様どころではないのかもしれない。確かに「イナンナ」様のことを「あの子」と仰った)


 香貫火は、先ほどのやり取りでみのりが呟いたことを思い出し、目の前の存在が計り知れないものであるのではないかと、畏怖を抱く。

 

香貫火かぬか、下手な詮索などするな。今は、ただ焰奈美ほなみを助けてくださった、その事実だけでよい」

「はっ。……そうですね。あの方には返しきれぬ恩ができました」

「そうだ。我が一族は、これから何があろうと、あの方の敵になる事はない。分かったな」

「はっ! 承知いたしました!」


  +++++


 『みのり』が俺の傍にやってくる。

 紅歌ちゃんは既に落ち着いていて、今は彼女の太ももの上で身体の痛みと、頭の後ろの至福の感触との板挟みだ。

 

「では、そろそろ兄さんを返してもらえますか?」


 『みのり』の身体を動かす誰かが、紅歌ちゃんに問いかける。


「あ、あの……、貴女がみのりさんの妹さんなんですか?」

「ええ、そうですよ。不動みのりです」


 『みのり』のていをした何かが、肯定の返事を返すと、そのまま俺の身体を抱きかかえて、立ち上がった。

 

「いててて!」


 俺はその時の揺れで、再び全身に痛みが走り、声を上げてしまう。

 

「あら、ごめんなさい。兄さん。でも少しガマンしててね」


 『みのり』の中にいる何かが、然して悪いことをしたとも思っていないであろう口調でわざとらしく謝ってくるが、俺は痛くて嫌みを返す余力もなかった。

 

「み、みのりさんを、どこに?」


 紅歌ちゃんが、どこかに運ばれようとする俺の行方を気にして質問すると、俺の妹と名乗っている何かは、間も置かず返答を返した。

 

「家の地下に治療スペースがあるので、そちらに運びます。そこは部外者は遠慮してもらっていますので、しばらく待っててもらえるかしら」

「私も付いていきます!」

「ん〜、まだダメかな。もっと兄さんと仲良くなってからね。だから、そのまま待ってて」

「……も、もっと仲良く……。胸を触られる以上に……」


 自称妹の返答に、紅歌ちゃんは顔を赤く染めて何か呟き始めたが、自称妹は気にもせず、我が家に向かって歩き始めた。

 

——陽ノひのもと家の三人を地上に残したまま、俺と自称妹は、地下にある研究スペースまで来ていた。


「じゃあ、DALI。兄さんの治療を頼むわね」

『肯定します。マスターをメンテンスカプセルに寝かせてください』

「いたたたたた!!」


 メンテンスカプセルに寝かされる、ちょっとした衝撃でまたも激痛が走り、俺は悲鳴を上げてしまう。

 

「兄さんったら、男なんだから少しはガマンしたら?」

「…………おい。さっきからワザとらしいぞ。お前誰なんだ? なぜ、みのりの身体を動かせる?」


 俺は、関係者しかいない部屋で、さっきから聞きたかったことを問いかけた。

 

「……さっき言った通りよ。私は兄さんの妹よ。そして兄さん自身でもある」

「はぁ? 全くわからん。何を言ってるんだ? 俺に妹なんていない」

「いいえ、私は兄さんに命をもらって、生まれた妹よ、いえ娘と言ってもいいかもしれないわ」

「…………!? まさか心臓に残っていた、かすかな意識の残滓?」

「……そうね、核となるものは、それかもしれない。でも私は兄さんの妹よ。それ以上でも以下でもない。兄さんの家族として生まれたものよ」

「その割には、昔のことも随分と覚えていそうじゃないか? その辺りのことは説明してくれるんだろうな?」

「…………そうね、その辺りは私にとっては前世みたいなものなんだけど、その内にね」

「はぁ、もういい。おい、DALI。こいつの言ってることはどうなんだ?」


 核心は離そうとしない、自称妹のことは追々調べていくとして、実際にみのりの身体を動かしている意識体ってものがあるのは事実だ。俺はその存在についての情報を、DALIに尋ねる。

 

『イエス、マスター。仮称<まのり>の言うことは、恐らく事実です。以前に検知した<デウスの心臓>に僅かなアストラル体のパターンと部分的な類似が認められます』

「……そうか。で『まのり』ってなんだ?」

『素体<みのり>の身体を間借りしている存在なので、<まのり>と呼称しました』

「ちょっと、可愛くなさ過ぎるでしょ……。ねえ、兄さんが名前付けてよ」

「……はぁ?」

「だって、私は兄さんが作った妹なんだから、当然でしょ」

「し、しかしだな……」

「可愛いのにしてね。本当は『みのり』のままでもいいんだけど、ややこしくなりそうだし」

「むぅ……、じゃあ……『リルス』ってのはどうだ?」

「響きはいいわね。何か意味はあるの?」

「……まあ、響きだけだ」

「いいわ! ありがとう、兄さん」


 そう言うと、リルスは俺の額にキスをしてきた。

 俺が入っている時は裸を見ても何も感じなかったみのりの身体だが、別の人格が入っているからなのか、貫頭衣という格好で胸元が見えてしまっているからなのか、なんだか目のやり場に困る。


「……兄さん、いまアタシの胸みたでしょ?」

「み、見てないわ! 誰が妹の胸を見るか! というか、その身体は研究用なんだから返せ!」

「え〜。じゃあ、私用の身体作ってくれる?」

「そんな、簡単にできるもんじゃないわ!」


 クソ。俺が入っている時は、そんな視線に敏感じゃないのに、なんでコイツは気付くんだ。

 同じ身体だと言うのに……。何が違うと言うんだ? 魂とでも言うのか? 女の魂でないとダメなのか? 謎が更に深まってきた気がする。

 

「まあいいわ。ちゃんと身体は返すわよ。でも、その前に上に待たせてる三人、いえ四人と話してくるわ。兄さんは、そのままDALIに治療してもらいなさい」

「って、おい! まだ聞きたいことが……」

『マスターの治療を開始します。メンテンスカプセルへ有機体活性剤の注入を開始……』

「お……おい! ウップ……ゴボゴボ……」


 俺は、肩越しに手を振りながら地下室を後にするリルスの後ろ姿を追いながら、そのまま眠りに落ちていってしまった。

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