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DIVINE×HEART ― デウスの心臓は偶像の夢をみるか  作者: ponta-kun
第二部 焰の導き
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悟りを開く男と猛る親父

 俺は、悟りを開くべく、この一時を堪能している。

 釈迦が、いや偉大なる先達としてお釈迦様と呼ばせていただこう、そのお釈迦様が、なんで寝そべった格好をしていたのか、俺は同じ悟りの境地に達しそうになっているため、深く理解できている。

 今なら、仏門に入ることも決してやぶさかではない。

 この、後頭部に感じる、至福の温もりと弾力と感触は、まさに天上の雲の如く。

 そして、眼前に見える双丘は、雲を突き破りそびえ立つ霊峰の如し。

 霊峰の向こうに見える、女神の慈愛の満ちた表情は、全ての罪を洗い流してくれそうだ。

 

 そんなわけで、俺は紅歌くれかちゃんに床で膝枕をしてもらっている。

 奈美なみに良いモノをもらい、床に突っ伏していた俺を心配して、抱き抱えるようにして、膝枕してくれた訳だ。

 俺は、ついに魔法使いから、悟りをひらいた僧侶へとクラスチェンジする時がきたのかもしれない。僧侶と言えば、国民的RPGでは棍棒使いな訳だが、その理由もわかった。今日から棍棒マスター目指して修行しなければならないな、と俺が思っていると、今から鍛えようと思っていた俺の棍棒にヒヤリとした感触が触れた。

 

「随分と幸せそうね、みのり

「……落ち着け、さあ、まずはその足を降ろそうか」

「ん? このまま踏み降ろせってこと?」

「申し訳ありませんでした。紅歌ちゃんの優しさに甘えてしまいました。二度と調子に乗らないので、どうか許してください」


 俺の大事なところに、少しヒールのある靴を履いた奈美が、そのヒールの部分を押し当ててくる様に圧をかけてくるので、俺は即座に謝罪モードに入る。

 紅歌ちゃんは、俺たちのやり取りに首を傾げ、不思議そうな顔をしていた。

 

「……ったく。紅歌ちゃんのお父さんが、アンタをお呼びよ」

「えっ!? お父様が!?」

香貫火かぬかさんだけじゃなかったのか?」

「私が出て行って、すぐに車から出てきたわよ」


 俺をお呼びとのことなので、俺は名残惜しさを感じながらも、紅歌ちゃんの膝枕から離れる。おお! なんという喪失感だ! だが、行かねばなるまい。この涅槃を守るためにも。

 俺が内心で息を巻いていると、奈美が汚物を見るような目で見てきていた。

 

「……なんだよ?」

「なんでもないわよ。どうせ、昔のようにくだらないこと考えてるんだと思っただけよ」

「失礼な。俺は悟りに近づいている。もはや昔の俺ではない!」

「……やっぱり、アホのままね。……いいから早く行くわよ」


 奈美が全てを諦めた様な表情をしながら、俺を急かしてくるので、俺もそれについて行こうとすると、紅歌ちゃんが俺の前に出てくる。

 

「待って下さい! みのりさんに迷惑を掛けるわけには行きません。私が行って話をします」


 俺と奈美は顔を見合わせ、頷いた。


「ダメだ。一人では行かせられないし、呼ばれたのは俺だから、一緒に行こう」

「は、はい!」


 俺の返答に、紅歌ちゃんは嬉しそうに頷いてくれたので、3人で外に向かう。


 玄関を出ると、甚平を羽織った、紅歌ちゃんと似た真っ赤な髪の、大きな筋肉の塊がいた。

 ヤバイ、これは先ほどの事は秘密にしなければ、確実に殺されてしまう……。

 俺は、自分に訪れるであろう暗い未来を避けるべく、できる限り、冷静に穏便に話し始める。

 

「——お待たせしました。貴方が、紅歌ちゃんのお父さんですか?」

「うむ。相違ない。陽ノ下焰軌ひのもとえんきと申す。どうとでも呼んでくれて構わんが、まだ『お養父さん』と呼ばれるには早いと思うのだがな」

「では、焰軌さんと。改めて、私が不動実ふどうみのりです。先日、紅歌ちゃんと縁あって、そちらの家の事情を少し伺いまして、協力をさせてもらっています」

「ほう。どの様な話かな?」

「そちらのおいえにも色々と事情はありそうですが、紅歌ちゃんももう大人の女性です。家を出て、世間の中で暮らすことを許してあげても構わないんじゃないかと思い、協力できることはさせていただこうかと」

「なるほど。ということは君が、紅歌と共に暮らすということかな?」

「いえ、そうでは……」


 俺が、妹ということになっている「みのり」と暮らさせて欲しいと言おうとしたら、紅歌ちゃんが割り込んできた。


「はい、そうです! お父様! 私はみのりさんと暮らします!」

「「…………」」


 俺と奈美は、父親に向かって堂々と男と暮らすと叫んだ紅歌ちゃんに驚愕の表情を向けるが、紅歌ちゃんは言ってやりましたよ! と言わんばかりの得意げな表情を浮かべている。

 俺が、訂正を入れようと焰軌さんの方に目を向けると、只でさえ窮屈そうだった甚平がはち切れんばかりに中の筋肉に押し上げられ、その顔には深い笑みが浮かんでいた。


「よくわかった。では、正式に婿殿として、私が見定めさせていただくとしよう」

「い、いや、誤解がありましてね! ちょっと紅歌ちゃんが……」

みのりさんは、力を使わずとも香貫火と互角に渡り合った猛者です! お父様には負けたりしません!!」

「よかろう。では、手加減など失礼なことがないよう、本気でいかせていただこう」


 おぉぉい!? 俺が冷静に穏便に進めようとした話が、あっという間に最悪のケースに突き進んでるじゃねえか!?

 奈美さん助けて! と奈美の方に振り向くと、いつのまにか持ってきていた、ダイニングのテーブルと椅子に座って、香貫火さんとお茶を楽しんでいらっしゃる。

 俺が呆然としていると、襟首をむんずと掴まれ、家の前にある開けた場所に引きずられていく。俺って猫じゃないんだけど……。

 

「さあ、ここなら存分に婿殿の力量が測れそうですな」


 俺は、ポイッと投げられ尻から着地する。

 

「あ、あの〜。力量というのは?」

「もちろん、男親が娘の婿に対して測るものなど、これだけでしょう!」


 そう言うと、ニカッと笑いながら拳を突き出してくる。

 マジかよ。いつの時代だよ……。しゃべり方やお堅い感じから古い家なんだと思ってはいたが、武家社会じゃないんだから……。

 

「穏便に済ませる方法ってないんですかね?」

「ないですな! 我が娘と添い遂げるのであれば、避けられぬ道ですぞ」

「……えっと、誤解があると思うんですが、私は紅歌ちゃんと結婚とかするつもりは……」


 俺が誤解を解こうとした瞬間、俺は首を掴まれ持ち上げられていた。

 

「ガッ……!」


 ヤバイ、息ができない! つか早すぎるだろ!? 全く見えなかったぞ!

 

「……結婚する気もないのに、紅歌を弄んだということかな? であれば、それなりに痛い目に遭ってもらうことになるぞ?」


 こ、こえぇ! というか、喉を押さえられてて喋れない! このままじゃ死んでしまうぞ!

 

(『マスター。緊急事態かと思われますので、マスターの身体機能のリミットを解除します。併せて、身体操作のアシストも実行します』)

(な、なんか、よくわからんが、現状を回避できるなら頼む!)

(『イエス、マスター』)


 DALIの返事と共に、俺の身体が一気に軽くなる。

 俺の首を掴んでいた、この危ない親父の腕に膝蹴りをたたき込むと、首の拘束が緩んだので、膝蹴りの勢いのまま、身体を捻って脱出、そのまま距離を取った。

 

「がはっ! が、はぁ、はぁ……」


 俺が、息を整えようとした瞬間に、また親父さんが迫ってくる。

 とてつもなく早いが、今度はなんとか追える。思考速度自体もDALIのアシストで上がっているせいか、少し時間の流れが遅く感じるくらいだ。

 

 俺の腹部めがけて迫り来る拳を、身体を捻ることで避けるが、その腕がそのまま肘打ちに変化してくる。

 すでに腰を捻りきって避けようがない俺は、咄嗟に両手で肘を包むように抑え込む。

 

——ズンッ!!


「ほう。今のを受け止めるか。急に動きが変わったな。こちらが本性か?」


 本性か? じゃねぇよ! メッチャクチャ痛え! 俺の両手は無事なのか!?

 このオッサン、一般人相手に、力場フィールド使って攻撃してきやがって……。いくら温厚な俺でも、ちょっと頭にきたぞ。

 

(DALI、戦力的に俺はこのオッサンをボコれるのか?)

(『イエス、マスター。敵個体の予測される能力上限を加味しても、現時点のマスターのリミットを解除し、私のアシストと併せることで可能です』)

(よし! んじゃ、この大人げない親父を、いやクソ親父をボコボコにして、世間の厳しさを教えてやるぞ!)

(『イエス、マスター』)


 肘を受け止めたままの状態で止まっていた俺たちは、同時に次の一手を繰り出した。

 クソ親父は、反転して逆の肘を俺の脳天にたたき込もうと、俺はその肘を上げた時に見せる無防備な脇腹に掌底を喰らわせようと。

 結果は、DALIのシュミレート通りの動きをしてきたクソ親父の脇腹に、俺の掌底が突き刺さった。

 

——パンッ!


「つっ!?」


 だが、ダメージを受けたのは俺だ。あのクソ親父の脇腹に手が触れた瞬間、とても固い感触があった。とても筋肉とは思えない。力場フィールドか?

 

「私の動きを予測し、先に一撃を当てるか……これは面白い」


 こっちは面白くもクソもねぇ! これ向こうは鎧着て戦ってる様なもんじゃないか?

 こっちは素手だってのに、ハンデありすぎだろ!?

 

(『マスター。先ほどの掌底が阻まれた理由が解析できました』)

(なんだったんだ?)

(『力場フィールドの集中による強度の補強です。観測データから、あの瞬間のみ一時的に全身を覆っていた力場フィールド密度に変化があり、掌底の打点箇所が高密度になっていました。力場フィールドの解析サイクルの調整と解析リソースを集中することで、密度変化も追えるようにするので、30秒ほどお待ちください』)

(わかった! 頼む!)


 タネが分かれば、どうとでもなる。

 とはいえ、密度の変化が分からなければ、攻撃ポイントがわからん。

 30秒の間、このクソ親父の攻撃を捌くのは大変だな。

 

 俺がDALIと会話している間も、クソ親父からの攻撃は続いている。というか、だんだん速くなってないか!?

 くそっ! こちとら、こんな動きに慣れてないってのに! DALIのアシストなければ、身体能力で上回っていても、確実に殺されてる様な一撃ばかりだぞ! 少しは手加減しろ!

 

 俺が必死に攻撃を捌いていると、待ちかねた知らせが来る。

 

(『マスター。調整が完了しました。力場フィールドの密度変化を視覚データに反映します』)


 よっしゃ! これでやっとボコボコにできる! 覚悟しろよ、クソ親父!!

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