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DIVINE×HEART ― デウスの心臓は偶像の夢をみるか  作者: ponta-kun
第二部 焰の導き
22/40

鋼の理性とお泊まり会

 俺と奈美なみ紅歌くれかちゃんは、何故か三人でカフェに入っている。

 ここって、昨日も来たとこだよな。奈美はここの常連なのか? あまり好みじゃない味のコーヒーを口にしながら、なにやら話をしている二人を眺めているだけの状況だ。

 

 話している内容としては単純だ。紅歌ちゃんの家は厳しい家らしく、今までは色々とルールに縛られて雁字搦めな生き方を強いられてきたらしい。

 それが、とある条件を元に家を出て暮らすことを認められたのが、つい先月とのことらしく、その条件というのが、信頼できる友を自力で見つけ、その相手との同居で、そこに都合良く現れたのが俺という存在らしい。

 

 うーん。その条件を聞く限り、俺は香貫火かぬかさんだけでなく、その親父さんにも命を狙われそうな気がするんだが……。しかし、今までの境遇を聞くと力になってあげたいとも思える。どうしたものか……。

 

「……話は分かったわ。紅歌ちゃんの家庭の事情が複雑そうなのもね」

「では!」

「それでもダメよ。貴女みたいな世間知らずな未成年が、こんな変人と一緒に暮らすなんて」

「おい! 誰が変人だ! 誰が!」

「アンタに決まってるでしょ! 話に入ってこないでよ」


 俺が不当な扱いを非難すると、すぐに黙るように言われてしまった。

 

「それで、協力してあげたいのは山々なんだけどね……。私の家も一緒に暮らすのは難しいしね……。ところで、紅歌ちゃんの学校の友達とかはどうなの?」


 奈美が紅歌ちゃんに尋ねると、途端に悲しそうな顔になって俯いてしまった。

 

「……私、学校では浮いていて、友達とかいなかったんです……」

「「…………」」


 俺は、奈美を肘でつついて、ちゃんと責任を取るように小声で注意する。

 

「おい。お前が変なこと聞くから、落ち込んじゃったじゃないか。なんとかしろよ」

「……む、無茶言わないでよ! しかし困ったわね。この子と同年代くらいの知り合いがいればよかったんだけど……」


 俺たちが小声で話している間も、紅歌ちゃんの表情は晴れないままだ。

 二人でどうしたものかと思っていると、奈美が急に俺の方に顔を向けてきた。

 

「そうだ! ねえ、みのりちゃんってこの辺に住んでるんでしょ? ちょっと相談してみない?」


 こいつ気付きやがった。

 そうなのだ、『みのり』であれば解決できる問題ではあるのだ。ただ、それには一つの落とし穴がある。それは、『みのり』の中身は俺だと言うことだ。

 そうなってくると、結局俺としては、こんな可愛い一回り下の女の子と、一つ屋根の下で暮らすという、役得……もとい苦行を強いられることになる。

 俺の理性はもちろん鋼鉄の様に固く、決して簡単に揺らぐものではないが、魔法使いという十字架を背負ってしまっている以上、超自然的な、とっても不思議な力で理性が崩壊する恐れもある。

 なんせ、世間上は妹の家に遊びに行く兄の図だ、なんて自然なんだ。遊びにきた友達の兄との一夜の間違い。よくある話だ。これはいけるな……。って! 違うそうじゃない!

 まずい、このままでは俺が条例違反で捕まる確立が高くなる。どうにかしなければ。

 

「……あんた、なに一人でウンウン唸ってるのよ。また変なこと考えてるんでしょ。アンタの妄想はどうでもいいから、みのりちゃんに連絡とってみてよ」

「し、しかしだな……」

「まずは相談してみないとわからないじゃない。アンタが言いにくいなら、私から連絡してみるわよ?」

「ま、まて! わかった。ちょっと連絡してくるから、待っててくれ」


 危ないところだった。今、みのりに連絡されたら、俺のポケットから着信音がなるところだ。

 しかたないので、俺は席をたって、カフェの電話ブースに向かう。

 スマホを取り出し、誰かに電話をする素振りをしながら、DALIに連絡を入れた。

 

(DALI、状況はわかってるよな?)

(『イエス、マスター。推奨するのは、みのり宅に同居させることです』)

(まあ、わからなくはないが、火種を抱えることになると思うんだが……)

(『マスターの懸念通り、天人ネフィリムが関わる組織のメンバーであることは確実かと思われますので、みのりに近づけることは余計な火種を抱えることになりえます。しかし、同時にそれ以外の組織への牽制になります。また、いざという時の人質としても機能するかと推測します』)

(うーん、まあ牽制はいいとして、人質に使うってプランは採用しないから、計算にいれるなよ)

(『イエス、マスター』)

(問題は、俺とみのりが同時には動けないってことだな……)

(『それは間違いです。たしかに、みのりの身体はマスター以外の制御を受け付けませんでしたが、マスターの身体は私がコントロール可能です』)

(だから、それがダメなんだよ! DALIが俺の身体を使うことは禁止だ!)

(『イエス、マスター。善処します』)

(なんで、そこで善処なの!? そこは『イエス、マスター』で終わってよくない!?)

(『確約できない場合は、仕方がありません』)

(…………もういいや。とりあえず、みのりが構わないって言ってると伝えてみるから、身体のメンテだけ、帰るまでに終わらしといてくれ)

(『イエス、マスター』)


 最近のDALIさんが自由すぎる。

 とりあえず、一旦みのりを連れてくるってことにして家に帰るか。でも、時間的には明日の方がいいな。今からだと遅くなってしまう。

 あとは、みのりとして会った時に、紅歌ちゃんがどうしたいか次第だし、みのりの家の部屋は余ってるから、俺としては別に困らないからな。懸念点もDALI曰く、牽制になるからプラスってことだ。

 さて、じゃあ戻って、明日改めて紹介するって話でもするか。

 

「——おまたせ」

「どうだったの?」


 奈美が結果を聞いてくる。

 

「ああ、みのりは構わないって話だ。ただ、一度会ってから結論は出しませんか? って言ってた」

「まあ、そりゃそうね。いきなり知らない人と同居って訳にもいかないだろうし」

「……あ、あの、みのりさんというのは? みのりさんのこととは違うんですか?」


 勝手に話を進めていた俺たちに、紅歌ちゃんから当然の疑問を尋ねられた。

 

「ああ、俺には妹がいて、名前が『みのり』なんだ。俺は漢字で、妹はひらがなで書くんだが」

「そうなんですね。それで、その妹さんなら一緒に住んでもいいってことですか?」

「そう。ちょうど、紅歌ちゃんとも同い年くらいだと思うから、ちょうどいいかなと」

「あの〜、みのりさんは一緒に住まわれないんですか?」


 紅歌ちゃんが、心配そうな顔をしながら聞いてくる。

 

「一緒には住まないけど、妹の家にはよく遊びに行くし、妹の周りには近い年の友達もいるから寂しいとかってことはないと思うよ」

「……そうですか、私としてはみのりさんと暮らしたかったんですが」

「ま、まあ、まずは家を出るってところを、実現してみればいいんじゃないかしら」


 紅歌ちゃんの様子に、奈美がフォローをいれてくる。

 しかし、改めて思うが、世間知らずもいいところだろ。これが俺たちじゃなかったら、言い様に言いくるめられて、借金漬けにもされてたんじゃないか? まあ、香貫火さんがいるから大丈夫だとは思うが。

 

「とりあえず、明日みのりと会ってみるってことでどうかな? この場は一旦解散ということで」

「そうね。紅歌ちゃんは、まずはお家に帰って、改めてどうするか考えてみた方がいいんじゃないかしら」

「えっ? 私、帰りたくないです! 今日はみのりさんの家に泊めてもらっちゃダメですか!?」


 まとまり掛けたと思ったら、振り出しに戻すようなことを言い始めた紅歌ちゃんに、俺たちは顔を見合わせ、小声で話し始める。

 

「……これ、どうしたらいいんだ?」

「知らないわよ。それにしても、なんでアンタなんかに惚れちゃったのかしら……」

「いや、惚れたとかではないだろう。偶々、初めて話した外部の異性ってだけで、舞い上がってるだけじゃないか?」

「……アンタって、ホントに思考する方向がアホのまんまね。……まあいいわ、紅歌ちゃんだけど、今日はアンタの家に泊めて上げなさいよ」

「なんだと!? ま、まあ、俺の鉄壁の理性を持ってすれば、紅歌ちゃんの安全は保証された様なものだから構わんが」

「……口元が緩んでるわよ。……やっぱり信用できないわね。昨日の変な態度のこともあるし、……私も行くわ」

「…………は?」

「ちょっと待ってて」


 奈美は俺にそう言うと、電話ブースに向かうと、どこかに電話し始めた。

 目の前では、捨てられそうな子犬の様な目で俺を見てくる紅歌ちゃんが、俺の答えを待っている。

 むう、可愛い。男の時にこんな可愛い子から、懐かれたことなどないからドキドキしてしまう。これは、このままお持ち帰りしていいのだろうか? いやダメだ! 条例という呪いがある限り、俺は間違いを起こすことは許されていない! しかし! 合意があればいいんじゃないか? この子なら合意してくれそうな気が……。

 

——スパン!


 俺が思考に耽っていると、頭を思い切りしばかれた。

 痛みに頭を抱えていると、その上から奈美の声が聞こえてくる。

 

「また、アホみたいなこと考えたでしょ? 私もアンタの家に泊まるから、そんな事は起きないから安心なさい」

「は? なに勝手に決めてるんだ!?」

「この子、このまま放っておけないでしょ? かと言って、アンタに預けるのも心配だしね。明日、みのりちゃんと会うまでは、アタシも一緒にいるわ」


 有無を言わせぬ迫力を醸しだしてくる奈美に、俺は首肯するしかなかった。

 

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