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DIVINE×HEART ― デウスの心臓は偶像の夢をみるか  作者: ponta-kun
第一部 できあがるは偶像
13/40

雨に濡れる偶像と笑う男

 強風の中でのライブではあったけど、会場にはしっかりとした対策がされていたので、盛況の内に終わることができた。

 帰りは姉が東京まで車で送ってくれることになったので、全員で姉のちょっとうるさいスポーツカーに乗り込んで、今は高速を走っている。

 

「急に進路を変えてきた台風の影響で、どうなるか心配だったけど、無事に終わって良かったわ〜。こうやって地域毎にファンを増やしていけば、テレビデビューも近いわね! そうなったら全国ツアーも見えてくるわ!」


 姉は上機嫌に話しているが、二人は疲れたのか、後部座席で肩を預け合いながら寝こけている。

「姉さん、もう少し声のボリューム落として。二人とも疲れて寝ちゃってるんだから」

「あら、ホント。二人とも可愛いわね〜。天使の寝顔だわ! 実、写真撮っといて!」

「まったく……」


 俺は呆れながらも、取り出したスマホでパシャパシャと二人の可愛い寝顔を収めていく。

 うーん、二人ともホントに可愛いな。同級生にこんな子達がいたら、さぞ男子共の視線を集めることだろう。俺なら確実に見まくってるだろうしな。羨ましい限りだ。

 

「ちょっと、アンタなにか不埒な視線向けてない? やめてよね〜。ウチの大事な二人を変な目でみるのは」

「失礼な、ちょっと周りの男子達が二人をどういう目で見てるのか想像してただけだ」

「ちょっと、口調」

「むっ……、って姉さんが変なこと言うからでしょ」

「はいはい、ごめんなさいね。それにしても流石に都内の電車はまだ動いてるわよね」

「……、大丈夫そう。特にまだ影響はでてないみたい」

「じゃあ、二人ともちゃんと家には帰れそうね。二人を新宿まで送ったら、ビルのこと聞きたいからアンタんち寄ってくわ」

「うーん、今日はちょっとやることがあるから、今度にしてくれない?」

「なによ、やることって? いつもの変な研究じゃないの? そんなのいつでもいいでしょ」

「また失礼なことを……。いやホントにやらないといけないことがあるの。だから今日はダメ」

「えっ……、アンタまさか、男にでも目覚めたんじゃないでしょうね?」

「んなわけないだろ!? っと、違うわよ。そもそも女の子に言う表現じゃないから、やめてよね」

「まあ、いいわ。それなら次の週末空けといて、家行くから」

「はーい」


 そうこうしてるうちに首都高にはいり、渋滞にも遭わず新宿に到着した俺たちは、寝こけていた二人を起こし、ちゃんと駅に入っていくまで見届けた。

 

「じゃあ姉さん、私もここでいいから。運転気をつけてね」

「アンタんち、すぐそこじゃない。このまま乗っていかないの?」

「ちょっと奥多摩の方に戻るから、ここでいいわ」

「あら、そうなの。……まあいいわ。そっちこそ気をつけて帰りなさいよ」


 姉はそう言うと、私を降ろしてエンジンを唸らせながら走り去っていった。

 

「さて、できる限りの装備を用意しますかね」


 俺は、色々と揃っている奥多摩の家に帰るべく、歩き出すのであった。

 

  +++++


「ただいま、DALI。試作装備のテスト状況を出してくれないか」

『おかえりなさい、マスター。試作装備A〜Eシリーズまでのテスト状況をモニタに表示します』


 俺は、あのハイジャック事件から、念のために作成を進めていた試作装備群の状況を確認すべくDALIに指示をだす。

 

「思ったよりもテスト終わってるな。観測にキャパ割いてたから、もっと遅れてると思ったんだけど」

『観測については、いくつかの廃棄されていた衛星のリソースを間借りすることで、私のリソースを空けることに成功しています』

「おお、そんなことまで、できる様になったのか」


 DALIは、生体コンピュータなので自己成長することができる。最初に作り出した時に比べるとかなり人間くさくなっていて、俺に黙って気を利かせてくれることも増えてきた。

 演算装置として考えると良くはないんだろうが、俺としては今の成長の仕方が好ましいと思っている。その内、俺が助手みたいになるかもしれないな、と思っていると、DALIが話しかけてきた。

 

『マスター、気象衛星からの観測データの分析を進めたところ、台風の進路変更直前に中心部にて瞬間的な気圧変動が観測できました。気圧変動の原因について予想されるものは、突発的な真空状態の発生による気流変化の影響である確率が51.3%、中心部における海流温度の異常上昇による影響である確率が44.9%、その他要因が3.8%と予想されます。真空状態の発生、または海面温度の上昇については、実際に事象が発生していた場合の発生原因は不明です』


 DALIの分析を聞く限り、恐らく真空状態を作り出して操作しているんだろうと推測できる。

 オッサンに聞いた、第七使途の力は風を操るものだって話だからな。おそらく風っていうより気流操作でもできるんじゃないか? しかし、どうやって大気に干渉してるんだか。

 まあ、そんなことを言い出せば、この心臓の重力フィールドの発生源も謎だしな。その辺をいま考えても仕方ないか。


 DALIの報告で逸れた思考を戻して、装備について確認を進める。

 正直言って、台風のエネルギーは膨大だ。あの雨雲に含まれる水の総質量も旅客機なんかとは全く比較にもならない象と蟻を比較するようなものだ。

 果たして、あんな自然現象の化け物をどうにかできるのか……。本当に自然現象なら諦めは付くんだがな〜、と思いつつ、どうやって台風を逸らせるか、はたまは消し去れるのか、台風の暴風圏に本州が入るであろう朝方まで悩み続けていた。


  +++++

   

 明け方、日が昇る前に俺は伊豆半島の南、約五十キロ付近の海上で雨に打たれていた。

 

「しかし、なんでこんなヒラヒラした乙女チックなデザインになってるんだ……」


 俺は、身につけている装備に目を落とし、改めてため息をつく。


 装備の最終的な作成はDALIに任せていたんだが、俺が最初に設計していたデザインとはかけ離れた、アニメにでも登場しそうなデザインの装備が出てきた時は驚いた。

 DALIになんだこれ? と聞くと『マスターに相応しい装備をご用意するのが私の役目です』と言われ、元の設計の時のデザインはどこにいったのかを聞けば、『あんなダサいモノをマスターに身に纏わせるなど許容できるはずがありません』と怒られた。

 いや、そのマスターが設計したのに……。姉にも買っていた服を全部捨てられたが、俺ってそんなにセンスがないのか? と少しヘコみながらも、目と鼻の先にまで迫っている台風を観察する。

 

「やはり、規模がすごいな……。最低でも直撃はさせないようにしたいが、どこまで出力を上げられるか次第だな」


(『マスター、準備をお願いします。オペレーション開始まで、残り五十二秒です』)


 DALIから通信が入る。

 

「はいはいっと……、じゃあいきますか」


 俺は、持ってきていた試作装備の一つ、『重力ビット』をいくつか射出する。

 これは俺の重力フィールドで浮遊するだけの発信器みたいなものだ。だが、その効果は高く、こういった目標物のない場所での、重力フィールドの展開時における演算の起点となってくれ大いに役立つ。

 おかげで領域の演算負荷が下がるので、広大な重力フィールドでも俺だけで構成できるわけだ。

 とはいえ、演算能力も出力も余裕はなくなるだろうな。と思いながら俺は限界を超える。

 

「『オーバーロード』」


 その瞬間、俺の周囲に金色の光が輝く。

 黒かった髪は朱金色に輝き、まるで無重力空間にいる様に揺らめき始める。

 その背中からは、一対の翼が拡がり、周囲に光の粒をばら撒きながら強く輝いていた。


「さてと、リミットは三十分ってところかな」


(『マスター、オペレーションスタートまでカウントダウンを開始します。10……9……8…………1……0』)


 俺は、DALIが「0」と告げた瞬間に、既にポイントに移動させていたビット達を起点に、重力フィールドを最大出力で展開する。

 流石に台風を全て覆うようなフィールドは無理なので、今回はかなり分厚く広い壁みたいなモノを作った。台風がこの壁の中に入れば、台風自身が持っている水蒸気の重さを増してやるだけで、そのまま雨として海に帰っていくって寸法だ。

 これなら元々の水分子の持つ重さを利用できる分、広範囲に展開できる。元々の台風の性質を利用したエコな方法だ。

 あとは、台風の持つ質量の四割ほども削れれば、バランスが崩れて熱帯低気圧に変わるはずだ。最悪、そこまで削れなくても、二割も削れれば、進路は南に逸れていくはずなので、何も横やりが入らなければ上手くいくだろう。

 まあ、例の第七使徒の仕業なら、何かしら横やりを入れてくるだろうが。

 

(『マスターの右手60度から、接近する力場フィールドを感知しました。コード<オッサン>、<ミリア>とはパターンが異なります。第七使徒である可能性が高いです。ご注意を』)


 俺が重力フィールドを展開してから、十分ほど経った頃、DALIから接近警報が入る。

 さて、想定はしていたから対応はできるとは思うが、まずはこんなことをするやつのご尊顔を拝見させてもらいますかね。

 俺はもう視界に入るであろう位の距離まで近づいてきたヤツの方に向き直る。


「あなたが、第七使徒さん? ずいぶんと派手なことをなさるのね」


 俺が声を掛けると空中を滑るように移動していた影は停止し、恭しく頭を下げて礼をしてきた。

 

「これはこれは、御使い様。まさか、私などの事をご存じとは恐悦至極でございます。どちらでお聞きになられたのかは存じませんが、……改めまして、西方教会にて第七使徒の任についております、『ウィルギリス・エイラミル』と申します。是非ともウィルとでもお呼びいただければ嬉しゅうございます」


 とても胡散臭そうな挨拶をしてきたウィルギリスという男は、思っていたよりもずっと若く20代前半程度に見える金髪のイケメンさんだった。どうにも男として完全に負けている気がして、すごくイラつくが、今はそれどころではない。

 

「そう。で、そのウィルさんは、何故こんなことをされるのかしら?」

「こんなこととは? そちらの台風のことですかね? それは御使い様にお会いするためですよ」


 ウィルギリスと名乗った男は、悪気など一切ないかの様に深い笑みを浮かべて自分がやったことだと宣言する。なんか、オッサンの言ってたとおりに性格が拗くれてそうな感じだ。

 

「では、私に出会えたのであれば、あれはもう不要ですね。消してくれませんか?」

「そうですねぇ、私もそうしたいのは山々なんですが、あそこまで成長してしまった台風を消すなど、私如きの力ではとてもとても」


 笑みを湛えたまま、とてもそうとは思って無いであろう言葉を吐いてくる。

 この野郎、としこたま殴りたくなってくるが、今はそれどころではないので、何もする気がないなら相手などしていられない。

 

「わかりました。では私がなんとかするので、あなたは何も手を出さないでください」

「おお! 流石は御使い様! あの規模の台風をなんとかされると。素晴らしい! どうやら本物のご様子だ。この迸る神々しいまでの力場フィールド! 是非とも貴女様がなさる奇跡をこの目で拝見させていただく機会を頂戴できますれば」


 また恭しく頭を下げてくるウィルギリスに、胡散臭さを覚えながらも、相手はしていられないので放っておく。

 

「好きにしてください」

「ありがたき幸せ」


 より笑みを深くし、こちらに顔を向けてくる。……なんかねっとりとした視線を感じる。気持ち悪い。

 オッサンに見られた時もねっとりとした視線だと思ったが、こいつのはその数十倍はねっとりしてる。これか? 女性が感じる気持ち悪い視線って。俺もこんな視線を向けてるってことなのか? そうだとしたら、かなりショックだ……。と、ヘコんでる場合じゃないな。

 俺は、前方の重力フィールドの制御に意識を向ける。……順調だ。このままなら、あと十分もかからずに四割分を削れそうだ。

 

(『マスター、コード<ウィルギリス>を中心に力場フィールドの増大を観測。対象への警戒を』)


 DALIからの警告を聞いた瞬間、俺はウィルギリスの方に視線を向ける。ヤツは両腕を伸ばし何かを空中に描いている様に見えた。

 

「見ているだけじゃなかったですか?」

「いえいえ、やはり御使い様のなさる奇跡を、私如きだけで拝見するのも悪いのではないかと思いましてねぇ。是非とも敬虔なる信徒の皆さんにも目の当たりにして欲しいじゃないですかぁ。本当の奇跡と言うモノを!」


 いやらしい笑みを浮かべながら、ウィルギリスが声を張り上げた途端、俺は身体に大きな衝撃を受け、一気に空中を飛ばされる。

 この野郎! と思い、重力フィールドで踏みとどまろうかと思ったが、今は台風の対処に手一杯で、こちらにこれ以上の出力を回す余裕がない。

 俺はヤツに押されるがまま、伊豆半島が目前に迫る位置まで飛ばされてしまう。

 

「この辺りまで来れば、充分に人目に付きますかねぇ」


 俺と一緒に移動してきたウィルギリスが、相変わらずの笑みを浮かべながら呟く。

 

「いきなりとは酷いですね。何のつもりですか?」

「いえねぇ、先ほど言った通り、私が一人で拝見するには、あまりに勿体ないと思いましてねぇ。是非とも皆さんにも見て頂きたいなと、気を利かせた訳ですよ」


 なんてことを言っているが、まだ明け方もいいとこだ。太陽は出ておらず、辺りは真っ暗で、伊豆半島の先っぽじゃあ人目なんてあったもんじゃない。

 なのに、こいつは何を言ってるんだ? と思っているとDALIから通信が入る。

 

(『マスター。現在地周辺にいくつかの報道ヘリを確認。また半島の南端部に人間らしき生物反応も多数確認できます』)


 DALIからの報告で、辺りを探ると五百メートルほど離れた上空に数機のヘリを確認できた。

 

「やはり、『天使』様の名前は偉大ですねぇ。随分と集まってくれている」

「……アナタの仕業かしら。あのヘリや、海岸付近に集まっている人たちは」

「ええ、是非とも御使い様の奇跡を世界に見て頂きたくてですねぇ」

「アナタたち、天人ネフィリムって公になってないんじゃなかった? こんなに目撃されていいものなの?」

「ええ、今まではそうでしたねぇ。ですが、御使い様が現れましたので、状況は変わりました。これから世界は、救済に向けての終末の時代が始まりますから、隠す必要なんて無くなってしまいましたのでねぇ」


 終末とか何の話だ? こいつに聞いても適当なことしか言いそうにないし、今度オッサンにでも聞くか。

 しかし、こんな連中のことが世間にバレて大丈夫なのか? とはいえ、もうカメラに映ってるだろうしな……。なるようにしかならんか。

 

「では改めて言いますが、目的を達したのなら、もう邪魔をしないでください」

「えぇ、もちろんですよ。大変失礼なことをいたしました。罰はいかようにでも」


 うさんくさい態度で頭を下げるウィルギリスから、重力フィールドを展開している沖の方に視線を向けた瞬間、上から衝撃を受け、俺の身体は急降下する。

 なんとか、海面すれすれで体勢を立て直し水没は免れたが、おかげで台風を削っている重力フィールドに揺らぎがでてしまった。

 

「邪魔はされないんじゃなかったですか?」


 俺はウィルギリスにキツく視線を向けた。

 

「すみません。しかし、つい貴女が本当の御使い様なのか疑問に思ってしまいましてねぇ」

「……」

「いやぁ、貴女の力は素晴らしいです。私など比較にならないでしょう。しかし世界に救いを齎すしゅの御使い様であれば、あの程度の台風など瞬時に消し去ってくれると思うじゃないですかぁ。それが足止めするだけで、しかも私如きの力も捌けないとなるとねぇ。……それならば本当の御使い様なのか、どうにも確認してみたくなりましてねぇ!」


 喋りながらも両腕を動かし続けていたウィルギリスが語気を強めた瞬間、俺の翼に衝撃が走った。


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