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第一章 出会い

……………


………


……ここはとある世界。モンスターや亜人種様々な種族がそこら辺にいる当たり前な世界。その世界を旅する勇者ご一行。とっても強くて頼りになる女勇者のヴァル。元気いっぱいお転婆娘のリコン。冷静かつ毒舌女賢者のレイス。そして……


「ハッハッハ!遅いぞエルフくん!まだまだ先は長いぞー!」


この世界ではごく稀で珍しい男の子のエルフのフィオ。彼はこのパーティーで唯一の男の子……なのだが……


「………」


現在進行形で凄くご機嫌斜めなのであった。彼は強引にパーティーに入れられたのだ。もう帰りたいと言わんばかりのしかめっ面の表情である。するとヴァルは近付いて


「こらこら、そんなむすっとしないでおくれよ。折角の美少女にも劣らないどころかむしろ勝る可愛い顔が台無しじゃないか」


と言って頬に手を伸ばす。すると彼は手を振り払い


「僕は女の子じゃないです……」


と言い、更に不貞腐れてしまう。悪いことをしたと自覚のない彼女は可愛いよなぁ!?と二人に聞く。すると


「うんうん、可愛いよ!私の次に可愛い!!」


「リコンはどうでもいいです。そうですねぇ、いっそのこと股にぶら下がっているものを取ってしまえばいいじゃないですかフィオ?そうすれば女の子になりますよ多分」


この有り様。フィオはすっかり拗ねてしまい、


「勇者様なんて大嫌いです」


「ズガーン!なんでだ!褒めているんだぞ!誇りに思うんだエルフくん!」


「つーん……」


「あはは!まーたヴァル様がフィオくんを怒らせた~!おもしろ~い!」


「全く、勇者様の“ど”が付くほどのアホさには呆れますわ。と言うかいつになったら静かになるのかしら。煩いのは嫌いなのよねぇ」


こんな様子で勇者ご一行は宛もない旅をしている。しかし、こんなに騒がしく成ったのはフィオが仲間になる前の出来事であった。



ーー第一章 出会い


僕の名前はフィオ。齢100歳を間近にしたエルフです。普通の森にぽつんと木の家を建てて一人住んでいます。僕は10年前に夢のマイホームを建てて、ゆったりと暮らしています。しかし、どういったわけか、噂を嗅ぎ付けたのか、なんの偏狭もない森に人はやってくる。例えば


「ヒャッハー!!お前を捕獲して売り飛ばしてガッポガッポだゼェ!!」


僕を捕獲しようと集まってくる鶏冠頭の賞金稼ぎ達。おそらく奴隷商人に高値で売り付けるのだろう。または、


「俺と仲間になれよ!海へ出ようぜ!」


僕を仲間にして海へ連れていこうとする人。僕は別に海に出たくない。というかどっかで見たことのある人のような……。または、


「俺と友達になろ!」


謎の腕時計を手にした少年に友達になろう宣言をされる。僕は別に友達が欲しいと思わない。というかこれもどっかで……。しかし関係無い。丁寧に門前払いしてしていただきました。どうやって?それは簡単。まず、守護ゴーレムを生成します。これは生成者の強さ、魔力によって差がありますが、二体で良いでしょう。次に僕の魔法を伝授します。次に戦術。最後は非戦闘時における充電モードと戦闘時における臨戦態勢を瞬時に行えるようセッティングします。勿論、生成者である僕以外は全員敵と見なし、攻撃してきたら容赦なく応戦するようにしています。ね、簡単でしょ?

これで僕は家でゆったりとお昼寝が出来るわけです。まぁ、断末魔のような悲鳴が五月蝿いですけど……。因みに、敵がきたら一応信号が僕に来ます。強さに応じて遠距離から適当にエンチャント出来るので家から出る必要はありません。僕が睡眠中でも側に置いてあるエンチャントゴーレムが代わりにエンチャントしてくれるのでやることなし。

これで四六時中襲われても大丈夫。ゆったり生活を送れる……はずでした。


「んー!今日もいい天気!晴れているので、日光浴しますか~」


※エルフは大樹から生まれるとされる特殊な亜人種で、植物と同じように光合成を行える。これにより、養分を作り出すことで、何も食べなくても養分で賄うことができる。但し、水が必要なので砂漠などの厳しい環境では適応性が低い個体が多い。


日の光を一杯に浴びての昼寝は最高に気持ちいい。ちょっとしたガーデニングの野菜達と干している洗濯物も一緒です。こうしてのんびり暮らすのは至極。……のはずでした。


「やぁやぁそこの可愛いエルフくん!君が此処等で噂のエルフくんかな?」


…また変な人がやって来ました。僕は怒りました。沸点が低い?いえいえとんでもない。例えば、至福の時を邪魔されて怒らない人はいないでしょう。僕もまたその一人です。真っ先に声の主を睨み付ける。今度は女の人が三人ですか。


「なんのご用で?」


「まあまあそう怒らないでくれ。昼寝の邪魔して悪かったよ。私はヴァル、勇者だ。此方が武道家のリコン。で、賢者のレイスだ。」


喋っているリーダーの女の人の後ろで元気そうに手を振りながら跳ねている人と、ペコリと礼儀正しく会釈している人が居ました。


「そうですか。で、ご用は?」


「うむ、では単刀直入に言おう!私の仲間にーー」


「お断りします」


さらっと拒否。当然です。そんな茶番に付き合えません。それなのにも関わらず彼女は続けます。


「なんでだよぉ〜!まだ言ってる途中なのにそんなあっさり断らなくてもいいではないかぁ~!もう少しお話しよう!君の出したお茶でゆっくり話そうじゃないか!」


図々しい。しつこい上になんと言う図々しさ。しかも駄々をこねる子どもよりも酷い。もういいです。帰って貰いましょう。


「……良いでしょう。ならお帰りください。お話は終わりですさよなら」


丁寧にお辞儀をして家に行きます。それと同時に守護ゴーレムが攻撃を開始します。僕が敵と見なしたので待機中だった彼等が動き出したのです。一応エンチャントをしておきます。これだけ不快になったのは今までで一番ですから。さてと、後片付けの準備を……


「まあまあそう連れない態度を取らないで、お話しようよ」


「!?」


突然肩をポンと置かれ、声を掛けられる。それだけじゃない。気配を感じられなかった。慌てて振り払い後退する。見ると、ゴーレム達が真っ二つにされ、停止していた。あり得ない。どうやって彼等を?


「さてさて、お話しようかエルフのフィオくん……いや、奇面の英雄くん」


「!!」


刹那、僕は彼女との間合いを詰め、斬りかかっていました。勿論、彼女が止めれることを知っていて。剣を交えながら僕は彼女に問い質しました。


「何故、何故貴女が知っているのですか?」


「噂でね。イヤァ〜君を見つけるには苦労したよ~。30年前に居なくなってその間手掛かりなしだったからね~。」


余裕の表情を見せながら彼女は語る。それが腹立たしくて仕方なかったです。何故なら彼女は僕の過去を知っている。もみ消した筈の過去を。


「ちぃっ!」


舌打ちをして僕は下がる。このままつばぜり合いしても意味がなかったからです。


「どうかな?私とお話する気になったかい?」


満面の笑みで僕に訊ねてきました。僕は苛立ちが止まりません。昼寝の邪魔をした挙げ句、そんな笑みを見せられたら普段はこんなに怒らない僕も頭が沸騰するくらい怒りがこみ上げてきました。しかし、ここで感情に身を任せるのは得策ではないのでここは冷静に気持ちを抑えました。


「……良いでしょう。但し、貴女が僕を倒したらの話ですからね」


天に手を掲げ、ゴーレムから魔力を吸収。彼等は僕の分身のようなものなので全ての力を元に戻します。念には念を。この人には本気で行かなければならない。それも殺すつもりで。何故ならたった一撃でゴーレム二体を打ち倒したのだから。魔力の吸収が終わり、ゴーレムだったものは自然に還りました。魔力が満タンになり、臨戦態勢に入っても彼女は余裕そうでした。


「ほほぅ、凄い力だ。」


僕は集中して魔力を溜める。火、水、地、光、闇の種類の属性魔法があるが、僕はこの全ての属性を使うことができる。しかし、


「殺すつもりはありませんが、殺すつもりで行かないとこっちがやられそうですからね。覚悟してください……審判の雨ージャッジメントレイー!!」


無属性魔法の審判の雨ージャッジメントレイー。これは無属性魔法の中で最も破壊力のある僕が作り出したオリジナルの魔法。人間の魔法使いには到底会得など不可能の魔法を彼女にぶつける。こうでもしなければゴーレムを一瞬で壊す彼女にやられてしまう。そして、僕の魔法は無数の光剣が一斉に雨の如く降り注ぐ。間違いなく直撃。その筈でした……。しかし、土煙が晴れると


「そんな……無傷?」


なんとそこから微動だにせずに彼女は仁王立ちで立っていた。しかも傷一つついていない。


「中々やるな。しかし、私はその程度ではやられないぞ?」


「ならば……ふんっ!!」


両手を地面に突っ込み、無数の植物の根を生やす。これは僕の大技の一つでとある植物の操って攻撃する技なのですが、


「素晴らしい!世界樹じゃないか!これ程までとは!」


どうやら彼方も知っていたらしい。これは地中の何処かにに眠る世界樹を操り、攻撃する。その破壊力は全ての貴金属類で最強の強度を誇るオリハルコンすら容易く砕く。そして僕が使用する技名は


「大地の千本槍ーアースサウザンドジャベリン ー!!」


世界樹の根が無数の槍になり、相手を粉砕させる。魔法がダメなら物理をぶつける。槍が彼女を襲うも、容易く避け続ける。それでも幾つかは当たっている。しかし、効かぬと言うなら……


「今のは効いたなぁ……しかしこの程度ではまだまだだ。」


やはり効かない。しかも今の大技で僕は六分の一の体力を消費した。これほどの攻撃をあと5回放ったとしても倒せる保証もありません。こんな事は初めてですから


「おや?来ないのかい?ならこっちも行かせてもらうよ?」


来るっ!防御の構えをし――


「え」


気付けば僕は宙を舞って、更に


「かはっ!!?」


凄い勢いで地面に叩きつけられました。何が起こったか理解が追いつかず、空を見上げていました。薄く防御魔法をかけていたので軽傷ですみましたが、彼女の押さえつける力に抗えません。


「どうだい?参ったかな?」


彼女が和やかに微笑みながらの問いかけに僕は恐怖と同時に悔しさを感じました。この世界に生まれてから味わう初めての屈辱感と敗北。この人には敵わないと分かっていても負けるという悔しさが込み上げて来ました。


「……参らない、と言ったら?」


「君は降参する。分かっているだろう?」


「……降参します」


そう言うと彼女は微笑んで解放してくれました。何倍もの重力が押さえつけていたのでしばらく晴れた青い空をぼんやりと眺めていたのを今でも覚えています。彼女が顔を覗くように見ると僕は尋ねました。


「どうして僕を?」


その問いかけに彼女は


「君が気に入ったから。そして私のモノにしたいと思ったから」


大層傲慢なことを述べた彼女は顔を近づけてこう言いました。


「私の名前をもう一度言う。私の名はヴァル。今日から君は私のモノだ」


そして屈辱とも言える口付けをされ、僕の意識はとろんと溶けるように消えていきました。


……………………


…………………


………………



……何だろう、とても温かい。ふわふわしてて気持ちいい


「……オ君……フィ〜オ君♪」


……誰かが呼んでいる。とても優しい声で。そうだ、起きるんだから手を伸ばさなきゃ…


フニュッ


「やんっ♡フィオ君ってば大胆♡」


……ん?柔らかい?そしてこの声は何処かで……


ゆっくりと瞼を開けると、肌色の柔らかいモノが僕の顔の前にありました。寝ぼけた顔で視線をあげると、


「おはようフィオ君♪目覚めの抱擁は如何かな?」


髪は下ろしていて暫く分かりませんでしたが、僕を倒した女勇者様である事に気付き、尋ねました。


「……どうしてあなたは裸なのでしょうか?」


状況を説明すると、僕はベッドに寝かされていて、その上に一糸纏わぬ姿の彼女が覆い被さるように身体を押し付けているという感じでした。女の人の裸は多少見慣れてはいるものの、やはり恥ずかしいので視線は少し外れます。


「おやおや?私のカラダは気に入らなかったかな?でも私は君のカラダは気に入ったよ♪本当に綺麗でツルスベな肌♪スレンダーな体型、カワイイ寝顔も堪能させて貰ったよ♪あ、大丈夫まだ何もしてないぞ?ホントだよ?」


…成る程、道理でスースーすると思ったらそう言うことですか。僕を打ち負かした挙句、こんな辱めを与えると。確かに負けは認めますが、こんな事を、しかも僕の家でするとは……


「あ、あれ?何してるのかな?え、待って待って、目が笑ってないよ?そしてあからさまに分かりやすく魔法を演唱しないで。見るからにヤバそうなヤツやめて。ね?ね?話せば分かるから。まだ襲ってないよ、いやコレホントだから。確かに服をはだけさせてキレイキレイにはしたよ?でもね襲ってないよ?セーフ、セーフだよ。気絶している君を襲うほど私はヘンタイじゃない。そりゃ君を見て興奮したよ?でも襲ってないよ?だからね、目が覚めたから目覚めの営みをーと思いましてー」


僕は無言で魔法を演唱していました。その時の顔はおそらく笑顔だったのでしょう。彼女は何か述べていらっしゃるようですが、こちらは聞く耳を持ち合わせていないので、吹っ飛んでいただきましょう。まぁ彼女は頑丈ですので全力で行かせてもらいましょう。


「ちょ、ちょっ待ってホント、やめてね?ここで爆発系魔法演唱しないで?君の家、君の家だよ?ね?だからやめよ?粉々になっちゃうよ?しかも無防備な女の子にそれはないんじゃないのかなぁ?女の子には優しくっておそわらなかったのかな?レディファーストって言葉知らないのかなぁ?…あのお願い、待って、タンマ、やめて。お願いだから指先をこっち向けないで。よし分かったこうしよう。一回、一回だけにしよう。先っちょ、先っちょ付けるだけだから。…いやホント、マジ勘弁して下さい。ごめん、ごめんて。そんなん食らったら流石の私もヤバイから、マジでーー」


と言うのが彼女の最後の言葉で、僕は「大爆発ーエクスプロージョンー」を直に唱えました。


ーーーー


ーーー




……とまぁこんな事があり、自分の家が吹っ飛ぶほどの威力の魔法を唱えてもヴァルは少し焦げただけで済み、マイホームが半壊したエルフの少年フィオは現在進行形で不機嫌である。ほとんどが自業自得ではあるが


「はぁ〜……」


大きく溜息を出しながら歩く。何しろこのショタコン女勇者に負けてしまったのだから。それだけではなく、お腹に紋章を描かれてしまい、ついていかなければならない羽目になってしまったのだ。これは生き物を私物化するものでいわゆる奴隷扱いにされるようなものだ。それを無理矢理されたのだ。不機嫌である事も肯ける。


「なぁなぁ、機嫌を直しておくれよ〜フィオ君〜」


何度も機嫌を直そうとヴァルは声を掛けるが、全く聴く耳を持ってくれない。そうこうしているうちに森へと差し掛かるところで日が沈み掛けていた。


「勇者様、今日のところはこの辺で野宿といきましょうか。森の中では危険と思いますし」


「うむ、そうだな。では準備しよう」


「わーい!ご飯だご飯〜!」


各々が準備をする中フィオは森の方をじっと見つめていた。


「フィオ君〜、すまないが寝床を作ってくれないか?君の魔法なら良いのが作れそうなんだがー」


「……」


しかめっ面でヴァルを睨みながらも仕方なしに創作魔法で植物を動かし、其々の寝床を作った。それだけではなく、土を固めて小型の小屋のような物を作ったのだ。


「ほぉ〜、中々良い物だな。でも何で四つにしたんだい?」


「それぞれ一人で寝れるでしょ?」


「フィオ君は私とーー」


「却下です」


「え〜、一緒にーー」


と言いかけたところで無言で指を指される。指先には魔力が宿る。フィオはにっこりと笑みを浮かべている。


「何か?」


「…イイエ、ナンデモゴザイマセン」


ヴァルは既にトラウマになった笑顔を見て流石に心が折れたのか引き下がった。フィオは溜息を吐くと、再び森の方を見ていた。



ーーー

ーー


夕飯を食べ終わり各自が寝支度を始めた。そんな中、フィオはずっと森の方を見ている。気になったヴァルがどうかしたのかと尋ねると、


「夜の散歩に行ってきます。先に寝てて下さい」


と言って彼は森の方へと入っていった。他の者は特に気には留めずに寝支度を再開した。





ーー夜の森


森の中は静かで僅かな月明かりが差し込んでいる。と言うよりも静かすぎるようにも感じる。普通なら夜行性の動物や魔物の気配も感じるはずなのだが、それすらも感じられない。フィオは更に深く入っていき、少し広くなっているところに出て、足を止める。面倒くさいときによくやる溜息を吐きながら口を開いた。


「いるのでしょう?出てきなさい。僕達をずっと付けていたのでしょう?」


呟くように、それでも静かすぎる森には十分聞こえるような大きさで言う。すると、背後から足音が聴こえる。そこには長い赤色の髪をした女が立っていた。服装は獣で作られた身軽な軽装、顔立ちは美形だが、左目の方に引っ掻かれた傷跡がある。姿を見れば恐らく盗賊か賞金稼ぎだろう。女は妖しい笑みを浮かべながら口を開く。


「ヘェ、よくわかったわねェ〜、何時から気づいてたのかなぁ?」


フィオは振り返り、対等すると


「森が静かすぎましてね、貴方達の仕業でしょう?数は……40人ですか。そこら辺の魔物まで狩り尽くしてるかと。ま、どうせ目的は僕なのでしょうが」


フィオはそう言ったが、女は顔色一つ変えずに


「よく分かってるじゃないか、お前等出てきな」


女の合図と共に、ごろつき達がウヨウヨと木陰から出てくる。皆不気味な笑みを浮かべながら周りを囲んでいる。40人もの柄が悪い男や女がゾロゾロと寄ってくる。しかしフィオは顔色一つ変えず、寧ろ呆れ顔で首を横に振る。


「やれやれ、たかが人間のごろつきを寄せ集めたところでマンパワーにもならんというのに……愚かで脆弱な人間のする事には、本当に…呆れてしまいますね」


ごろつき達は彼に言われたことに対して少し苛立ちを見せていたが、女盗賊は妖しい笑みのままクスリと笑う。


「まぁこいつらはアンタの言う通りただの寄せ集めさ。だから…」


パチンッと指を鳴らして合図すると、ごろつき達がフィオを捕まえようと一斉に飛び掛かって襲ってくる。


「こいつらを倒したらアタシが相手してあげるよ」


血相を変えたごろつきの1人が最初にフィオに触れようとするが、それを交わしてカウンターで地面に叩きつける。ごろつきの頭は地面にめり込む。それでも次々と襲い掛かるごろつき達を一人一人相手にするのが面倒なので足をトントンと二回軽く踏むと、地面から植物が生えてくる。その植物はごろつき達を縛りつけ、動きを封じた。


「う、動けねぇ…」「何だこの植物!?」


口々に喋るごろつき達を他所にフィオは女盗賊に向き直る。


「……さて、最後は貴女で…むっ」


ガチャリとフィオの腕に手枷がはまった。鎖を女盗賊が握って引っ張っている。彼女はニヤニヤしながら


「ふふっ♪これでアンタも終わりよ♪」


「終わりなのはどっちで……おや?」


フィオは怪訝そうな表情で魔法を放つが、発動しない。それどころか自分の力が押さえつけられているような感覚に襲われる。


「これは…」


「そう、エルフの源、自然エネルギーを完全に抑える魔封じの枷さ。しかもこれはあるお方の特注ものでねぇ。例え強いアンタでも力が発動出来ないでしょ?」


「…なるほど…道理で力が……」


フィオは女盗賊の説明を受けながら、膝を着く。女盗賊が近づいて彼の顎をクイっとあげる。


「アンタの力が出ない今、私の力で簡単に屈服させれるわ♪さぁ、目を見なさい♪」


彼女が瞳を妖しく光らせる。その目をフィオは見てしまい、全身の力が抜けたようにへたり込む。勝ったと確信した女盗賊は更に


「フフ、いい気味ね♪どうかしら、私の魅了の魔側は?動けないでしょう?あのお方に渡す前に調教してあげる♪私は可愛い子には目がないの♪傷モノになっちゃうかもだけど別に構わないよね♪さあ、私とキスを交わすの♪ゆっくり犯してあげる♪」


フィオは何も抵抗することなく、ただただ呆然として女盗賊が顔を近づけるのを見ていた。女盗賊は高揚した表情で顔を近づけたその時、呆然としていたはずのフィオの表情が一気に不気味な笑みに変わった。


「ホント、浅はかで気持ち悪いですね」


「!?」


そう言うと、女盗賊の手をガシッと鷲掴みにして、突っぱねた。突っぱねられた女盗賊は後方の木まで飛ばされて、身体を打った。大した衝撃ではなかったが、驚いた表情で彼を見る。口角がわかりやすい様に上がっていて、まるで三日月のような口の形をしたどす黒い悪魔のような笑みを崩さずにこちらを見ている。手枷は繋がったまま、魅了もした、力は出せない状態のはず、女盗賊は混乱しはじめた。


「貴女のおかげで自然エネルギーは押さえ込まれましたが、闇のエネルギーまでは押さえ込むことが出来なかったみたいですね。その程度の枷では僕を封じることは出来ませんよ」


フィオは女盗賊に近づきながら説明する。女盗賊はただただ、唖然としていた。


「あ、アンタまさかエルフじゃなくて、ダークエルフなの?!そうでなきゃこんなどす黒い闇のエネルギー放出できないわ!」


女盗賊が喚く内容に対して、フィオの表情は笑みから不機嫌な表情へと変わる。


「彼らと一緒にしないでもらえますか?僕は純粋なエルフですよ、闇のエネルギーが使える普通のエルフです。自然の力が無くとも、このエネルギーだけで貴女を葬るには勿体ないくらいです。では、お話はこれでおしまいです。お礼に消炭にして差し上げましょう。大丈夫、抵抗しなければ痛くしないので」


彼が手を女盗賊に向けて魔力を溜める。女盗賊はワナワナと震えて動けない。口はパクパクと何かを発声しようとするが声はでず、身体はガタガタと震え、涙がボロボロと溢れる。死の恐怖を間近にし、許しを乞うような愚かな表情をフィオは決して同情する余地もなく魔力を増幅させる。


「死になさーー」


魔力を放とうとしたその時、彼の身体はまるで母親の様な抱擁で包まれる。魔力を放とうとした腕をそっと後ろから添える様に押さえ込み、その魔力を消し去った。彼は突然の事で驚いたが、この感覚には覚えがあった。


「……なぜ邪魔をするのですか、勇者様」


抱き込んできたのはヴァルだった。


「そこまでだよフィオ君、よしよし怖かったね。大丈夫、私が来たから」


フィオを安心させるかの様に彼女は頭を撫でる。フィオは抵抗しようとしたが、何故か身体が動かない事に気付く。


「勇者様、一体…な、なに…を…」


そして急激な眠気に襲われ、言葉をうまく発せなくなっていた。


「あとは私に任せてゆっくりお休み」


頭を撫でながらそう呟くと、フィオは邪魔をするなと言いたかった様だが、それを発することも出来ずに眠り始めた。力が無くなり、倒れかかった彼をヴァルが優しくお姫様抱っこして、眠る彼の穏やかな表情を眺めながら微笑む。そして女盗賊を見向きもせずに背を向けて帰路へ着いた。女盗賊は助かったのかと惚けていたが、はっと我に返りヴァルに叫んだ。


「な、なぜ助けたんだい?!アンタ何者なんだ!?」


彼女の叫びにヴァルは止まり、背を向けたまま話す。


「勘違いするな、私はフィオ君を迎えに来ただけだ。お前を助けたんじゃない。命が助かっただけでも感謝しろ。あと、大の大人が漏らしてんじゃないぞ」


ヴァルがそういうと、女盗賊は自分が失禁していた事に気付く、慌てて抑えると恥ずかしそうに顔を真っ赤にして言う。


「お、覚えてなさい!またそのエルフを捕まえてやる!私だけじゃ無いわ…次こそはどんな奴を使ってでも、策を練って絶対に捕まえに行ってやる!」


そう叫ぶ声にヴァルは動じることなく返す。


「好きにしろ、あのお方とやらが何の目的でフィオ君を狙うかは知らないが、これだけは言っておく」


ヴァルはそう言うと、女盗賊の方を顔を向けて言う。


「次は私がお前を殺してやる」


それだけを言うと、さっさと行ってしまった。女盗賊は再び恐怖に苛まれる。さっきのフィオが放った表情よりももっと恐ろしいとても勇者とは思えない表情が頭の中に深く刻まれたのだ。そして、


「私は、とんでもない奴を敵に回したのかも知れない」


と、今更ながらにボロボロと溢れる涙を流し、震える自分の身体を抱き締めながらその場にへたり込んでいた。



ーーーー

ーー



ー……何だろう…とても温かい……落ち着く……


「……うーん」


フィオは何かに包まれるような温かい眠りから覚める。そして何かに抱かれている感触に気付く。またあの感触だった。そしてその犯人は勿論、ヴァルだった。彼女は気持ちよさそうな寝息を立ててフィオを抱き枕のように抱いて眠っている。フィオは眠気が少ししたが、意識をはっきりさせると同時にムッとして彼女の顔を手で押す。ふぎゃふっと彼女が呟くと彼女は目を覚まして眠そうに呟く。


「フィオくん、おはよう」


「おはようございます、あの、離れてくれますか?」


相変わらずムッとした表情で話す彼に彼女は優しく更に抱き付く。そして昨日と同じように頭を撫で始めた。


「いいじゃないか、もう少しだけこのまま…グヘヘ」


優しく抱き付かれる抱擁に彼は少しだけ気が緩んだ。まるで1人でお茶を飲んでほっとしているかのようなそんな気分になった。しかし、それが一瞬で消し飛んだ。何故なら…


「イタタタタタタタタっ!!痛いっ!痛いって!」


ヴァルが彼のお尻をさすさすと触っていたのだ。その手の甲をギュッと摘み込み、更に捻ったのだ。


「ホント、勇者様って最低ですね。そんなにまた爆裂魔法を喰らいたいんですか?」


彼が威圧的な笑顔を向けると、ヴァルはブンブンと首を振り、彼を離した。彼は溜息を吐くと、


「さっさと外に出て下さい。それと、昨日の事、貴女が居なくても対処できたのでお礼なんて言いませんから」


そう告げると、外に出て朝食の準備をしに行った。ヴァルは彼の背中を眺めながら少しだけ、微笑んだ。


「…とかなんとか言って顔を赤らめて恥ずかしがっちゃって

、可愛いなぁ♪でもやっぱり、フィオ君はそうでなくちゃね。あんなドス黒いのなんてフィオ君じゃないから……大丈夫、その度に私が助けるから、安心してねフィオ君♪」


そう心の中で思い、みんなが待つ外へと足を運んだのだった。


初めまして


安眠と申します。いつもはpixivでおねショタ小説を書いています。今回はいつもとは違って普通のファンタジー小説を書いてみました。といっても大体おねショタメインでしか書かないので内容も結局おねショタなんですけどね(笑)


今回の作品は全部書いた上で出すべきかなって思っていましたが、連載として出すことにしました。この作品はpixivでも投稿しているのでよろしかったらそちらの方でその他の小説もご覧いただけると嬉しいです。ほとんどR18ですけどね(笑)


さて次回はどのような展開になるかお楽しみに!


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