ボロアパート23
まずは、このお部屋から出なくっちゃ。
この鍵、いらない!
ギューッと握る。パキパキッと音を立てて鍵が壊れた。
「わぁ!私すごーい!力持ちになったみたいっ!」
寝ていたお兄ちゃんがゴソゴソ動く。
「しーっ。静かに静かに。」
そのまま部屋を出る。
「気づかれなかったー!よぅし!お母さんを探すぞー!」
あちこち歩き回ってお母さんを探す。
「いないなぁ。どこにいるのかなぁ?」
……
何とか仕事を終わらせて家へ帰る。
もう今日は何がなんだか訳がわからない。
あの2階に住んでるっていう男の人が言ってた事も意味がわからない。
それにさっきの階段にいた影が目に焼き付いている。
やっぱり茜だったのかな…?
…私、何やってるんだろう。
街灯の下で立ち尽くす。
色々な感情が込み上げてどうにも収拾がつかない。
その時、耳元で声が聞こえた。
「お母さん。どうしたの?」
「あ、茜!?」
「おウチに帰らないの?」
「か、帰りたくない…帰りたくないの。」
「どうして?ねぇ、お母さん。」
「もう…。もう疲れた。嫌になっちゃった。」
「お母さん、一緒におウチに帰ろうよ。」
こんな幻聴が聞こえるなんて頭がどうかしてしまったんだろうか?
フラフラと足が家と逆へ進む。
「お母さん!そっちおウチじゃないよ?待ってよ!」
「いや!もう、聞きたくない!やめて!」
だんだんと早足になる。
「待って!お母さん!……マッテヨ。」
背中がゾッとして、後ろを振り返る。
「あ、茜!?やっぱり茜なんでしょ?どこ?どこにいるの?」
「ココダヨ。」耳元で急に声がする。
え?…誰の声?茜の声じゃない。
低いくぐもった声で「オカアサン…マッテ…」
それだけを繰り返す。
「えっ。誰?…ねぇ、誰なの?」
ズルッズルッと何かを引きずる様な音がする。
「なんなの…?やめて。…もうやめてっ!」
そう叫ぶとシーンと辺りが静まり返った。
ここにいちゃいけない。
ここは危ないって本能でわかる。
追いかけてくる何かから逃げなくちゃ。
追いかけてくる足音は聞こえない。
聞こえないのに恐怖はどんどん増していく。
私の足音だけが暗い道路に響いている。
心臓がうるさい。上手く息が出来ない。
ようやく足を止めた交差点。
「ハァハァ。何やってんだろ。」
そう呟いた時、
「モウ、オシマイ。」
ドンッと背中を押される。
「は?…え?なんで。」
振り返った先には、茜の姿。
でも、何か違う。
……お前は誰だ?
「え?…えっ?なんで…?茜?」
「何?なんて言ってるの?茜!」
ドンッ