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【WEB版】ナナイロ雷術師の英雄譚―すべてを失った俺、雷魔術を極めて最強へと至るー【コミカライズ】  作者: 日之影ソラ
第三部

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91.強くなろう

「見てるぞ」

「うん!」


 シトネは刀を強く握りなおす。

 その瞳に迷いはなく、眼前の敵に集中していた。

 落ち着きを取り戻したことで、彼女は冷静に現状を分析し始まる。

 ロックエレメンタルの強度、環境デバフ、折れてしまった刀。

 これらを統合し、一つの結論にたどり着く。


「それなら!」


 刀が光りを纏う。


「そうだ。それで良い」


 魔力濃度の濃いこの環境で、術式は正常に発動しない。

 ただそれは単純に制御が乱れやすいというだけだ。

 特に放出系の術式は、手元から離れた後に制御が乱れてしまいやすい。

 ならばどうするか?

 放出せず纏わせてしまえば、自身で制御し続けることが出来る。

 シトネは旋光と同じ術式を発動し、その力を刃に留め圧縮した。

 折れた部分の刃も、光の刃で補填している。

 

 シトネが飛び出し、ロックエレメンタルの懐へもぐりこむ。

 疲労で俊敏性に欠けるとも、見慣れた動きならば躱し、もぐりこむ程度は容易だ。

 そして――


「そこだ!」


 シトネの刃がロックエレメンタルの左胸を切り裂いた。

 硬い岩に阻まれた奥には、赤い宝石のような結晶が埋まっている。

 彼女の斬撃は結晶ごと真っ二つに斬り、エレメンタルは肉体が崩壊していく。

 

 ロックエレメンタルには核が存在する。

 構造上はゴーレムに近く、核を破壊すれば簡単に倒せる。

 核の位置は左胸、人間の心臓と同じ位置だ。

 あとは硬い岩の皮を斬り裂く力さえあれば、決して恐ろしいモンスターではない。


「っ……」


 シトネの手が震えている。

 恐怖とは違う。

 単純に限界が近づいているようだ。

 

「行け!」


 あと少しだ。

 シトネは叫び、力を振り絞って刀を振るった。


 私は戦える!

 モンスターでも、悪魔でも!

 この先もずっと、リン君の隣に立つんだ!


 彼女の刀に込められた想いに心当たりがある。

 今はただ、その瞬間を見届けよう。

 最後の一体を、彼女の刃が斬り裂いた。


「勝……った」


 ヤタハガネを前に、立っているのは彼女一人。

 戦いに勝利した彼女は、安堵して力が抜けていく。

 フラッと倒れる彼女を、俺が優しく受け止めた。


「スゥー……」

「お疲れさま、よく頑張ったなシトネ」


 シトネは勝利した。

 モンスターにではなく、先へ進む恐怖に勝ったんだ。

 師匠の狙いはここにあったのだろう。

 シトネは疲れて眠ってしまったが、命に別状はなさそうだ。

 一先ず安心……と思ったところで、周囲からゴゴゴという音が聞こえる。

 

「ロックエレメンタル……新手か」


 どうやらまだ残っていたらしい。

 地中深くに埋まっていたのだろうか。

 複数体のロックエレメンタルが俺とシトネを取り囲む。

 シトネは戦えない。

 俺は戦ってはいけない。

 しかしまぁ――


「せっかく良い感じで終わったんだ。邪魔をしないでくれるか?」


 ロックエレメンタルの群れが止まる。

 奴らが感じたのは魔力の圧。

 ヤタハガネよりも濃くて重い魔力を放っただけだ。

 それに恐怖し、奴らは動けなくなる。

 

 これくらいは良いだろう。

 別に戦ってないし、威嚇しただけだからな。


 そうしてロックエレメンタルたちは地中へ戻っていった。

 戦っても勝てないと本能的に悟ったのかもしれない。

 あの岩の塊に、本能なんてものがあるのかは微妙なところだが。


「さてと」


 手のひらに一杯で良いんだっけ?

 これを採取するくらいは、俺がやっても良いよね。

 さすがにこの場所でずっといるのはシトネの身体に悪い。

 早々に下山して、温かいスープでも飲みたいところだ。


 俺はヤタハガネを砕き、一塊を採取した。


「よし」


 シトネはまだ眠っている。

 俺は彼女をおんぶして、そのまま下山を始めた。


 ニ十分後――


「ぅ……」

「おっ、目が覚めたか?」

「リン……君?」

「ああ」


 寝ぼけているのか、ウトウトしていて言葉にも覇気がない。

 彼女はぼーっとしながら俺の頬をツンツンしてきた。


「え、何?」

「ううん、リン君だなーって」

「何だよそれ」

「えへへへ。リン君の背中……あったかいね」

「寝ぼけてるのか?」

「そうかも」


 嘘だな。

 ちゃんと答えてるし。


「私ね……怖かったんだ。ずっとずっと怖かった」

「ああ」

「でも気付いたの。戦うのも怖いし、先に進むのも怖いけど、私が一番怖いのは……また一人になること。リン君と、みんなと離れ離れになることなんだって」

「そうか」


 彼女は恐怖知っている。

 そして彼女は、孤独も知っている。

 境遇は違えど、彼女もまた孤独と戦ってきた。

 ずっと前から戦い続けてきた。

 だからこそ彼女は、孤独へ戻ることを恐れ抗う。

 彼女にとって、死への恐怖よりも孤独に戻る恐怖のほうが強かったらしい。


「その気持ち……俺にもわかるよ」

「うん」

「一人は寂しいよな?」

「うん」

「一人は悲しいよな」

「……うん」

「みんなと一緒にいるほうが、ずっと楽しいんだよな」

「うん!」


 俺とシトネには帰る場所がある。

 暖かくて、優しくて、愛おしい人たちが待つ場所が。

 それを知ってしまったら、もう孤独に戻るなんて出来ないよ。


「強くなろう」

「うん。もっと先へ行くんだ」


 離れてしまわないように。

 このぬくもりを、離さなくて済むように。

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