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86.師匠の所為です

 静まり返る工房。

 床は血に染まり、一人の女性が倒れている。

 ぱっと見は明らかに事件現場。

 倒れている女性がなぜか幸せそうな表情な部分を除き、見かけたら即通報ものの光景である。

 たぶん死んでないけど、彼女はピクリとも動かない。

 俺とシトネはごくりと息を飲み、師匠は徐に倒れた彼女に近づく。


「いやー驚いたなぁ~ まさかこれ程の破壊力を秘めていようとは」

「し、師匠これって……」

「うん。シトネちゃんの可愛さが聖域者を倒したね」


 師匠はニコっと満面の笑みでそう答えた。

 何だかスカッとした感じで笑っているように見えるのは気のせいだろうか。

 すると、視界の端でシトネがあわあわし始める。


「ど、どどどど――」

「シトネ?」

「どうしようリン君! 私がやっちゃったの? 私ついに人殺しになっちゃったのかな!?」

「だ、大丈夫だ心配しなくて良い!」

「で、でも……」

「シトネは何も悪くない。仮にやっちゃってたとしても指示したのは師匠だから。悪いのは大体師匠だから問題ない!」

「君たち本当に仲が良いよね~」


 冷静な師匠を見て、俺も今さら平静を取り戻す。

 普段なら慌てないであろう場面なのに、シトネが焦っている姿を見ると変に自分も合わせてしまうな。

 そんな俺の心情を悟って、師匠はため息交じりに言う。


「僕がとぼけた時も、そのくらいノリが良いと嬉しいのだけどね~」


 そう言いながら師匠はしゃがみ込み、倒れている彼女の頬をツンツンとつつく。

 しかし残念ながら反応はないようだ。


「やれやれ、完全に落ちているね」

「大丈夫なんですか?」

「心配ないさ。シトネちゃんの可愛さに気絶しただけだから」

「……大丈夫なんですか?」


 さっきとは別の意味で……


「まぁ放っておけばいつか目を覚ますよ」

「いつかって、そんな悠長に構えていられるほど俺たちも暇じゃないですよ」

「そうだね~ といっても、こうなった彼女は攻撃されようと起きないしな~」


 それは本当に大丈夫じゃないと思う。


「仕方がない。ここは同じ手でいくか」

「同じ手? まさか、またシトネに何かさせるつもりじゃないでしょうね?」


 俺がそう言うと、シトネが横でビクッと反応する。

 さっきのことが若干のトラウマになっているようだ。

 尚更やらせられないぞ。


「心配はいらないよ。ただちょっと不快になるかもしれないけど」

「不快って……何するつもりですか?」


 師匠はニコっと微笑み、彼女の耳元に顔を近づける。

 コソコソ話をするように手を当て、小さな声で囁く。


「おーい、目の前で可愛い女の子があられもない姿で、君を待っているよぉ~」

「何だと! こちらの返答はもちろんオーケーだ! というわけで今すぐにベッドに行こう!」

「「……」」


 起きた。

 元気いっぱいに立ち上がった。

 物凄く最低な目覚め方に、俺とシトネは思わず絶句する。


「やぁお目覚めだね? エルマ」

「アルフォース!」

「うわっと! 起き抜けに物騒な物を振り回さないでおくれよ!」


 視界に師匠が入った途端、唐突に彼女は乱心した。


「また始まった……」

「ちょっと二人とも! 落ち着いてないで助けてくれたまえ! シトネちゃんすまないがまたさっきのやつを頼むよ!」

「……シトネ、放っておこう」

「うん」

「薄情者!」

 

 この後しばらくの間、追い回される師匠を傍観して過ごした。

 それから三十分後――


「いや~ようやく落ち着いてくれて助かったよ、エルマ」

「ちっ、不愉快だからしゃべりかけないでもらえるか?」

「これだけ暴れたんだから鬱憤も晴れただろう?」


 師匠は見るからにボロボロだ。

 こんなにやられている師匠は初めて見る。 

 出来ればこんな形で見たくなかった師匠の姿に、さすがの俺もガッカリしていた。

 何より、問題はこの人だ。


「晴れるわけないだろ! お前に対する鬱憤なんてな! お前を百回くらいぶっ殺しても晴れないんだよ!」

「あっはははは……さすがに勘弁してほしいな」

「あの師匠、そろそろ本題に」

「おっとそうだったね! ただその前にお互いの自己紹介は大切だと思うんだ」


 今さらという気もするが、確かに俺とシトネは初対面だ。


「僕から紹介しよう。彼女がエルマ・ヘルメイス。言わずと知れた聖域者の一人で、僕の魔術学校時代の同期だよ」

「え、同期?」

「そう。元々は同じ学年だったのだけど、彼女は一度留年してるんだ」

「「留年!?」」


 学園では成績が不良だったり、問題がある生徒は留年させられる。

 それは知っていたけど、聖域者になる人が留年なんてするのか?

 

「まぁそういう反応になるよね。彼女は成績こそ優秀だったし、僕と並んで他と比較しても頭一つ抜けていたよ。ただ自分の研究に没頭すると周りが見えなくなる癖があってね。よく授業をさぼっていたのさ」

「はっ! あんな授業受けるくらいなら、自分の時間にあてたほうがマシだからな」

「という感じで、三年生の半分を欠席した結果、めでたく留年したのさ。でもそのお陰で、彼女は聖域者になれたともいえるから、ある意味では成功なんだろうね」


 師匠はそう言って笑っていた。

 言っている意味はわかるけど、何て馬鹿らしい理由なんだろう。

 聖域者っていうのは性格に問題がないとなれないのか?


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