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9.中間試験(ドラゴン退治)

 修行開始から一年。

 たったの一年が、俺には何十年分くらい濃く感じられた。

 毎日続く師匠の扱きに耐え、俺も着実に成長していると実感する。


「ふむふむ、魔力量は一年前の三倍かな? コントロールも格段に向上しているね」

「ありがとうございます。術式の方はまだまだ途中ですけどね」

「まぁ仕方がないさ。君が取り掛かっている術式は、これまで作られてきた術式とは毛色が違う。僕でも最初は思いつかなかったことだからね」


 俺の開発途中の術式。

 まだ名前すら決めていないけど、完成すれば唯一無二の武器になる。

 師匠にも協力してもらって、何とか達成率は半分といったところか。


「さてさて、君もだいぶ成長したことだし、そろそろ僕も自分の仕事をしようかな」

「えっ、それってどういうことですか?」

「う~ん、基礎に応用それ以外。色々と教えてきたけど、もう僕が君に教えることはあんまりないんだよ。だから、僕との修行は一旦終わりにしようと思ってね」

「そ、そんな! 俺はまだ師匠から学びたいことが――」


 焦って声をあげる俺の口を、優しく人差し指で止める。

 師匠はニコリと微笑んで言う。


「今の君なら一人でも先へ進める。僕が教えたことを忘れさえしなければ……ね」

「……忘れませんよ。師匠に教わった何一つ、取りこぼさないように頭へたたき込んだんですから」

「はっはっはっ、それは嬉しいね。だったら尚更大丈夫だ」


 師匠は安心したようにほっと息をもらす。

 こういう時の師匠は切なげで、どこか別のものを見ているように感じる。


「それにこの一年で、僕への依頼がたーんまり溜まっているんだよ。全部すっぽかしていたからね」

「えぇ……そうだったんですか?」

「うん、面倒だったし」


 俺のためじゃないんだ……

 ちょっとガッカリしたな。


「さすがに誤魔化せない量になってね。一度ぜーんぶ終わらせてこようと思うんだ」

「どれくらいかかるんですか?」

「さぁ? 最低でも二、三年はかかると思うよ」

「そんなに……」


 三年も一人で修行しなくちゃいけないのか。

 この広いだけで何もない屋敷で……

 不安が身を包みそうになった俺の頭に、師匠はポンと手を乗せる。


「大丈夫。君はもう一人ではない。離れていても、僕が師匠であることは揺るがぬ事実だ」

「師匠……」

「君はまだ子供だ。寂しさもあるのはわかっている。でも、子供であると同時に、君は魔術師でもあるんだ」


 師匠の瞳が力強く、俺を見つめて言う。


「魔術師ならば、己の目的に一番近い道を進みなさい。とことんどん欲に、効率よく進んでいく。早く追いついてくれると、僕も嬉しい」

「……はい!」


 このとき俺は、師匠が俺を弟子にしてくれた本当の理由に触れた気がした。

 俺が力強く返事をすると、師匠は微笑んで手を離した。


「まぁでも、旅立つ前に試験だけは受けてもらうからね?」

「試験?」

「そうさ。この一年間で君がどれだけ成長したのか。雰囲気ではなく形で証明してもらおう」


 師匠は悪戯をしかける子供のような笑顔を見せる。

 この笑顔をするときは大抵、何か相当きつい内容をふっかけてくる時だ。

 俺は覚悟して、ごくりと息を飲む。

 

「着いてきなさい」


 師匠に連れられ移動した先は、王都からも百キロ以上離れた山脈のふもとだった。

 転移魔術を使ってひとっ飛びとは言え、この距離の移動は初めてだ。

 

「師匠、ここは?」

「グレートバレー山脈だよ。君も名前くらい聞いたことあるんじゃないかな?」

「グレートバレー……確か王国最大級の山々が連なる山脈で」

「そして!」


 何かが空を舞った。

 黒くて大きい翼を広げ、空を覆い隠す。

 獰猛な牙を見せ、鋭い眼光で睨まれれば、怯んで足が震える。

 圧倒的な存在感と強さは、全生物上の頂点の一つに君臨する。


 その名は――


「ドラゴン!?」


 黒き竜が吠える。

 思い出したが、この山脈はドラゴンが生息する一級危険区域だ。

 普通なら絶対に近寄らない。


「最終、いや中間試験かな? このドラゴンを一人で倒しなさい」

「ちょっ、正気ですか師匠!」

「もちろん! 僕が無茶ぶりで嘘を言ったことがあったかい?」


 ないですよ。

 だから焦っているんじゃないですか。


「さぁ、この程度の相手に勝てないようじゃ、聖域者にはなれないよ」

「くっ……」


 吠えただけで空気が軋む。

 呼吸も普段より荒っぽくなって、簡単に息切れを起こしそうだ。

 数十メートルを超える巨大さ。

 そもそも飛行しているから、地上で戦うことは圧倒的に不利。

 でも、師匠がやれといえばやる。

 倒せるというのなら、それに間違いはない。


「やってやる!」


 俺は全身に雷を纏う。

 まだまだ試作段階の術式は使えない。

 既存の術式でどこまでやれるか。

 

 拳を握り、思いっきり前を殴る。

 その衝撃と一緒に雷撃を飛ばし、ドラゴンを攻撃した。


「うん、いいね! 無詠唱かつ術式展開も省略できている。でも残念ながら、その程度じゃ倒せない」


 ドラゴンは怒り、尻尾を高速で打ち付けてくる。

 雷を纏った俺は横に跳び避け、続けて雷撃を放っていく。

 悲鳴のような叫び声をあげるドラゴン。

 ダメージはあると考えていいのだろうか。


「いや! これじゃダメだ!」


 文献で読んだドラゴンの記述。

 それによると、ドラゴンの鱗は鋼鉄の何倍も硬く、熱や電撃も通しにくい。

 ダメージは大してないと考えるべきだ。

 おそらく俺の魔術だけでは、大ダメージは与えられない。

 加えて――


「気を付けなさい! ブレスだよ」


 師匠の声が聞こえた。

 その直後、ドラゴンは大きく口を開けて炎を吐き出す。

 

「っ……なんて広範囲なんだ」


 消耗すればこちらが不利。

 いずれ俺の動きも捉えられて、燃やされる未来が予想できる。

 そうなる前に倒すなら、方法は一つ。


「やるしかないか」


 俺は距離をとり、右腕を天に掲げる。

 ドラゴンには俺の雷撃を何発か食らわせた。

 しばらく電撃の痕が残る。

 それを目印にして、大自然の力を使おう。


「雷魔術の中で最大の威力――これでも食らえ!」


 集まった雷雨。

 ゴロゴロと鳴り響くそれを、魔術の力で制御する。

 自分の力で足りないのなら、自然の雷撃をお見舞いするまで。


「雷魔術奥義――天雷(てんらい)


 雷一閃。

 ドラゴンの頭上に雷撃が降り注ぐ。

 悲鳴を上げるドラゴン。

 いかに高度な鱗と言えど、天然の雷撃に俺の魔力を上乗せした一撃なら、鱗を超えて内部へダメージを与えられる。


「はぁ……はぁ……」

「うん、お見事! さすが僕の弟子だね」

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少しでも面白い、面白くなりそうと思ったら、現時点でも良いので評価を頂けると嬉しいです。


☆☆☆☆☆⇒★★★★★


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