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85.本当に何したんですか

 師匠のモフモフでイエティを難なく倒した。

 正直納得はいかないが、戦えるという点は本当らしい。

 

「不服そうな顔だね~」

「別にそんなんじゃ……」

「文句はこの雪男に言っておくれよ。君たちのイチャつきを邪魔したのは僕じゃないんだからさ」

「イチャ――師匠!」


 怒った俺に対して、師匠は大笑いしていた。

 こんな場所まで来てからかうとか、師匠は変わらず性格が悪い。


「付いてこなければ良かったですよ」

「今さらもう遅いね」


 本当にその通りだ。

 ここでふと、シトネの姿がないことに気付く。

 心配が過るが、すぐにシトネの声が聞こえてくる。


「リン君!」


 彼女は倒れたイエティの横で手を振っていた。

 何ともなかったようで安堵する。

 俺と師匠が歩み寄ると、シトネは下を指さして言う。


「これ見て! 大きな穴があるよ」

「穴?」


 覗き込むと、イエティが壊した岩の下に、大きな空洞が広がっていた。

 

「本当だ」

「おやおや~ しかもこれは人が手を加えた後があるね」

「そうなんですか?」

「うん。ちょこっとだけど道が整備されているよ」


 師匠の言う通り、洞窟に見えるそれは、天然ものにしては道が綺麗すぎる。

 ほんの些細な差だけど、見る人が見ればわかるだろう。

 俺は師匠に尋ねる。


「探鉱用ですか?」

「いいや、この辺りはエリア外だよ」

「ならもしかして……」

「うん。この先に彼女の工房があるかもしれない」


 不意の発見に期待が高まる。

 俺たちはさっそく中へ降りていく。

 風が届かない分、外よりも温かく感じる。

 暗さはシトネの明かりで何とかなるし、吹雪の中を歩くより数倍マシだ。

 そして、道なりにまっすぐ進むこと十五分。

 目の前に鉄の扉と、人工的に作られた壁が現れた。


「何かあるよ!」

「どうやら大当たりのようだね」


 扉の上には赤い炎のような文様が描かれている。

 

「あれは彼女の家紋だよ」

「ってことはここが?」

「うん。シトネちゃんの大手柄だね」

「えへへ~」


 嬉しそうなシトネにほっこりしつつ、俺は扉に目を向ける。

 鋼鉄の扉に壁は赤く塗られている。


「熱気が……」

「工房だからね。たぶん中で作業しているんじゃないかな?」


 そう言って無造作に、師匠は扉へ近づく。


「ちょ師匠! 大丈夫なんですか?」

「大丈夫さ。こうして話していても反応がないということは、留守か仕事中ってことだからね。どうせ呼びかけても答えないよ」

「そうじゃなくて……」


 あの脅迫文のこと、忘れているんじゃないだろうな。

 師匠はそのまま何の躊躇もなく扉を開けた。

 ギィギィと音をたてながら、普通に開いたことも驚きだ。

 これだけ硬そうなのに鍵もかかってないのかと。


 中は広々としていて、鍛冶場で見かける道具や設備が整っている。

 入り口近くには製作途中の武器が並んでいるし、変わった形の鉱石が床に転がっていたり。

 そして奥には、カンカンと鉄を打ち付けている赤髪の女性がいた。

 雪山とは思えない半袖半ズボン、ゴーグルもかけている。

 

「あの人が……」

「聖域者エルマ・ヘルメイス」


 後姿だけで伝わる職人として凄さに、俺とシトネは息をのむ。

 俺たちが立ち尽くしている中、師匠はいつも通りの軽いあいさつを口にする。

 

「やぁエルマ! 久しぶりだねー」


 ピタリと止まった手。

 しばらく無言のまま、彼女から口を開く。


「その声……アルフォースか?」

「そうだよ~ 遠路遥々君に会いに来たのさ」

「……そうか」


 彼女はハンマーを置き、徐に横へ歩いていく。

 その先に並んでいたのは、一目で強力な魔剣だとわかる一振りだった。

 魔剣を手に取り、見事な刃を抜いて見せる。


「エルマ?」

「言ったはずだよなぁ?」

「はい?」


 刹那。

 彼女は魔剣を振り抜き、師匠へ斬りかかる。


「来たら斬るって!」

「うおっと! 忘れていたよ!」

「待てゴラアアアアアァァァァ!」


 突然始まる聖域者同士の戦い?

 いや、彼女が一方的に斬りかかり、師匠は逃げ回っている。

 辺りの物を破壊しながら……


「ちょっと待ってくれエルマ! 僕は君に話をしに来たんだよ!」

「うるさいクソ男! お前と話すことなんてないんだよ!」


 問答無用というか容赦なし。

 師匠に対して明らかな殺意を向けている。


「師匠ー、とりあえず謝りましょう」

「どうして? 僕は何も悪いことはしてないよ? だから謝らない!」


 それは堂々と言うセリフじゃないです。

 仕方ないな。

 

「エルマさん! 俺はアルフォース師匠の弟子のリンテンスです!」

「は? こいつの弟子だと?」

「はい。そのロクデナシは一先ず放っておいて、俺の話を聞いてもらえませんか?」

「ロクデナシとは心外だな! 僕は何もしてないよ!」

「この期に及んで嘘つかないでくださいよ! こんなに怒ってる時点で絶対何かしでかしたでしょ!」


 それも相当怒らせるような何かを。

 彼女の怒り様は、そうでなければ説明がつかない域だ。


「いや、そいつは何もしてない……」

「えっ?」

「ほらね!」


 ドヤ顔の師匠は無視しつつ、エルマさんに目を向ける。

 立ち止まり、落ち着きを取り戻したように見えるが……


「そうよ。何もしなかった……何もしなかったのよ!」

「何で!?」


 突如激高して、今後は俺に斬りかかってきた。

 それも割と本気の太刀筋で。

 俺は蒼雷を発動して何とか躱す。


「あれだけのことをしておいて! 何で何もしないのよ!」

「どっちなんですか!」


 情緒が不安定すぎるだろこの人!


「リン君!」

「よし今しかない! シトネちゃん君の出番だよ!」

「え、私?」

「そうだとも! 彼女を鎮められるのは君だけだ! さぁ早く!」


 師匠とシトネのやり取りは微かに聞こえる。

 ただそっちに集中できる状況ではなかった。


「くっそっ!」


 この人普通に強い。

 怒りで太刀筋はめちゃくちゃだけど、それでも強い。

 さすが聖域者だ。

 このままだと俺も本気にならないと――


「ま、待ってください!」


 そこへ響くシトネの声。

 ピタリと動きを止めた乱心エルマさんは、シトネに目を向ける。

 

「り、リン君は大事な人なので……イジメないで……ください」


 シトネは精一杯、モジモジしながらそう言った。

 控えめに言って可愛い。

 こんな状況だけど、俺も思わずきゅんとなる。


「か、かか……」


 その影響を一番受けていた人物が隣に一人。


「可愛い!」


 ブシャーっと鼻血の噴水が飛び出る。

 そのまま彼女はバタリと地面に倒れ込んだ。

ブクマ、評価はモチベーション維持につながります。

少しでも【面白い】、【続きが読みたい】と思ったら、現時点でも良いので評価を頂けると嬉しいです。


☆☆☆☆☆⇒★★★★★


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