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83.ライバル宣言

 俺の監視のもと、師匠に皿洗いをさせシトネたちの元へ戻る。

 後から心配になって、少し大股で彼女たちの様子を見に行くことに。


「そんなに焦らなくても大丈夫だと思うよ」

「師匠の大丈夫は当てになりませんから」

「酷いな~ 僕は君の師匠なのに」

「だからでしょうね」


 皮肉交じりに言いつつも、内心では師匠と同意見だった。

 席を外したのはたった数分。

 その僅かな時間で起こる事件などないだろうと。

 だから、正直かなり驚かされた。

 

 お待たせと、言いながら食堂に入ろうとした直前だ。

 ただならぬ雰囲気を感じ、脳裏に嫌な予感が過る。

 俺は咄嗟に立ち止まり、師匠もそれに合わせて立ち止まった。

 恐る恐るこっそり中を覗くと……


「……」

「……」


 無言で向かい合う二人。

 静まり返った部屋。

 明らかに何か起こった後の光景が飛び込んできた。


「えぇ……」

「何だか嫌な雰囲気だね~」


 小声で師匠と話しながら、彼女たちを見守る。

 この空気の女子二人に割って入れる精神力はさすがの俺にもない。

 師匠は行けちゃいそうだから、そっと前に立ち出れないようガードする。


「シトネさん」


 すると、静寂を破ったのはエルだった。

 彼女は続けて、シトネに問いかける。


「もう一度聞くっすよ? シトネさんはお兄さんのこと……好きなんすか?」

「ん?」

「おやおや」


 どういう状況なのでしょうか?


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 リンテンスとアルフォースが去った後、残された二人は互いに顔を合わせる。


「行っちゃったっすね」

「そうだね」

「ついて行きたいっすけど、あれはダメな感じっすね~」

「うん。二人だけで話したいことがあるみたいだね」


 二人とも、アルフォースの真意を読み取っていた。

 本当は手伝いたいと思いながら、空気を読んで残ってくれていたのだ。

 そして、今日が初対面の二人で残されれば、会話に困る。


「シトネさんはお兄さんとどこで会ったんすか?」

「え、私?」

「そうっすよ。エルは教えたのに自分だけ知らないのは不公平っす」

「そ、そうかな? えーっとねぇ」


 というわけでもなく、意外にも会話は弾んでいた。

 元々コミュ力の高い二人だったこともあり、リンテンスという共通の友人がいたことも大きいだろう。

 性格的にも両者は近いものがあり、決して相性は悪くない。

 むしろ良いほうだと言える。

 ただ一点、似ているからこそ相容れないものを除けば……


「それからずっと一緒に暮らしてるんだよ」

「へぇ~ でもエルはそれよりもーっと前からお兄さんと知り合ってたっすからね~」

「べ、別に時間が長いほうが良いってわけじゃないよ! 重要なのは中身だからね!」

「エルはお兄さんの仕事をサポートしたりしてたっすよ? お兄さんにとってもエルは大事なパートナーだったに違いないっすからね~」


 そこからの攻防は激しかった。

 互いにマウントを取りきれず、次から次へと攻撃ならぬ口撃を続ける。

 しかし不毛な戦いであることに気付き、一時的に攻防の波が止まる。


「大体何なんすか! シトネさんはお兄さんのこと好きなんすか?」

「へっ……」


 そこへエルの確信をつく一撃。

 思わずシトネも赤面して、言葉を詰まらせる。

 

「エルは大好きっすよ! お兄さんと恋人になりたいし、結婚してゆくゆくは子供もほしいっす!」

「こ、子供!?」


 畳みかけるような連続口撃。

 たまらずシトネもたじろぎ慌てる。


「どうなんすか? シトネさんは!」

「……」


 この時、シトネの頭の中はリンテンスとの思い出で溢れていた。

 無意識に、それでも間違いなく彼への好意を持っている。

 だが真っ向からその好意に彼女は気付いていなかった。

 家族や周囲から見放された彼女にとって、好意は遠く理解しがたい感情の一つだったからだ。

 それを彼女は思い出しつつあった。

 リンテンスと出会い、彼と触れ合い助けられて、彼に惹かれる自分に気付く。

 

 そして渦中の男は――


「何この状況……」


 すぐ近くにいた。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 戻ってきたら予想以上の修羅場を迎えていた。

 俺と師匠は出入り口に隠れて様子をうかがっている。


「いや~ 面白いことになってるねぇ~」

「ワクワクしないでくださいよ!」


 小声でのやり取りにも限界はあるが、幸いなことに二人とも互いに集中していて気付いていない。

 ことの経緯を知らない俺には、なぜこうなったのか理解できない。

 何となく察する程度はできるけど、気恥ずかしくて考えたくないというのが正しい。

 そんな俺にも届く確かな声で、シトネが言う。


「好きだよ」


 その言葉が、俺の胸にドクンと衝撃を与える。


「私もリン君が好き。大好き! エルちゃんに負けないくらい、私だってリンテンス君が大好きだよ」


 シトネ……


 彼女の頬が赤くなっている。

 たぶん、俺の頬も同じくらい赤くなっているのだろう。

 彼女の好意を感じながら、ハッキリと言われたのは初めてだった。


 誰かに好意を抱かれるって、こんなにもドキドキするものなのか。


 胸の高鳴りが治まらない。

 シトネの顔を見るのが恥ずかしいのに、彼女から目が離せない。


「君はどうしたい?」

 

 そんな俺に師匠が問いかける。

 俺は……俺はどうしたい?

 彼女の……いや、彼女たちの好意になんて答える?

 浮かび上がる思い出と、自分自身の思い。

 

「……まだわからないです」

「そうか。じゃあわかったら、ちゃんと伝えなさい」

「はい」


 今はまだ、自分の気持ちがわからない。

 わかっているのかもしれないけど、上手く掴めない。

 もう少し、あと少しで届きそうなのに。

 彼女たちと一緒にいれば、この気持ちに届くのかもしれないな。

というわけで新連載開始しました!

タイトルは『僕らの恋は偽物だったと婚約破棄した癖に戻って来い? 今の私は地味で目立たないけど素敵な彼に夢中なので結構です』になります。


ページ下部にリンクがありますので、良ければぜひ!


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少しでも【面白い】、【続きが読みたい】と思ったら、現時点でも良いので評価を頂けると嬉しいです。


☆☆☆☆☆⇒★★★★★


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