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81.素直さ

『インチキ聖女』が第2回アース・スターノベル小説大賞にて入選しました!

「やぁリンテンス! シトネちゃんもおかえりなさい」

「遅かったすねぇ~ 待ちくたびれたっすよ!」

「「……」」


 依頼を終えて屋敷に帰ると、師匠が帰ってきていた。

 ちゃんと帰ってきていることにも驚いたが、エルが一緒にいるのは予想外過ぎて、一瞬俺たちはポケ―ッと呆けた。


「ねぇ、リンテンス君?」

「はい」


 さっきまで上機嫌だったシトネから、バチバチと電流みたいなものが流れている……気がする。


「アルフォース様はともかく……何でこの子もいるのかなぁ?」

「し、知りません……」

「本当かなぁ~」


 シトネにグリグリと背中を抓られている。

 痛いし怖いし、反応に困る。

 全くもう、今日は初めて見るシトネで胸がいっぱいだよ。


「で、師匠はともかく、エルはどうしてここに?」

「いや~ エルも来る予定はなかったんすけどね~」

「僕が誘ったのだよ。さっき街で偶然会ってね? 久しぶりだし、せっかくなら夕食でもと」

「そうなんすよ~ アルフォース様にナンパされたらエルも断れないっすからね~」

「アルフォース様が……」


 それを聞いてシトネは、ギロっと師匠を睨むように見つめた。

 ビクリと反応した師匠は、誤魔化す様に笑いながら俺に近づき、ひそひそ声で尋ねる。


「はっはっはっ……シトネちゃんの目が怖いのだけど」

「後で謝っておいてください」

「よくわからないが了解だ」


 今のシトネは師匠にも噛みつくのか。

 あと夕食誘うのは良いけど、作るのは結局俺なんですよね。


「みんな少し待っててくれるかな? 今から準備するよ」

「じゃあ私が手伝うよ」

「お、おう。よろしくシトネ」


 シトネと二人きりになることに若干の抵抗感を覚えたのは、このときが初めてだった。

 その後は四人分の夕食を用意して、お腹いっぱいになるまで食べた。

 賑やかに、ワイワイ話しながらの食事は良い。

 行儀は良くないけど、食べる楽しさが倍増する感じだ。


「いや~ お腹いっぱいっすよ! 相変わらずお兄さんの料理は絶品っすね」

「お粗末さまでした」


 三人とも綺麗に食べてくれている。

 空になった皿を見て嬉しいと思えるのは、作った側の特権だろう。

 俺は小さく微笑み皿を重ねていく。


「片付け手伝うよ」

「いいよこれくらい。シトネは料理手伝ってくれたし休んでてくれ」

「そうだとも。シトネちゃんも上手く甘えることを覚えたまえ」

「師匠も偶には手伝ってください」


 うっと小さな声で言う師匠。

 重い腰をあげながら、俺に視線を送る。


「やれやれ、弟子の頼みは断れないね。よーし! 偶には僕も手伝ってあげようじゃないか! 女性陣はしばし歓談を楽しみたまえ」

「じゃあこれ運んでください」


 重ねた食器をどさっと師匠に渡す。


「うん。最初から容赦ないね」

「師匠の弟子ですから」


 他愛もない話をしながら、俺と師匠はキッチンへ向かう。

 洗い場へ皿を置き、おほんと咳ばらいをする師匠。

 そして――


「ようやく二人きりになれたね」


 師匠は決め顔でそう言った。

 それに対する俺の反応は、当然何言ってるのこの人、という顔だ。


「その顔で言わないでくださいよ」


 普通にぞっとする。


「はっはっはっ、ノリが悪くなってしまったね~ 会ったばかりの君なら、もっと大げさに反応してくれたというのに」

「成長したと言ってください。それで話って何です?」


 俺が尋ねると、師匠の表情は一変して真剣さを増す。

 さっきの目配せは、俺にだけ伝えたいことがあるという合図だ。

 それに気づいたから、俺は師匠を連れて二人から離れた。

 多少強引だったし、勘の良い二人は気付いているかもしれないけどね。


「良い話……ではないですよね」

「そう身構えなくて良いよ。ただの情報交換だから」

「嘘つかないでくださいよ。それなら二人を避ける必要はないでしょ」

「シトネちゃん一人だったらそうだね」

「エルの方ですか?」


 師匠はこくりと頷く。

 何となく理由はわかるけど、俺はあえて否定的に言う。


「彼女は信用できると思いますけど」

「うん、僕もそう思うよ」

「じゃあ何で?」

「彼女が情報屋だからだよ」


 師匠は水を流し、皿を洗いながら言う。


「まぁ彼女が情報を漏らすとは思っていない。ただ問題なのは、彼女が所属している組織のほうだ」

「……情報会」

「そう。全情報屋が所属する大組織。元締めは、四世代前の聖域者の血族だね。情報を得るためなら手段は選ばない。買ってくれるなら相手が誰でも構わない。基本的にはそういう思考の集まりだ」


 師匠が何を言いたいのかわかった。

 つまり、情報屋が悪魔と通じている可能性も、ゼロではないということ。

 不用意に情報を伝えることにリスクがあると言っている。

 師匠は皿を洗い終え、水を止めて布を取り出す。


「それに彼女は素直過ぎる。情報屋とは思えない程……ね。そこに付け込まれると弱い」

「確かに……そうかもしれませんね」

「まぁでも、彼女に協力を依頼するという判断は間違っていないさ。やはり情報収集のプロであることに違いはない。僕らが調べるより何倍も早いし正確だ」

「知ってたんですか?」

「彼女が教えてくれたよ。僕のことを信用しているからこそだけど、その素直さが仇とならなければいいいね」


 この師匠の発言は、後に予言となる。


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