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【WEB版】ナナイロ雷術師の英雄譚―すべてを失った俺、雷魔術を極めて最強へと至るー【コミカライズ】  作者: 日之影ソラ
第三部

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79.グレータークロコダイル

 シトネの一撃に貫かれたキメラが、よだれを垂らしながら倒れる。

 さすがのキメラも、頭を貫かれれば終わりだ。


「倒した……よね?」

「ああ、見ての通り。お見事だったな」


 俺がそう言うと、シトネは嬉しそうに身を震わせ、左手で握りこぶしをつくる。

 今のシトネなら当たり前の結果だと思うし、彼女自身も勝つことに疑いはなかっただろう。

 それでも自分が止めを刺したこと、強敵を倒したことは素直に嬉しい。

 俺も初めて一人でモンスターを倒した時は、密かに興奮していたことを思い出した。


「さぁ、次にいくぞ」

「うん!」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 グレータークロコダイル。

 世界各地の沼で目撃情報の寄せられているモンスターであり、世界で一番巨大なワニ。

 その体長は三十メートルを超え、観測された個体で最も大きかったものは、五十メートルに届く大きさだったという。

 単純な大きさだけでも、キメラを上回る迫力なのは間違いないだろう。

 そして、グレータークロコダイルの最大の特徴は、その大きさではなく硬度にある。

 全身を覆う黒い鱗は、あらゆる攻撃に耐性を持つとさえ言われ、並みの攻撃では傷一つ付かないほど頑丈だ。


「こんな森の中に沼なんてあるの?」

「あるんだよ。ここを真っすぐ行くとでかい沼がな」

「へぇ~ そこにおっきなワニがすくっちゃったんだね」

「そういうこと。前に倒したのが二年前だし、子供が残ってたのかな」

「えっ、この依頼も初めてじゃないんだ?」


 二年前の同じ場所で、でかいワニが生態系を荒らしているという情報から、依頼を受けたことがある。

 その時に倒した個体は、確か四十メートル近い大物だったな。

 早々増えるモンスターでもないし、もう二度と戦うことはないだろうと思っていたけど。


「取り逃してたなら俺の責任だしさ」

「リン君ってそういうところ真面目だよね」

「俺は常に真面目なつもりだけど」

「そうだったね!」


 シトネがニコッと笑う。

 何だか意味深な反応だけど、引っかかることでもあったかな?

 

 森の中を進み、しばらく経つ。

 すると、湿り気が多くなり、生えている木の種類も変わってきた。

 根が長く地表から飛び出ていて、木の根だけで視界が忙しい。

 地面は湿っているし、薄く水が張っている。

 この辺りは湿地帯に近い環境だ。

 沼はさらに先へ進むと広がっている。


「本当にあった!」

「信じてなかったのか?」

「信じてたけど、やっぱりびっくりだね」

「そうか。ならもっと驚くものがあそこにあるだろ?」


 と、俺はまっすぐ前を指さす。


「え、何?」


 シトネが視線を向ける。

 茶色く濁った水が広がる沼。

 その中心に、黒い陸地が出来ている。

 いや、それは陸地などではなく、俺たちのターゲットの背だ。


「もしかして……」

「あれがグレータークロコダイル、の背中だな」

「背中だけでもう大きいんだね……」


 全体の半分も見えていないだろう。

 おそらく鼻であろう部分が出ているから、こちら側に頭が向いているとわかる。

 ぱっと見は、ただの黒い地面にしか見えない。

 近づけば鱗の光沢もわかるだろう。


「こっちに気付いてない?」

「いいや、たぶんわかって放置してる」

「そうなの? じゃあこっちから仕掛けちゃおうよ」

「いいけど効かないと思うぞ」


 グレータークロコダイルの鱗は、魔術の奥義すら弾いたという伝説がある。

 防御力という面で語るなら、必ず名前があがるモンスターの一種。

 

「前は俺の赤雷も通らなかった」

「そんなに!? ワニのモンスターって雷が弱点だった気がするけど」

「こいつは違う。というか一番効果のある雷属性でも耐性が高いってことだ」

「そ、そんなの無敵じゃ……前はどうやって倒したの?」


 シトネが思い出したように尋ねてきた。


「頑丈なのは鱗の部分だ。腹と口は大して堅くないから、そこを狙った」


 蒼雷で近づき、首元を殴打して口を開かせ、そこに最大出力で赤雷をぶち込む。

 一撃じゃ足りなかったから、これを何回か繰り返した。

 腹を見せてくれると一番楽だったのだけど、この重量を持ち上げるのは至難のわざで、結局口がやりやすかったな。


「じゃあ今回もそうする?」

「いいや。前の俺じゃそれが限界だった。でも今は――」


 憑依装着!


「力でねじ伏せられる!」


 未来の力を宿し、瞳の色は虹色に光る。

 身体への負担が大きいが、数秒程度ならほぼノーリスクで使える。

 

「下がっていてくれ」

「う、うん!」


 シトネが離れたことを確認してから、俺は両手を前で合わせる。

 指先をクロコダイルに向け構え、赤雷を発動。

 分散した雷を、指先に集中させる。

 微細なコントロールが可能となった今なら、貫通力を極限まで高められる。

 後はただ、矢のように放てばいい。


 ここで放たれる殺気に気付き、クロコダイルが全身を現す。

 大きさは以前に戦った個体と同じかそれ以上。


「気づかれたよ!」


 迫るクロコダイル。

 そこへ――


「赤」


 赤い閃光が放たれる。

 一筋の雷は、一瞬にしてクロコダイルを串刺し、バシャンと水しぶきが舞う。


「ふぅ」

「す、凄い! 凄いよリン君!」


 興奮して飛び跳ねるシトネを見て、俺は安堵する。


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