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8.戦う理由

 師匠の修行はスパルタで、休む暇も甘えも許されない。

 やれと言ったらやる。

 師匠が無理じゃないと言えば、どれだけ無茶でも完遂できる。

 とにかく信じろ、諦めるなの根性論。

 正直かなりしんどくて、何度も意識が飛びそうになった。


「はーい寝ない! まだ半分だぞ~」

「は、はい!」


 魔術における基礎的な部分はマスターしている。

 これから必要になるのは基礎の応用。

 新たな術式開発に必要なノウハウをたたき込まれ、それと並行して実践訓練も行われた。


「冒険者ですか?」

「うん。手っ取り早く実戦経験を積むなら、冒険者になって依頼を受ける方が良い。僕も偽名でこっそり登録してるんだよ」

「そ、そうだったんですね」


 それは言っても大丈夫なことなのか?


「ちなみにもう登録だけは済ませておいたから」

「えっ!」


 師匠は一枚の用紙を見せてくれた。

 冒険者登録証と書かれ、左上には冒険者カードと書かれたものがくっつけてある。


「名前とか住所は適当に書いておいたから、君だってバレると困るだろう?」

「ありがとうござい……ます?」


 登録者名:リンリン


「何ですかリンリンって!」

「可愛いだろ?」

「おかしいでしょ! 偽名にしたってもっと他の名前があったんじゃないですか!」

「えーいいじゃないかリンリン。響きは最高に良いでしょ」

「いやいや、女の子の名前みたいじゃないですか」

「ちなみにこれ一度登録すると変更できないから」


 尚更何してくれてるんですか!

 薄々感じてはいたけど、師匠は適当過ぎる。

 というか、軽薄で何を考えているのかわからない。

 掴みどころのない人、という表現は、まさに師匠にためにあるような言葉だ。


「あ、そうそう! バレないようにこれつけてね」

「仮面……ですか?」


 師匠が手渡してきたのは、白い仮面だった。

 赤い目が二つ、耳みたいなトンガリが二つある。

 というかこれ……


「ウサギのお面じゃ……」

「正解! 道具屋で可愛かったから買って加工したんだ。これを付けて!」


 師匠がむりやり俺の顔に仮面をつける。

 目の部分は赤いけど、仮面を通して見ても視界は赤くならない。

 ちょっと息苦しいくらいか。

 さらに師匠は懐のカバンから赤い服を取り出す。


「この赤いフード付きローブを着れば~ はい完成!」


 ベベーン、と変な効果音が流れたような気がする。

 師匠は小さな鏡を取り出し、俺にも見えるように顔の前へ出す。


「どうだい? これで完璧に誰かわからないだろ?」

「……そうですね」


 わからないですよ。

 どういう趣味趣向の持ち主なのかも……


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 師匠のスパルタ修行は続く。

 それは魔術に関すること以外もだった。


「剣術?」

「そうだよ。剣だけじゃなくて、弓と槍も習得してもらうから」

「……はい」

「おやおや、なぜ魔術師が剣なんて覚えないといけないんだ? って顔をしているね」


 見事に言い当てられてギクッとする。

 師匠が口にした通り、俺はまさにそう思っていた。

 優れた魔術師であるほど、それに特化しているべきではないのかと。


「わかってないな~ 優れた魔術師である者こそ、様々な技術や分野に精通している者なのさ」

「そういうものですか?」

「うん。魔術、薬学、医学……色々な分野があるけど、一つの分野に固執していては新しい物は生まれない。魔術の勉強だけしていれば良いと思っていたら大間違いさ」


 そう言いながら、師匠はどこからともなく剣を取り出し地面に突き刺す。

 

「さぁ始めようか。言っておくけど、僕はその辺の騎士より強いからね」

「よ、よろしくお願いします」


 結論、言葉通り強かった。

 本当にこの人は魔術師なのか?

 と疑問すら浮かぶほどの剣技に驚かされ、転ばされ泣かされ……踏んだり蹴ったりだ。

 それでも俺は、強くなるために必死だった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 修行開始から一か月。

 少しずつ慣れ始めてきた日常の合間で、師匠が俺に問う。


「動機ですか?」

「そうだよ。魔術師にとって、ではなくすべての人において、努力するためには理由がいる。君は何のために強さを求める? 何のために聖域者を目指す?」

「それは……」


 言われてみればどうしてだろう?

 あまり深く考えたことはなかったな。


「考えがまとまっていないのなら、口に出してみるといいよ」

「はい……えっと、たぶん最初は父上や母上に言われたから、だと思います」

「うんうん、よくある話だね」


 これまでを振り返る。

 あの日、雷に打たれてしまった瞬間までの自分は、二人の期待に応えたい一心だった。

 父上と母上は俺を大切にしてくれて、褒められるのが嬉しかったんだ。

 でも……


「二人がほしかったのは俺じゃなくて、俺の才能だけだったんです。それが……雷に打たれてわかりました」


 当初はひどく落ち込んだ。

 今となっては目が覚めた気分だけど、師匠と出会わなかったら、自殺も考えていたかもしれない。

 そして、冷静になった今だから思えること。

 胸の内に残る感情の名前を、ようやく口にすることが出来る。


「……腹が立ちます。自分を見ていなかった二人に……簡単に切り捨てて、俺は息子なのに」


 理不尽な怒りかもしれない。

 自分のことを棚上げして、よく言うと思われても仕方がない。

 だけど、腹が立ってしまったんだ。

 俺を一人にして、この何もない広いだけの屋敷に追いやったことが。


「俺は……あの人たちを見返したい。聖域者になって、俺が誰よりも優れているということを証明したいです。不誠実でしょうか?」

「いいや、実に真っすぐで良いと思うよ」

「ありがとう……ございます」

「じゃあ君は、聖域者になって二人と元通りになりたいのかな?」

「それは……たぶん違います。一度でも見捨てられたら、もうあの人たちを信じられない。もし友好的に戻っても、俺が素直に笑えないので」


 たとえ両親だとしても、捨てられたも同然なんだ。

 今さら元通りにしたいなんて思わない。


「そうか……うん、自分のことをよくわかっている。自分を見つめるということは、強くなる上で大切なことだ。これからもよく考え、見つめ続けるように」

「……はい」

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