閑話④ シュレトン・マーシャル
御年六十二歳。
最年長の聖域者にして、地母神レアの加護をもつ。
この世でもっとも自然に愛された男、シュレトン・マーシャル。
彼の生涯は常に、豊かな自然と共にあった。
「お待ちしておりましたよ。聖域者シュレトン・マーシャル」
「ほう? 主が悪魔か?」
「いかにも。私はエクトールと申します」
大陸の西にある広大な緑の森で、悪魔エクトールは待ち構えていた。
空に浮かぶ彼と、背後には無数のワイバーンが飛んでいる。
「こんな場所で待ち伏せとはのう」
「ええ。我々の目的は貴方を殺すことですので」
「そうかそうか。悪魔に狙われるとはワシもまだまだ捨てたものじゃないのう」
シュレトンは呑気に話す。
が、その隙に地母神の加護を発動させ、周囲の大地を味方につけていた。
「ワシも良い歳じゃ。もはや生にそこまでの執着はない。じゃが……」
エクトールの足元の大地が盛り上がり、巨大な右手へ変化する。
「若者に負けるのは嫌じゃからな」
「ほう」
エクトールは砲撃の方陣術式を複数展開させ、迫りくる巨大な右手を破壊した。
続けてワイバーンに指示を出し、シュレトンを攻撃させる。
「ほっほっほっ、そんな小鳥でワシを殺せると思うのか?」
「いいえ、思っていませんよ」
ワイバーンは巨大化した木の根やツルで巻き取られ、締め付け落ちていく。
大地を味方にしたシュレトンを前に、地に立って戦うことは許されない。
「貴方は飛ばないのですか?」
「ワシは飛行魔術が苦手でのう。それに大地こそワシの力じゃ。すぐにそこから落としてやるから待っておれ」
「ふっ、なるほど。地を這う虫けらには丁度良い力ですね」
互いに譲らない攻防。
エクトールの魔力量はシュレトンを上回っている。
対してシュレトンは大地を操っているから、大きく魔力を消耗していない。
「埒が明かないですね。仕方ない、こちらも本気でいきましょう」
「何じゃと?」
限定突破。
跳ね上がる魔力に大地が揺れる。
「これは――」
「そんな自然が好きなら、地の底に埋めてあげましょう」
空を埋め尽くす方陣術式。
雨ではなく、もはや天井が落ちるに等しい。
咄嗟に防御するシュレトンだったが、間に合わず攻撃を受けてしまう。
「ぐおっ……」
同時に地面が大きくえぐれ、加護の効果が弱まる。
大地から力を分け与えられていた彼にとって、味方である大地の消失は敗北を意味する。
「惜しかったですね。貴方がもう少し若ければ、まだ戦えたかもしれないのに」
老い。
聖域者であっても、老いには勝てない。
年を経るごとに魔力は弱まり、身体も不自由になっていく。
戦う以前から、シュトレンの肉体は限界に近づいていた。
「す、すまんのう……ナベリウス」
シュトレンは力尽き、意識を失った。
「お前たち、餌にして良いですよ」
残ったワイバーンに告げるエクトール。
しかし、抉れた地面から木の根や折れた木々の枝が集まり、シュトレンの身体を覆い隠した。
「これは……惨めにも死体を隠しましたか」
最後の力で逃げようとした。
エクトールのはそう見えたようだ。
だが、シュトレンはすでに死んでいた。
大地を操る力も消失している。
彼を守ったのは大地自身だった。
シュレトン・マーシャル……その生涯は最後の一瞬まで、自然と共にあった。
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