閑話③ アベル・レイズマン
改題しました!
明日より第三部が始まりますよ。
太陽の騎士。
聖域者アベル・レイズマンの二つ名である。
彼は太陽神ミトラの加護を持ち、太陽の元では無限に等しい魔力と、魔術センスを発揮する。
そして彼は、騎士の家系に生まれ、誇り高き騎士として育てられた。
聖域者になってからもそれは変わらない。
彼は魔術師で、騎士なのだ。
「おらおら~ もっと頑張って逃げやがれ」
大陸の東。
小さな村が蹂躙されていた。
大人たちが斬り殺され、残された女子供は必死に逃げる。
右も左も前後も、どこも地面が裂かれ逃げる場もない。
それでも逃げるしかない。
僅かな希望を頼りに、我が子を抱いて逃げ回る。
「あ~あ、そろそろもう一人殺すか」
そんな彼女たちを弄び、大剣を振りかざすグレゴア。
悪魔である彼にとって、人間の情や生き死になどどうでも良い。
目的は一つ――
振り下ろされた大剣を、優しい炎を纏った剣が止める。
「やっと来たかよ。アベル・レイズマン」
ニヤリと笑うグレゴア。
オレンジ色の髪と燃えるような瞳。
純白の騎士服に身を包む彼こそ、太陽の騎士である。
「貴様が報告にあった悪魔か」
「そうだよっ!」
ガキンと金属音を響かせ剣同士がぶつかり合う。
アベルの剣がオレンジ色の炎を放ち、グレゴアを後退させる。
「あ、ありがとうございます」
「礼は良い。それより全員一か所に固まっておいてくれ。私が必ず守る」
「は、はい!」
アベルは空中に立つグレゴアへ切っ先を向ける。
「これ以上貴様の好きにはさせないぞ!」
「はっ! 嫌だね! オレは好き勝手に暴させてもらうぜ!」
グレゴアの大剣とアベルの剣が斬り合う。
一振りで突風を生み、木々が倒れ空気が軋む。
アベルは聖域者の中でもトップクラスの戦闘力を誇る。
特に太陽の元であれば、アルフォースとも互角に戦えるほどだ。
しかし、現在の時刻は午後六時。
夕日はとうに沈み、太陽は消えている。
「くっ……」
「思ったよりやるじゃねーかよ。んじゃオレも本気で行くぜ!」
グレゴアが限定突破を発動。
本来の力を取り戻し、圧倒的な実力でアベルを攻める。
ミトラの加護なしで全力のグレゴアと戦うのは、いくら彼の戦闘センスでも厳しかった。
加えて背後には……
「アベル様……」
「はぁ、はぁ……」
「おいおい。そんなサルどもを守ってる余裕あんのか? 片腕もなくしてよぉ」
「私は騎士だ。彼らを守るためにここへ来た。その意思を捨ててしまえば、私は私でなくなってしまうんだよ」
アベルは笑う。
左腕を切断され、大量の血を流しながら。
それでも背後にいる村人たちには指一本触れさせていない。
非道な戦術に屈することなく、彼は立ち続けている。
守るという責務を果たすため、己の命を懸けて戦っている。
グレゴアにはその強気意思が理解できない。
気持ち悪くて、不快だった。
「はっ! 低能な奴が考えることだなぁ!」
嵐のような怒涛の攻め。
アベルは片腕で何とかしのいでいる。
押されていることなど、誰がどう見たって明らかだ。
「太陽の沈んだ今のお前じゃ、どう足掻いたってオレには勝てねーんだよ!」
「いいや――」
それでも彼は折れない。
意思も力も、揺るがない。
「太陽はここにある!」
剣を天にかざし、特大の炎を纏わせる。
まばゆい光はまるで本物の太陽のように輝く。
「なら沈めてやるよ!」
「ぐっ……」
グレゴアが大剣を豪快に振り回す。
その一撃は無残にも、アベルの両脚を切断した。
「終わりだぜ!」
「まだだ!」
片腕、両脚を失ったアベル。
だが握った剣は残っている。
最後の一瞬まで振り絞り、グレゴアの胸に剣を突き刺す。
「何っ――」
「燃え尽きろぉ!」
決死の一撃が火をふく。
油断していたグレゴアは、アベルの攻撃を受けて腹から下が消し飛んでいた。
「くっそがぁ」
グレゴアは高い再生能力を持っている。
しかしいくら彼といえど、深手を負い過ぎれば再生が追いつかない。
アベルに追わされた傷は、致命傷となりうるものだった。
故に彼は引かざるをえない。
大きな舌打ちを響かせ、ゲートを発動させ逃げる。
「……行った……か」
「アベル様!」
気が抜け、落下するアベルを村人たちが受け止めた。
大量の出血で意識を失っている。
そんな状態ですら、彼は剣を握ったまま離さない。
戦う意思を、最後までなくすことはなかった。
その誇り高き精神が、か弱き者たちを守り抜いたのだ。
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