67.黒い雷
インチキ聖女の更新も再開しました!
限定突破によって解放された力が、周囲をピリつかせる。
さっきまでとは比べ物にならない魔力量と圧だ。
俺も自然と力が入る。
「いきますよ」
エクトールが右手を前にかざし、砲撃の術式を展開させる。
俺も同様に右手をかざし、赤雷を放つ準備をする。
そして、最初と同じ撃ち合いが始まる。
「赤」
「マテリアルバレット」
赤い稲妻と砲撃がぶつかり合う。
一度目は赤雷の勝利だった。
しかし、今回はせめぎ合い、拮抗している。
威力が向上した赤雷と張り合っている。
「やはり凄まじい威力ですね。今の私と張り合えるとは」
「こっちのセリフだ」
完成された赤雷は、コントロールも向上している。
ばらけ易かった欠点がなくなったことで、一つに束ねたり、分けたりを自由自在に操れるようになった。
一つに束ねれば貫通力も跳ね上がる。
だから結界障壁も簡単に貫くことが出来たわけだが……
「これが本気か」
「ええ、ですがまだ序の口です!」
エクトールが消える。
転移の術式を使ったようだ。
気配は俺の背後に回っている。
だが、振り向いた時にはもういない。
残っていたのは、爆発を起こす術式だけ。
「青」
「今度こそ逃がしませんよ」
「これは――」
蒼雷の加速で逃げた先に、無数の爆発術式が展開されていた。
逃げるポイントを予測され、罠を張られていたようだ。
「弾けなさい」
連鎖的に爆発していく。
俺は蒼雷の出力を上げて防御に徹する。
「効いたな」
「そうでしょう? しかしさすが、この程度では倒せませんね」
思った以上に強くなったな。
今の俺の全力にもついてこられる。
口ぶりからして時間制限付きだろうけど、おそらく俺よりは長くもつ。
このまま戦っても、最終的に限界を迎えるのは俺のほうだ。
「仕方ない。お前は強いからな」
「何か言いましたか?」
「ああ。俺も本気を見せると言ったんだよ」
「本気? 今までも手を抜いていたと? わかりやすいハッタリですね」
「ハッタリじゃないさ。この術式だけは、使うつもりもなかったんだよ」
未来の自分と対峙して、得られた経験と技術。
色源雷術の完成形にして、たどり着いた究極の術式。
「色源雷術裏――」
漆黒の稲妻が、俺の身体を覆う。
「黒雷」
「ほう。それが貴方の本気……いいえ、奥の手といったところですか?」
「ああ」
バチバチと纏った黒雷が弾ける。
この技を発動中、他の雷撃は使えない。
「漆黒の雷など初めて見ましたが……良いでしょう。試してあげます」
エクトールが砲撃を放つ。
威力も速度も桁違いにあがっている。
熟練された術師でも、防御できるかわからない攻撃。
俺はただ、右手を前にかざすだけで良い。
それだけで砲撃は消える。
「――!? 今……」
「どうした?」
「いえ、どうやらこれでは足りなかったらしい!」
さらに術式を無数に展開。
数は数えるだけ無駄なほど、エクトールの背後を覆う。
そこから放たれる砲撃が降り注ぎ俺を襲う。
が、これも無意味だ。
黒雷を纏っている今の俺には、どんな攻撃も通じない。
砲撃は全て掻き消える。
バリっと黒い稲妻が走り、綺麗になくなる。
その様子を見て、エクトールは疑問を浮かべる。
防御しているのではない。
攻撃が届く前に制御を失って霧散した?
あの黒い雷は、攻撃を退ける絶対的な何かをもっているのか?
だとしたらその効果は一体……
「これで終わりか?」
「――っ、まだですよ! 私の全てをぶつけましょう!」
エクトールが両腕を大きく広げる。
展開された巨大な方陣術式に、小さな無数の方陣術式が集まっていく。
「丁度良い! この一撃で下の建物ごと破壊してさしあげましょう! いくら貴方でも、これを防ぎきることは不可能です!」
術式が光り、特大の砲撃が放たれる。
エクトールの全力。
魔力の大半を消費して放たれた一撃は、確かに結界なんて簡単に破壊できそうな威力だ。
下手をすれば、王都の街を消し飛ばせるかもしれない。
ただし、どんな攻撃であろうと、今の俺には関係ないのだが――
「無駄だ」
右手で触れる。
たったそれだけのことで、彼の全力は消える。
走った黒い稲妻が虚しく、ひと時の静寂を生み出す。
「ば、馬鹿な……ありえない。ありえないぞ! 一体何をしたのだ! どうやって防いだ!」
激昂するエクトールに俺は答える。
「別に防いだんじゃない。ただ、お前の攻撃を変換しただけだ」
「変換……だと?」
「そうだ。黒雷の能力は触れたもの全てを黒い雷に変えることだからな」
「なっ……」
色源雷術の裏。
黒雷は、全ての術式を強引に合わせて完成した術式。
七つの雷全ての力を有し、それら全てを否定する力の象徴だ。
黒雷に触れたものは、自然だろうと魔術だろうと、無条件に雷へ変えてしまえる。
故にどんな攻撃も俺には届かない。
一度発動すると、しばらくの間色源雷術を使えなくなるから、文字通りの奥の手だ。
「ありえない! そんな魔術があるものか! それではまるで神ではないか!」
「俺もそう思うよ。でも、現にここにある」
「ふざけ――」
「それから」
大きな一歩を踏み出す。
俺は瞬時に移動して、エクトールの懐にもぐりこんだ。
そして、俺の右手は彼の腹に触れている。
「悪魔も、雷に変えられるんだよ」
「貴様――」
「さようなら」
触れた箇所に黒い稲妻が走り、肉体の全てが黒く染まった直後。
バチンと大きな音をたて、エクトールの身体は雷となって消え去った。
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