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【WEB版】ナナイロ雷術師の英雄譚―すべてを失った俺、雷魔術を極めて最強へと至るー【コミカライズ】  作者: 日之影ソラ
第二部

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53.不吉な知らせ

 地に落ちた黒きドラゴン。

 空から地上を見下ろし、そのまま視線をあげる。

 広がっているのは雲一つない青空だ。

 ただ、一時的に暗闇が襲ったことを思い出し、眉間にしわを寄せる。


「さっきのあれは一体……」


 おそらく転移系の魔術だろう。

 しかし、あんな術式は見たことがない。

 少なくとも、俺が知っている転移系術式には当てはまらない。

 そもそも、ブラックドラゴンを送り込んできた時点で……


「あれを手懐けていたというのか?」


 その後、言わずもがな研修は中断された。

 ドラゴンが出現してしまったのだから仕方がない。

 明らかに人為的な犯行だったが、敵の正体も目的も不明。

 王国の魔術師団が調査に当たることとなった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 初めて耳にしたのは噂だった。

 単なる噂でしかないと、その時は深く聞かなかった。

 だけど、噂は知らせとなって、俺の耳にも入ってくる。


 聖域者の一人が死亡した。

 もう一人は重傷を負い、現在意識不明の状態。

 

 俺はその情報を、魔術学校の教室で聞いた。


「聖域者が?」

「嘘だろ……一体何があったんだ?」


 ざわつくクラスメイトたち。

 シトネも不安そうな表情で、俺に目を向けてくる。


 ことの発端は十日ほど前。

 大陸の東西両端にて、モンスターの大侵攻が起こった。

 魔術師団が現場に急行したが、その後に連絡が途絶えてしまう。

 緊急事態と考えた王国は、それぞれに聖域者を派遣、この対処にあたった。

 聖域者は王国の最大戦力であり、最高の魔術師の称号。

 彼らを派遣した時点で、この問題は解決したと思われていた。


 しかし、最悪の事態となる。

 モンスターの侵攻こそ止まったが、二人の聖域者が犠牲となってしまった。

 噂と真実が混ざり合って、すでに王都中に広まっている。

 聖域者が敗れたのだ。

 それはつまり、聖域者をも凌駕する存在の証明。

 人々の不安は高まっている。


 王国を揺るがす緊急事態。

 昨日のドラゴン襲来と重なって、先生たちも大忙しの様子。

 その日の授業は午前中で終わり、午後は帰宅し待機するよう言い渡された。


 俺とシトネは屋敷へ帰ることにした。

 グレンとセリカも、今日は一緒に来てくれるという。

 二人とも、俺を心配してくれたのだろう。


「屋敷に戻らなくて良いのか?」

「ああ」

「そうか」


 屋敷に戻っても、暗い雰囲気が続く。

 帰り道でも噂を耳にして、どんよりとした気分だ。

 それを拭い去るように、俺は口にする。


「大丈夫だ。師匠は絶対に負けない」

「そ、そうだよね? アルフォース様が負けるなんてぜーったいないよ!」

「ああ。あの方は聖域者でも別格の強さをもっている。正式に誰がという発表がないだけで、アルフォース様ではないよ」

「私もそう思います。おそらく他の聖域者でしょう」


 俺の意見に合わせるように、三人が口に出して言った。

 

 そう、師匠は別格だ。

 あの人が負けるなんてありえない。

 俺の師匠だぞ?

 世界で一番強い人なんだ。

 絶対に大丈夫だと、俺は信じている。


 だけど、そう言い聞かせながら、俺の心には雲がかかっている。

 信じていながら、漠然とした不安は消えない。

 何より王国の対応も不可解だ。

 聖域者の訃報……それが事実なのはもはや間違いないとして、誰がという部分を発表していない。

 それが更なる不安をあおっている。

 

 そういえば、師匠は王国からの依頼で旅立ったのだった。

 時期は今回の話と一致している。


 もしかして……


 駄目だ。

 悪いことばかり想像してしまう。

 師匠を信じているのに、どうしても考えてしまう。

 未だ帰らない師匠の身に、何かが起こったのではないかと。

 俺が感じている不安はきっと、国民たちが抱いているものとは違うのだろう。

 どうか、どうか無事であってほしい。

 

「師匠……」

「おやおや、深刻そうな顔をしているね?」


 不意に、後ろから声をかけられる。

 一人ぼっちで訃報に暮れていたあの日のように、彼はふらっと現れた。

 変わらぬ笑顔を見て、思わず俺は――


「師匠!」


 そう叫んだ。

 瞳からは、涙があふれる寸前だったよ。


「アルフォース様!」

「ただいま、みんな揃っているようだね」


 何事もなかったかのように、師匠は自分の席に腰をおろした。

 よいしょとおじさんくさい一言をそえて。

 さっきまでの暗い雰囲気が、一瞬でいつも通りに引き戻されるようだ。


「師匠……無事だったんですね」

「うん。その様子だと、事情は一部分だけ伝わっているようだね」


 師匠はため息交じりに言う。


「まぁことが重大だし、仕方がないのだろうけどね。それにしても、まさか負けたのが僕だと思われていようとは……」

「ち、違いますよ! 師匠が負けるはずないじゃないですか!」

「う~ん? だってさっき落ち込んでたでしょ?」

「そ、それはそうですけど……」

「はっはっはっ! 冗談だよじょーだん。心配してくれていたのだろう? ありがとう、リンテンス」


 まったくこの人は、とあきれる。

 不安だった心は、もう忘れてしまっていた。

 師匠の声を聞いて、心にかかった雲が晴れたみたいだ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 生きててよかった 生きてるよね?
[一言] 》 聖域者の途方…… 途方:多くの方向、向かう方向、方法手段、筋道、道理 死亡絡みだから訃報、敗北絡みだから悲報、でも無く途方なのがよく分からない。
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