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5.聖域者

「ふっふふっふ~ん」


 陽気なステップで街を歩く魔術師の男性。

 白いローブと薄紫色の髪は、見かける人すべての目をひく。

 いや、容姿だけが理由ではない。

 彼が持つ称号と名誉、その伝説を知っているからこそ、皆が足を止めて魅入る。


 そうして向かったのは、エメロード家本宅。

 彼は躊躇なく敷地内に足を踏み入れ、無造作に扉を叩く。


「こんにちはー」

「どちら様で――あ、あなたは!」

「どうもどうも。突然の訪問をお許しください。この屋敷の主はお見えになられますか?」

「は、はい!」


 対応した使用人は慌てふためいている。

 ニコニコと冷静に待つ魔術師。


「お待たせいたしました」


 その後、急ぎ足で姿を現したのは、エメロード家の現当主ガーベルト・エメロード。

 由緒正しき魔術師の名門、エメロード家の当主である彼ですら、その魔術師の来訪には驚き慌てていた。


「なぜ貴方様がここへ? 何か重要な用件が?」

「いえいえ、単なる興味の範疇ですよ。神童がいるという噂を耳にしまして」


 ガーベルトがピクリと反応する。

 表情に出ないギリギリの躊躇を、眉を引くつかせることで見せる。


「一目見ておきたいと思ったのですが、その子はどちらに?」

「いえ……その……リンテンスは……」

「おや? 何やら事情がありそうですね」


 ガーベルトは魔術師に事情を話した。

 すでに知れ渡っている情報であり、隠すだけ無駄である。

 羞恥に耐えながら、偉大なる者に伝え聞かせる。


「なるほど、そういう事情があったのですか」

「……申し訳ありません」

「何を謝る必要があるのです。それで、当の本人はここにはいないのですか?」

「はい。今は別宅に」

「ほうほう。差し支えなければ、別宅の場所を教えて頂けませんか?」

「え、はい。構いませんが……まさかお会いになられるつもりで?」

「ええ、俄然興味が湧いたので」


 魔術師は面白がって笑う。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 魔術師なら誰もが目指す頂き――聖域者。

 父上はそこに手をかけ、あと一歩のところで届かなかった。

 その無念は後悔となって、今でも残っている。


 一人になってようやくわかった。

 父上は俺を愛していたわけじゃない。

 あの人が愛していたのは、俺が持っていた才能だ。

 自分では成しえなかった場所に手が届くかもしれない才能。

 それをもって生まれ、あの人は期待して、かつての自分を重ねたんだ。

 今度こそ、頂きに届かせるために。

 金を使った。

 時間をさいた。

 あらゆる手段を尽くして、俺を成長させようとした。


 そうして俺は、全てを失った。

 今の俺は、中身のなくなった器に過ぎない。

 空っぽの人形なんて、父上にとっては人ですらない。

 ぞんざいに扱われ、別荘へ追いやられるのも、今の俺には何の価値もないからだ。


 俺はベッドで横になりながら、無気力に呟く。


「このまま……消えちゃいたいなぁ」

「それは残念だな~ 消えた所で何も起こらないよ?」

「へ……なっ!」


 ベッドの横に見知らぬ男性が立っている。

 ニコッと微笑み俺を見つめている。

 突然のことで驚き、飛び上がった俺は距離を取る。


「おぉ~ 速いね」

「あ、あんたは誰だ? どうやって入って来た?」

「おっと失敬、何度も呼んだのだが返答がなくてね? 扉が開いていたし、もう入っちゃえと……不法侵入と言わないでくれよ? 鍵をかけていない君も悪いんだから」


 男はニコニコと笑いながら語る。

 軽薄で、フラフラとしていて、つかみどころのない話し方。

 今まで会ったことのないタイプの人だ。


「結局あんたは誰なんだよ!」

「そうだね、自己紹介がまだだった」


 男性はどこからともなく杖を生み出し、トンと床をたたく。

 真っ暗だった部屋に明かりがともり、彼の薄紫色の髪と瞳がキラッと輝く。


「初めまして、僕はアルフォース・ギフトレン。見ての通り魔術師のお兄さんだよ」

「アルフォースって……聖域者の!?」

「そうだとも! さすがに知れ渡っているね」


 アルフォース・ギフトレン。

 現時点で存在する五人の聖域者の内の一人にして、世界最高の魔術師と評される人。

 歴代聖域者で唯一、神の試練を経て、その権能の一端を授かった魔術師。

 数々の伝説を残す英雄的存在が、どうして俺の前にいる?


「さぁ、僕の自己紹介は終わったよ。次は君の番だ」

「……リンテンス・エメロードです」

「うん、リンテンス君だね。よろしく!」

「よ、よろしくお願いします」


 何なのだろう。

 偉大な人だとわかっても、なぜだか気が抜ける。

 この話し方と飄々とした態度……苦手だ。


 アルフォースはじーっと俺を見つめる。


「うんうん、なるほど~ 聞いていた通りだね」

「はい?」

「起源が雷を帯びているよ。こんなのは初めて見るな」

「えっ、見えるんですか?」

「ああ、見えるとも。僕の眼は特別製でね? 本来は見えない起源とかいろんなものがハッキリと見える」


 そう言いながら、彼は俺の右胸を指さし触れる。


「な、治す方法はないのですか!」

「うん、ないよ」


 キッパリと彼は言った。

 縋るような俺の気持ちを、ずばっと斬り裂くように。


「起源は見えても触れられない。それは形あるものではなく、心に近いものだからね。過去未来含めて、人の技術ではたどり着けない」

「そ、そんな……じゃあ俺はこのまま……」

「おや、何だいその顔は? まるで全てを諦めてしまっているような絶望っぷりじゃないか」

「だ、だって……一種類しか使えない魔術師なんて」

「未来がないと? 馬鹿だねぇ君は。そうやって自分の可能性まで殺してしまうのかい?」

「えっ?」


 可能性と言ったのか?

 この人は一体、何が見えているんだ。

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少しでも面白い、面白くなりそうと思ったら、現時点でも良いので評価を頂けると嬉しいです。


☆☆☆☆☆⇒★★★★★


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― 新着の感想 ―
[一言] 一つでも魔法が使えたら凄いと思えるのですが、この世界では認めて貰うには、何種類もの属性がつかえることが必要なのですね。属性が多くても、低レベルの魔法しか使えないのであれば、どうしようもないと…
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