閑話② もふもふの尻尾
入学式の一週間前に、シトネが村から戻ってきた。
一緒に暮らすことになるなんて、最初は夢にも思わなかったな。
「ふっふふ~」
風呂上り。
彼女はいつものように尻尾の手入れをしていた。
ふさふさの尻尾を櫛でとかしながら、左右に動かして乾かしている。
その様子をじっと見ていたら、シトネが気付いて尋ねてくる。
「どうかしたの?」
「いや、大変そうだなと思ってさ」
「あーこれ? そうだね、手入れはちょっと大変かな~ 放っておくと埃とかもついちゃうんだよ?」
「へぇ~」
布団とか毛布と同じだな。
ふさふさしているから、いろんな物に引っかかりそうだ。
でも……
「何かいいな、尻尾って」
「え、そう?」
「ああ。触ったら気持ちよさそうだしさ。俺にはないから、ちょっと羨ましいよ」
「羨ましい……」
何気なく発した一言だったけど、彼女にとっては大きな意味を持つことに、後から気付く。
先祖返りである彼女にとって、その尻尾や耳の所為でどれだけ苦しんできたのか。
それを知っていたはずなのに、羨ましいなんて良くない。
謝ろうとした俺より先に、シトネがぼそりという。
「ありがとう」
「え、何で?」
俺は良くないことを言ったのに、どうして感謝なんて言われるんだ?
その答えを口にする。
「そんな風に言ってくれたの……リンテンス君だけだからだよ」
そう言って、シトネは微笑んだ。
元気な笑顔でも、作り笑いでもない。
うっとりとしていて、色気みたいなものも感じる。
風呂上がりだから?
たぶん違うけど、今はそういうことだと解釈しておく。
「よかったら触ってみる?」
「いいのか?」
「うん。リンテンス君は特別だよ」
特別……
久しく聞いてこなかった言葉だ。
彼女にそう言ってもらえるだけで嬉しい。
「触るよ」
「どうぞ」
ふさふさの尻尾に触れる。
予想通りの感触……いや、予想よりちょっと硬い?
むしろモフモフ感が高くて癖になりそうだ。
抱き枕とかにして寝たら、気持ちよく眠れそうな感じがする。
「く、くすぐったいよぉ~」
「あ、ごめん触り過ぎた」
夢中になって触っていたら、シトネが耐えていることに気付けなかった。
反省しながら、手に残った尻尾の感触を思い出す。
「どうだった?」
「すっごい気持ちよかった。尻尾ってこんな感じなんだな」
また触りたいとか思っている。
それが伝わったのだろうか。
シトネがモジモジしながら俺に言う。
「じゃ、じゃあ……また今度触っても良いよ」
「本当か?」
「うん。リンテンス君は特別だからね」
特別という言葉を一日に二度言われた。
その特別が、どういう意味を持つことになるのか。
お互いまだ若くて、知らない。
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