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4.逆さまになる景色

 絶望の味を知っている。

 それは苦くて、痛くて、泥水を啜っているような嫌気が残る。

 今まで積み上げてきたものが一瞬で崩れ去ったとき、俺の心は絶望で支配された。


 その後に医者を何件か回り、高名な魔術師にも協力してもらった。

 しかし、はじき出される結論は全て同じ。


「こんな状態は見たことがない。残念ですが手の施しようがありません」

「命があったことを喜ぶべきではありませんか?」

「まずは落ち着いてください。一時的なものかもしれませんよ」


 違う、そうじゃない。

 俺がほしい言葉は、そんなペラペラな慰めやはぐらかしじゃないんだ。

 未来は明るいのだと言ってほしい。

 これはただの夢で、明日になれば覚めると何度妄想したことか。

 

 一日、二日、一週間と過ぎていく。

 必死になって解決法を探してくれていた両親も、次第に表情が険しくなっていった。

 俺に対する態度も、徐々に冷たくなっている。


「父上、明日は師団に行く日ですが……」

「そんなものはなしだ。今の状態で行って何が出来る? これ以上私たちに恥をかかせないでくれ」

「す、すみません」


 ついこの間までは褒められるばかりだった。

 冷たい言葉と視線は、俺の心にぐさりと突き刺さる。

 でも、辛いのは俺だけじゃない。

 どこかで情報が漏れてしまったのだろう。

 俺の起源が変質したという噂が広がり、各方面から説明を求める声が挙がっていた。

 それらに対応する父上の心労は、俺が考えられる範疇を超えている。

 母上もあの一件以降、急激に体調を崩されている。

 元々体力的に弱い人だったが、精神を強く揺さぶられ、今は一日の大半をベッドで過ごしていた。


 お前の所為だ。


 言葉にはされなくても、言われている気がしてならない。

 俺は不安と後悔を拭い去りたくて、寝る間も惜しんで修行に明け暮れた。

 それでも……


「くそっ……くそ! 何で出来ないんだよ!」


 今まで当たり前にやれていたことが出来ない。

 簡単だった魔術すら、うんともすんとも言ってくれない。

 動作、感覚に狂いはなくとも、元の起源がおかしくなってしまっている。

 唯一扱えるのは、雷属性の魔術のみ。

 たった一属性しか使えないなんて、名門とは名ばかりの落ちこぼれだ。

 それも五大属性は、一つくらい使えて当たり前の領域。

 

「まだ……まだだ!」


 俺は諦めずに修行を続けた。

 誰に言われたか忘れたけど、一時的なものかもしれない。

 ただの運任せに、天へ縋るなんて恥ずかしいことだけど、今はそれしかないと思った。

 来る日も来る日も修行して、ボロボロになるまで頑張った。

 努力すれば必ず結果が出ていたこれまでとは違う。

 どんなに自分を追い込んでも、身体に残るのは疲労と痛みだけだった。

 そして……


「やはりもう限界だ。こうなればアクトを連れ戻したほうがマシだろう」

「ええ」

「まったく一からやり直しではないか!」


 夜な夜な聞こえてくる会話にも、耳を傾けないようにする。

 聞いてしまえば、確定してしまうから。

 いいや、すでに決まっていたことなのだろう。

 俺の起源が変質し、力を失ってしまった時点で、運命は反転したんだ。


「リンテンス、お前は明日から別宅で移り生活しなさい」

「そ、それは……どうしてですか?」

「わからないのか!」


 父上は声を荒げて怒鳴った。

 わかっているさ。

 それでも、信じたくないと思ってしまう。


「お前に一体どれだけの時間と金をかけたと思っている? 我が一族の悲願……あと少しだったというのに、お前のミスで全て台無しだ!」

「……」


 本当なら家を追放したいと思っているのだろう。

 俺がまだ十歳と幼くなければ、この時点で追い出されていたはずだ。

 父上の目は、今までにないほど怒りに満ちていた。

 同時にゴミを見るような冷たい目で、俺のことを見つめている。

 

 怖い。

 

 俺はもう逆らえない。


「わかりました」


 翌日には屋敷を出て、王都の外れにある小さめの別荘へ居を移した。

 普段は使われない別荘で、手入れこそされているが完全じゃない。

 本宅のように使用人もいないから、全て自分でこなさなくてはならないという点も違う。

 十歳で一人暮らしなんて、捨てられるのと大差ないだろう。


「ぅ……」


 俺は毎晩のようにベッドを濡らした。

 自分以外誰もいない家。

 やさしい言葉なんて、ここ数週間は聞いていない。

 最後に見た人の顔は、俺を人だと思っていない冷たいものだったし。

 何よりそれが、実の父親だったから余計につらい。


 孤独だ。

 一人ぼっちで泣いている。

 虹みたいに輝いていた世界が、白黒になってしまったような感覚。

 上下も、左右も逆さまで、何もかもが違う世界。

 俺はこれからも、この孤独と仲良く暮らしていかなくてはならないのだろうか。

 そう思うとやるせなくて、今すぐ消えてしまいたいとさえ思ったんだ。

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