表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【WEB版】ナナイロ雷術師の英雄譚―すべてを失った俺、雷魔術を極めて最強へと至るー【コミカライズ】  作者: 日之影ソラ
第一部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

33/106

33.アクト・エメロード

 青黒い髪に、サファイアより濃い瞳。

 立ち姿、その風格は強者そのものであり、どことなく似ている。

 雷に打たれる前の自分と、姿が重なる。


 アクト・エメロード。

 俺の兄で、魔術学校三年首の座についている。

 いることは知っていた。

 この階層にくれば、出くわす可能性が高いことも。

 そして、会えば必ず、不穏な雰囲気になることも、容易に想像できた。

 今まさに、ピリピリと肌に刺さる緊張感が立ち込める。

 それを感じ取ったのか、三人を除く生徒たちは、目を背けながら先に進んでいった。


「お久しぶりです。兄さん」

「……ああ、十年ぶりか」

「……はい」


 淡々とした会話だ。

 仲の良い兄弟ではないと、誰もが思うだろう。

 冷たいその視線は、身内に向けられるような目ではない。

 まるで、親の仇を睨むように、兄さんは俺から眼を離さない。

 俺も……目は背けない。

 互いに無言のまま、気持ちの悪い静寂が続く。


「父上から」


 兄さんがぽつりと口を開く。


「入学したとは聞いていた。それも次席で……正直驚いたぞ。お前のような落ちこぼれが、ここへ入学出来ただけでも奇跡に等しいというのに」

「……そうでしょうね。特に、父上にとっては予想外だったでしょう」

「ああ。だが、それまでだ。お前ではこれより先に進めない」

「どういう意味です?」

「お前では聖域者にはなれないと言っているんだ」


 兄さんはそう断言して、俺にもっと冷たい視線を向ける。

 もはや殺意と言っても過言ではないレベルだ。

 常人なら震えあがってしまうかもしれない。

 でも、俺は引くことなく言う。


「それは、やってみないとわかりませんよ?」

「ほう、言うようになったな」


 バチバチと視線が火花を散らすようだ。

 途中、後ろ隣に立つシトネが、僅かに震えていることに気付く。

 俺に向けられたそれを、一番近くにいる彼女が感じ取ってしまっているようだ。


 兄さんは他の生徒たちに視線を向ける。

 小さく短く息をはき、俺の横を通り過ぎながら――


「いずれ思い知るぞ」


 そう言って、兄さんは去っていった。

 後姿が見えなくなるまで、俺はじっと兄さんを見つめ続ける。

 しばらくして、置いて行かれないようクラスメイトの元へ駆け寄った。


「大丈夫だったか? シトネ」

「う、うん……私よりリンテンス君は?」

「俺は平気だ。会えばこうなるってわかってたし」

「そ、そうなんだね」


 シトネは不安そうな表情で、俺をチラチラ見ては目を逸らす。

 兄さんのことが気になるけど、聞いてもいいのかわからない、という感じか。

 そういえば、兄さんのことは全く話していなかったな。

 機会もなかったし、話す理由もなかったからか。

 なら、今がちょうど良い機会なのだろう。


「シトネ」

「な、何?」

「帰ったら話すよ」

「……うん」


 シトネは優しく微笑み頷いた。

 こうして、午前のオリエンテーションは終わり、午後から授業が開始される。

 初めての授業は、魔術の基礎と歴史について。

 知っていることの反復でつまらない内容だった……と思う。

 正直、あまり集中できなかった。

 久しぶりに会った兄さんの顔が、言葉が頭に浮かんで離れないから。

  

 悶々としたまま時間は過ぎ、放課後となる。

 グレンとセリカと別れ、俺とシトネは屋敷に帰った。


「ただいま戻りました」

「おかえり。おや? 今日は随分としょぼくれているね」

「ええ……まぁ」

「うんうん、大体予想はつく。兄に会ったんだね?」


 師匠はずばり言い当てた。

 たぶん、千里眼で見ていたのだろう。 

 俺は頷き、ため息をつく。


「まぁまぁ、一先ず夕食にしようじゃないか」

「そうですね」


 作るのは俺なんだけど。


 それから普段通りに夕食をとって、片付けて。

 シャワーを浴びてから、俺は一人でベランダに顔を出した。

 すると、後ろから近づく足音に気付く。


「シトネか?」

「正解! よくわかったね」

「何となくだよ」


 師匠はもっと変な登場の仕方をするし、騒がしいからな。

 消去法でシトネしかいない。

 という分析は置いておいて、俺はシトネに話すことがあったんだ。

 シトネは俺の隣にくる。


「兄さんのことだけど……今でもいい?」

「うん、聞きたいな」

「わかった。俺が神童って呼ばれていたのは教えたよな?」

「うん」

「兄さんも最初は、同じように呼ばれてたんだよ」


 エメロード家に神童が生まれた。

 そうもてはやされ、周囲からも期待されていた。

 だが、それも長くは続かなかった。

 

 そう、俺と言う弟の誕生で、兄さんの人生は大きく狂ったんだ。


「簡単に言うとさ。俺のほうが才能を秘めていたんだよ。それで両親は喜んで、俺を鍛えることに全霊を注ぐことにした」

「じゃあお兄さんは?」

「放置された。この屋敷も元々は、兄さんが十二歳の頃まで暮らしていたんだよ」

「そうだったの?」

「ああ」


 そのことを知ったのは、師匠と出会ってしばらく後のことだった。

 古くて放置されていたはずの建物だったのに、なぜか最低限の手入れがされていたから、疑問には感じていたんだ。

 その後の経緯は簡単だ。

 俺が落ちぶれたことで、両親は兄さんを呼び戻し、代わりに俺をここへ放り込んだ。


「兄さんにとっては散々だろうね。俺の所為で振り回されたんだ。恨まれてても不思議じゃないよ」

「……」


 シトネは何も言わなかった。

 何を言っても、この時の俺には響かないと思ったのだろうか。

ブクマ、評価はモチベーション維持につながります。

少しでも【面白い】、【続きが読みたい】と思ったら、現時点でも良いので評価を頂けると嬉しいです。


☆☆☆☆☆⇒★★★★★


よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新連載開始!! URLをクリックすると見られます!

『通販で買った妖刀がガチだった ~試し斬りしたら空間が裂けて異世界に飛ばされた挙句、伝説の勇者だと勘違いされて困っています~』

https://ncode.syosetu.com/n9843iq/

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

7/25発売です!
https://d2l33iqw5tfm1m.cloudfront.net/book_image/97845752462850000000/ISBN978-4-575-24628-5-main02.jpg?w=1000

7/25発売です!
https://d2l33iqw5tfm1m.cloudfront.net/book_image/97845752462850000000/ISBN978-4-575-24628-5-main02.jpg?w=1000
― 新着の感想 ―
[気になる点] 「4.逆さまになる景色」で父親が「カリオスを連れ戻したほうがマシ」と言ってましたが、本話で兄の名前が「アクト」となっていました。 「カリオス」はまた別人なのでしょうか? ※話の流れ的に…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ