表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

23/106

23.合格発表のち暗殺者

 俺とシトネは屋敷を出て、魔術学校に向った。

 もうすぐ正午になる。

 少し出遅れたから、張り出される校舎前は混雑しているだろうな。


「緊張してるのか?」

「う、うん。昨日は平気だったんだけど、いざってなるとやっぱりね。リンテンス君は相変わらず余裕そうで凄いな~」

「俺の心配は、受かってることより順位だからな」


 願わくば首席で合格していたい。

 不安があるとすればその一点に限る。

 俺たちは学校前に着くまで、他愛のない話をしながら歩いた。

 緊張と不安を誤魔化すように。

 

 そうして、学校の敷地内へと入る。

 予想通りの大混雑で、発表される掲示板前は特にひどい。

 人混みが続いていて、近づくのも難しそうだ。


「み、見えないよ~」

「ちょっと待つか」


 しばらく待って、徐々に人が減っていく。

 帰っていく大半が、結果を見て落ち込んでいる受験者ばかりだ。

 合格していた者たちは、飛び跳ねたり騒いだりして、楽しそうに話している。


「いよいよだね」

「ああ」


 道が出来て、俺たちは掲示板へ近づく。

 一歩進むたびにシトネが緊張して、それがこっちにも伝わってくるようだ。

 俺たちは恐る恐る顔を上げる。

 そして――


「「あった!」」


 お互いの名前を見つけて、思わず声に出していた。

 まったく同じタイミングで見つけて、二人で顔を見合う。

 シトネは嬉しそうな顔をして、瞳は涙で潤んでいる。


「や、や……やったよぉ」

「ちょっ、シトネ?」


 そのまま感極まって、彼女は俺に抱き着いてきた。

 まだ大勢の人が周りにいる状況で、さすがの俺もどう反応して良いのか困る。

 でも、尻尾をふりふりさせているのを見て、俺は小さく微笑む。

 この日にかけた想いが、彼女の表情や声から溢れている。


「おめでとう」


 だから、彼女の頭を優しく撫でた。

 昨日の話を思い出して、きっとたくさんの苦労があったのだろうと予想できる。

 

「お互いこれからだな」

「うん!」


 入学はスタートラインでしかない。

 それでも、今は喜びに浸ってもいいじゃないか。


 少し経って、落ち着いたシトネ。

 改めて掲示板を見る。

 俺の名前は、合格者の上から二番目に書かれていた。


「凄いよリンテンス君! 次席だよ!」

「ああ、いや、首席狙いだったんだけどな」


 何となく予想はしていたよ。

 筆記、実戦ともに高い成績を収めた自負はある。

 ただ俺の場合、適性を測る実技試験は厳しかった。

 あそこで大きく減点があったのだろう。


「主席は……グレン・ボルフステン」

 

 ボルフステン家か。

 確か、エメロード家に並ぶ魔術師の名門貴族。

 一世代前の聖域者にも、ボルフステン家の出身者がいたな。

 なるほど、あの家の出身が参加していたのなら、主席になるのも頷ける。

 どんな奴なのか気になるな。


「次席でもすごいよ!」

「はははっ、そういうシトネだって上から数えたほうが早いじゃないか」

「えっへへ~ ありがとう」


 シトネは七番目の成績だったらしい。

 お互いこれで、特待クラスへ所属できることは決まった。

 聖域者になるための第一歩は、これで果たされたようだ。

 

 余韻を感じつつ、俺たちは校外へと出る。

 シトネは一度村に戻って、荷物の整理をしてから王都に帰って来るそうだ。


「途中まで送るよ」

「ううん、そこまでしてもらわなくても大丈夫だよ」

「今さら遠慮しなくて良い。このまま帰ったら、どうせ師匠に色々言われるからな」


 男としてちゃんと見送らないと駄目じゃないか!

 まったく君は……これだからモテないんだぞ?


 とか言われること間違いなし。

 想像しただけでムカつくから、今日の夕飯は野菜ばっかりにしようかな。


「そう? じゃあお言葉に甘えるね」

「ああ」


 それから王都の外まで一緒に行って、適当な馬車を借りた。

 運転はしたことがあるというし、引っ越しなら荷物も多いだろうからな。

 それとお互い名残惜しかったのか、普段より歩くペースも遅い。

 気が付けば夕方になっていて、慌ててシトネは馬車に乗り、王都を出発した。


「気を付けてなー!」

「うん! また後でねー!」


 互いに手を振り別れる。

 また後でという言葉が、これほど待ち遠しいと感じたのは、生まれて初めてかもしれないな。

 さて、彼女が戻ってくるまでにやることは多いぞ。

 屋敷の掃除は絶対だし、生活用品も一人分追加しないとな。


「いや……その前に一番の厄介事を済ませるか」


 俺はそう呟いて帰路につく。

 あえて、普段なら絶対に通らない道を進む。

 人通りが少なく、大きな声で叫んでも、周囲の建物に反射して空に響くだけ。

 仮に事件が起こるなら、こういう場所なのだろうと思う。


 そう、だから――

 暗殺するなら打ってつけのタイミングだ。


「――!?」


 風を斬り裂く音が聞こえる。

 トンと地面に着地して、彼らは驚愕していた。

 そこには誰もいない。

 刃を振るった相手は、いつの間にか姿を消していた。


「やはり暗殺者……それも三人か」


 彼らは声の主に気付いて振り返る。

 その視線の先に立つ俺は、ポケットに手を入れて余裕を見せる。


 暗殺者の一人が呟く。


「青い雷?」

「ん? あーそうか、そういえば()()()には赤いほうしか見せてなかったな」


 暗殺者がわずかに反応を見せる。

 わかっていたことだが、彼らの雇い主が確定した。

 

ブクマ、評価はモチベーション維持につながります。

少しでも【面白い】、【続きが読みたい】と思ったら、現時点でも良いので評価を頂けると嬉しいです。


☆☆☆☆☆⇒★★★★★


よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新連載開始!! URLをクリックすると見られます!

『通販で買った妖刀がガチだった ~試し斬りしたら空間が裂けて異世界に飛ばされた挙句、伝説の勇者だと勘違いされて困っています~』

https://ncode.syosetu.com/n9843iq/

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

7/25発売です!
https://d2l33iqw5tfm1m.cloudfront.net/book_image/97845752462850000000/ISBN978-4-575-24628-5-main02.jpg?w=1000

7/25発売です!
https://d2l33iqw5tfm1m.cloudfront.net/book_image/97845752462850000000/ISBN978-4-575-24628-5-main02.jpg?w=1000
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ