表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

20/106

20.ソワソワするなら

 入学試験が終わり、合格発表までの一週間。

 一日、二日、三日と過ぎていく。

 俺とシトネは師匠に扱かれながら、その期間を過ごしていた。

 スパルタな師匠の修行に耐える日々は、俺にとっては日常で、懐かしさと安心感を感じさせる。

 対してシトネは、


「つ、ついていくのでやっとだよ!」


 と呼吸を乱し、汗を流しながら頑張っていた。

 泣き言みたいなセリフを口にしながらも、最後まで食らいつこうとしている姿勢は凄いと思う。

 師匠もそんなシトネを気に入ったのか、日に日にスパルタ度は増していった。


 五日後。

 合格発表まで残すところ二日。

 明後日の正午には、クラス分けと共に張り出される。

 ある種待ちわびた瞬間が近づき、俺も密かにソワソワしていた。

 そしてもう一人。


「はぁ」


 落ち着かずソワソワしている彼女が、夜のベランダで一人、星を眺めていた。


「シトネ?」

「あ、リンテンス君」


 時計の針は日を跨ぎ、夜空には真ん丸の月が輝いている。

 俺はシトネの隣まで歩み寄って、一緒に星を見る。


「眠れないのか?」

「うん」

「合格発表のこと?」

「うん、正解」

「心配しなくても良いって。あの成績で落ちてるわけないから」

「そうだと良いな~」


 シトネは星を見つめながら小さく微笑む。

 どこか切なげで、表情と言葉が一致していない違和感に気付く。


「そんなに不安か?」

「だってほら、私はこれだから」


 シトネは自分の耳に触れる。

 彼女は獣人の先祖返りで、たったそれだけのことで周囲からの印象は悪い。

 ケモノ臭いとか、劣等種族とか。

 あることないこと散々に言われてきたのは、試験の日に伝わった。


「それこそ心配いらないよ。あそこは優秀な魔術師を育てるためだけの学校だ。家柄も、人種も関係ない。注目されるのは才能があるかどうか。シトネは間違いなく、その条件を満たしているよ」

「そう……かな?」

「ああ。師匠も褒めていたしな」

「本当?」


 俺は頷いてから補足する。


「独学にしては洗練されている。磨けばもっと光る石だって。聖域者が言うんだから、もっと自信をもって良いと思うぞ」

「そっか。ありがとう、リンテンス君」

「いや、言ったのは師匠だぞ?」

「うん。でも今、私のことを気にかけてくれるのはリンテンス君でしょ? だからありがとうって」

 

 シトネはそう言って微笑んだ。

 夜空の月明りの所為か。

 その笑顔は妖艶で、見惚れてしまいそうだ。

 

「ど、どういたしまして。ちょっとは自信もてたか?」

「うん! あーでも、明日になったらまた不安になるかも」

「何だそれ」

「だって気になるんだもん。大丈夫かなーって」 


 シトネは小さくため息をもらし、ベランダの柵に腕をのせる。

 気持ちはわからなくもないけど……


「そんなんじゃ一日もたないぞ」

「う~ん……」

「ならば良い提案があるぞ!」


 唐突に後ろ、ではなく頭上から声が聞こえた。

 思わず上を振り向くと、プカプカと浮遊して俺たちを見下ろす師匠がいた。


「アルフォース様!?」

「し、師匠!? いつからそこに?」

「ん? 君たちが話し始めてからだよ」


 つまりずっといたのか。

 まったく気付かなかった。


「よっと! 話は聞かせてもらったよ。こういう時は年長者である僕に任せたまえ」

 

 師匠はベランダに降り立って、わざとらしく大げさに、両手をぶおんと振って語り出す。

 活き活きとした表情。

 こういう時の師匠は、何か悪いことを考えている場合が多い。

 俺は疑り深く師匠をじとーっと見つめる。


「そんな顔をしないでくれ。何、ちょっとした提案だよ」 

「……一応聞きましょうか」

「うむ! 明日は君が彼女に王都の街を案内してあげるのはどうかな?」

「えっ、案内ですか?」


 思ったより普通の提案で、少し拍子抜けした。

 師匠は続けて言う。


「そうだとも! 落ち着かないというのなら、他のことで気を紛らわせればいい。聞けば王都に来たのは初めてだと言うじゃないか。これからのことを考えたら、一度くらいちゃんと案内してげたほうがいいのではないかな?」

「た、確かにそうですね」


 おかしい。

 師匠にしてはまともな提案すぎる。

 いつもならもっとエグイ提案をしてくるのに……何か裏があるんじゃないか?

 とか考えつつ、シトネの意見を聞くことに。


「シトネはどう?」

「ぜひ!」

「お、おう……そうか」


 こっちは予想より食い気味で、ちょっと引いてしまった。

 さっきまで不安だとか言っていた癖に、ワクワク顔で見てくるんだもんなぁ。


「よーし! それじゃ明日はデートで決まりだね!」

「で……」


 デート?

 え、あ……いや、そうなるのか。

 今さら気づいた。

 師匠が活き活きしていた理由はこれか。

 今はニヤニヤしているし。


「べ、別にデートじゃないでしょ。というか案内なら師匠もくればいいじゃないですか」

「なーにを言っているんだい君は~ まったく鈍感だな。そんなんじゃモテないぞ~ それとも一人で案内する自信もないのかな?」


 イラッ!

 これが師匠と会ってから、一番イラついた瞬間だった。

 表情とか言い方とか、どこにイラついたか考えるともっと腹がたつ。


「わかりましたよ! じゃあ師匠は家から出ないでくださいね!」

「はっはっはっ、仕方ないな~ 明日は二人で楽しんできなさい」

「あと食事も自分で作ってください」

「えっ……そ、それは困るな~」


 注意:師匠は料理がドヘタです。

本日の更新はここまでとなります。

明日も頑張って更新していくので、【面白い】、【続きが気になる】と言う方は、☆☆☆☆☆を★★★★★にしてくれると凄く嬉しいです。

早く続き書けよ、と言う場合も然り!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新連載開始!! URLをクリックすると見られます!

『通販で買った妖刀がガチだった ~試し斬りしたら空間が裂けて異世界に飛ばされた挙句、伝説の勇者だと勘違いされて困っています~』

https://ncode.syosetu.com/n9843iq/

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

7/25発売です!
https://d2l33iqw5tfm1m.cloudfront.net/book_image/97845752462850000000/ISBN978-4-575-24628-5-main02.jpg?w=1000

7/25発売です!
https://d2l33iqw5tfm1m.cloudfront.net/book_image/97845752462850000000/ISBN978-4-575-24628-5-main02.jpg?w=1000
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ