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【WEB版】ナナイロ雷術師の英雄譚―すべてを失った俺、雷魔術を極めて最強へと至るー【コミカライズ】  作者: 日之影ソラ
第一部

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18/106

18.宿ならお貸しします

「これにて全行程は終了いたしました。受験者の皆様は速やかに試験会場から退室してください」


 闘技場にアナウンスが流れた。

 八時半から始まった入学試験は、十五時半をもって終了となる。

 合格者の発表は一週間後の正午。

 魔術学校の門前にでかく張り出される予定だ。

 それまで受験者は、合格しているかソワソワしながら待つことになる。

 ちなみに遠方から来ている者は、王都で宿を取って一週間を過ごす者が多い。


「終わったねー」

「ああ」


 ぐぐっと俺は背伸びをした。

 最後の実戦試験が予想より大変で、身体に疲れを感じる。

 ゾロゾロと帰宅する受験者たちを見ながら、自分も早く帰りたいと思ったが、ふとシトネはどうするのかが気になる。


「シトネはどうするんだ? 一旦戻るのか?」

「ううん。合格発表までは王都に残るつもりだよ。私の村までけっこう距離もあるしね」

「ふぅん、宿は?」

「あっ……」


 シトネがぴたりと止まる。

 予想通り、宿泊のための宿はとっていないらしい。

 あれだけ慌てていれば、当たり前だろうけど。


「わ、忘れてたよ。今から安い所を探しにいかなきゃ」

「たぶんもう空いてないぞ」

「えっ、そうなの?」

「そりゃそうだろ。今の時期は他の受験者だって宿泊するし、安い所なんて間違いなく満室だよ」

「そ、そうなんだ……うぅ、あんまりお金持ってきてないよぁ」


 シトネは小さな声で「どうしよう、どうしよう」とつぶやいている。

 本気で困っている様子なのは、誰がどう見ても明らかだ。

 遠方なのに馬車も使わず走って来るくらいだし、色々と大変なのだろう。

 しまいには……


「一週間くらいなら野宿も……ありかな」


 とか言い出して、さすがに良くないと思った。

 野宿という時点で危険なのに、女の子が一人でというオプション付き。

 これは本当によくない虫が湧きそうだ。

 やれやれ、このまま放っておくと、本気で野宿しそうだな。

 せっかく知り合えた縁もある。

 ここは紳士的に、彼女を守るための提案をしよう。


「おほんっ、シトネ」

「はい?」

「もしよければ何だが、俺の屋敷に泊るか?」

「え……いいの?」

「ああ。まぁ屋敷といっても小さいし、使用人もいないから大したもてなしは出来ないけどさ。シトネがそれでも良ければ」

「ぜひお願いします!」


 俺が最後まで言い切る前に、シトネは俺の手をがしっと掴んでそう言った。

 キラキラと目を輝かせ、尻尾を横にふりふりしながら。

 あまりに回答が早すぎて、提案した俺のほうが驚いてしまっている。

 一応、男の家に誘われているんだぞ?

 とか思いつつ彼女の表情を見るが、そんなことは微塵も考えていなさそうで呆れてしまう。

 意識しているこっちが恥ずかしい。


「じゃあ決まりだな」

「うん! ありがとうリンテンス君」

「どういたしまして。まっ、これからも学校生活を送る仲間だしな」

「合格発表はまだだよ?」

「間違いなく受かってる。俺もシトネも」

「す、すごい自信だね……でもそっか! そうだよね」


 実戦試験で上位に食い込んだ二人だ。

 余程午前の試験で悪い評価を得ていない限り、落ちることはないだろう。

 俺としては、首席で合格出来ているかが気になって仕方がない、という感じかな。


「さて、それじゃ行こうか」

「うん! お世話になります」


 そう言って深々と頭をさげるシトネ。

 俺は大げさだと笑いながら、彼女をつれて屋敷へ向かう。

 

「わぁ~ おっきな屋敷だね」

「そう? 他の貴族たちの屋敷に比べたら、小屋みたいな大きさだよ」

「そうなの!? 貴族って凄い」


 シトネはふむふむと頷きながら屋敷を右から左へ見渡していた。

 目新しそうに見ている彼女を見ていると、何だかこっちまで楽しくなる。

 動きや言動が野性っぽくて可愛らしい。

 ケモノ臭いとか言っていた奴らは、本当に見る目がないな。


「リンテンス君は一人でここに住んでるの?」

「ん? ああ、普段はね」

「普段は?」


 シトネは小さく首を傾げる。


「今は師匠が一緒にいるよ」

「リンテンス君の師匠! どんな人なのかな?」


 急に興味津々の様子を見せるシトネ。

 その目はキラキラと輝き、期待に満ちていた。


「う~ん、会えばわかるよ」


 だから、俺はあえて教えない。

 言葉通り、会って知るほうがインパクトも大きいと思うから。

 彼女がどんなリアクションをするのか楽しみだ。


 俺は玄関の扉を開けて中に入る。

 師匠のことだから、俺の帰宅は感知しているだろう。

 予想通り、俺たちが玄関に入ると……


「ただいま、師匠」

「おかえりなさい、リンテンス」


 師匠が笑顔で出迎えてくれた。

 そしてすぐ、師匠の視線は俺ではなく、隣にいる彼女へ向く。

 

「おや?」


 師匠はシトネを見て驚いたあと、ニヤっと笑って俺に言う。


「おやおやおや、入学前から恋人を作ってくるとは、僕の弟子は中々にプレイボーイだね~」

「ちょっ――」

「こ、恋人!?」


 かーっと顔が赤くなる。

 チラッと見えたシトネの頬も、赤くなっていたのがわかった。


「違いますから。からかわないでくださいよ、師匠」

「おや、そうだったのかい? これはこれは早とちりを失礼した。初めまして可愛らしいお嬢さん、僕はアルフォース・ギフトレン。彼の師匠だ」

「あ、アルフォースって……あの聖域者のアルフォース様!?」


 シトネは目を丸くして驚きを見せていた。

 一歩後ずさり、驚きすぎて身体が後ろに傾いている。

 

「おっと、僕のことを知っているのかい?」

「そりゃ知ってるでしょ。魔術師で師匠のことを知らない人なんていませんよ」

「はっはっはっはっ、確かにそうだね」


 師匠はわざとらしく笑っている。

 シトネはというと、驚いたまま固まって、しばらく何も言葉を発さなかった。

 期待通り、良いリアクションだな。


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