閑話⑤ エルとの出会い -前-
エルが生まれた場所は、ゴミのたまり場よりも汚くて、醜い場所だった。
人の命が転がっている石ころと同価値。
道を歩けば死体が転がっていることが当たり前の世界。
呑気に照らす太陽を見ていると、平和に甘んじている人たちが憎らしく思えるほどに。
そんな場所で生まれたからこそ、エルは早々に悟った。
強くならなきゃ……
生きていくためには力がいる。
非力だろうと、女だろうと関係ない。
腕っぷしじゃなくてもいいから、生き抜くための強さを身につけよう。
幼い彼女は、一日一日を生きていくので精一杯だった。
盗みなんて軽い方だと言わんばかりに、汚い仕事にも手を染めた。
それを恥ずかしいとか、罪深いとは思わない。
生きていくために必要なことだから。
そうしていかなければ、明日は訪れないから。
誰も助けてくれないのなら、自分で何とかするしかないのだ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ギルド会館の片隅で、ひっそりと過ごす一人の影。
周囲には冒険者たちのパーティーが座り、何やらうわさ話に興じている。
「おい聞いたか? 新人のリンリンとかいう奴」
「あー知ってる知ってる。高難易度の依頼を片っ端からこなしてる奴だろ?」
「そうそう! 俺さぁ、チラッと戦ってる所見たんだけど、ありゃーやばいぞ。そこらのモンスターが可愛く見えるレベルだ」
「マジか。噂は本当だったってことかよ。でも何で変な仮面付けてるんだろうな」
「なぁ~ あれの下ってどうなってるんだろ? 意外と可愛い顔してたり」
「ありえるねぇ~ リンリンって名前の時点で可愛い感じしてるしよ」
噂の新人冒険者リンリン。
変わった形の仮面をつけていることも相まって、注目を集めていた。
その正体は誰なのか。
疑問を抱く者も少なくない。
ハッキリわかっているのは、強大な力を持っているということ。
それだけわかれば十分ではあった。
「彼のこと調べてくれるか」
「リンリンっすか」
「そうだ」
ある日、噂の新人を調べてほしいという依頼が入った。
整った服装の男からだ。
身分は名乗らなかったが、一目で貴族の使いであることを察した。
「どこまで調べればいいっすか?」
「可能な限り全て。正体はもちろんだが、目的や趣向があるのであれば調べてほしい」
「期限は?」
「特に設けなくても構わない。それとこれは前金だ。十分な情報を手い入れたら、この三倍の額を出そう」
「良いっすね。受けるっすよ」
「頼んだぞ、情報屋」
中々羽振りの良い仕事だった。
他人の身辺調査は時々あったけど、金額的には安いものばかり。
今回はそのどれよりも高額の報酬が期待できる。
「リンリンねぇ~ 変な仮面に変な名前っすね」
最初の印象なんて、その程度だったと思う。
だけどエルは、この出会いを運命だと思うようになる。
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