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98.双月

 憑依装着の発動。

 俺の瞳が七色に変化し、爆発的に魔力が上昇する。

 その急激な変化をアリストも感じ取っていた。


「この魔力……」


 そうか、あれが情報にあった憑依装着という業だな。

 未来の自分の降霊し、現在の自分に憑依させることで、あらゆる能力を向上させる。

 悪魔を倒した彼の奥の手。

 確かにすさまじい魔力だが……


「それがどうした? いくら魔力量が上がったところで、術式が使えない状況は変わらない。術式を持つ者と持たない者。その差が埋まる簡単に埋まらないぞ」

「それはどうかな?」

「何だと?」


 憑依装着を発動したのは、もしかすると術式が使えるようになるかも。

 なんて希望的観測に頼りたかったからじゃない。

 

 懐から四角い箱を取り出す。

 手のひらサイズで、両開きの蓋が閉まっている。


「これはまだ、師匠以外の誰にも見せたことはない」


 悪魔にも、彼にも、俺が持っているという情報はない。

 この箱は特殊な収納用の魔道具だ。


「解」


 箱が俺の頭位の大きさに変化する。

 そして蓋が開き、中から飛び出したのは剣の柄。

 俺は柄を掴み、引き抜く。

 対を成す二本の魔剣を――

 

「――双月(そうげつ)

「双月だと? 六魔剣の一振りか」


 六魔剣。

 この世に存在する魔剣の頂点であり、現代の技術では到達不可能とさえ言われる。

 エルマが目指していた魔剣の一振り。

 見た目はカトラスという武器の形状に似ていて、二本で一つの魔剣。

 鍔の部分を赤いフサフサの毛が覆っているのも特徴的だ。

 元々は師匠が手に入れたものを俺が譲り受けて使っている。


「そんな物まで所持していたとは……いや、あの男の弟子ならあり得なくもない」

「ああ、師匠と仲が良くないんだっけ」

「そういうわけではないさ。ただ彼とは思想が合わないだけだ」


 確かに気は合わなそうだ。


「いくぞ」


 双月を左右に構え、俺はアリストへ向かって駆ける。

 アリストは剣から影の刃を放ち、俺の接近を阻もうとする。

 無数に枝分かれして迫る影の刃。

 俺は舞うように剣を振り、その悉くを打ち落とす。


「その程度で止められると思うなよ」

「ちっ」


 アリストは自身の足元からも影の刃を生成。

 先ほどまでの三倍の刃が俺を襲う。

 しかし三倍だろうと十倍だろうと、今の俺には届かない。

 憑依装着で増した魔力量。

 鍛え上げられ肉体を、さらに強化魔術で強度を増していく。

 瞬く間にアリストの眼前まで迫り、剣術での戦いに持ち込む。


「くっ、術式なしでここまで」

「当たり前だろ。俺には雷魔術しかないんだ。一つしか使えない俺が、それを封じされた時の手を考えていないとでも思ったか?」


 十一種から一種。

 多くのものを失い、手元に残ったのは一つだけ。

 それを磨き上げここまで這い上がってきた。

 一度全てを失ったから、俺は知っている。

 今ある力が、栄光が、未来でも続いているとは限らないということを。

 だから俺は今日まで、身体づくりも、魔力コントロールの鍛錬も、剣術も……かかしたことは一度もない。

 それが今、かの騎士を追い込んでいる。


「っ……」

「重いだろ? これが双月の能力だ」


 連撃による斬撃威力の上昇。

 双月は攻撃を繋げるほど威力が上がる。

 インターバルは一秒。

 双月は六魔剣のうち唯一、属性効果が付与されていない魔剣だ。

 その代わり、斬撃の威力に特化している。

 故に、双月の性能は、使い手の力量に大きく左右される。


 上がっていく斬撃の威力。

 終わることない連撃に耐えかねて、アリストは大きく後退しようとした。


「逃がさない」


 俺はそれを許さない。

 攻撃をつなげ、さらに威力を上げていく。

 これだけ隙なく攻撃を続ければ、斬撃の対処に意識をさかれる。

 現に影からの攻撃は減っている。

 おそらく結界を発動したことで、影のコントロールも難しくなっているのだろう。


 連撃が遂に、百を超える――


「くっ……」


 アリストの剣が砕け散る。

 剣を失った彼は、咄嗟に影の操作へ全神経を注ぐ。

 足元から伸びる黒い影が、俺の喉元に迫る。

 

 それよりも一瞬速く、双月を振り抜く。


「がっ……」


 影の刃は俺の喉に届くことなく消滅した。

 十字に斬り裂かれ、血が噴き出る。

 彼が倒れると同時に、漆黒の結界は崩れ去った。


「すぅー……ふぅ」


 俺は大きく息を吸い、呼吸を整える。


「……どうした? とどめはささないのか?」

「当たり前だろ。聖域者のあんたを殺したら、悪魔の思うつぼだ」

「ふっ、さすがに馬鹿ではないな。完敗だよ」

 

 仰向けに倒れ、彼は満足げに笑う。


「どうして満足げな顔をしているんだよ」

「そんな顔をしているか?」


 俺が頷くと、彼は小さくため息をこぼす。


「……そうか」

「なぁ、何であんたは……そこまでして魔術師だけの世界を作ろうとしたんだ?」

「ふっ、それを聞いても納得しないだろう?」

「うん。たぶんしない。どんな理由があっても、エルを傷つけたことは許せないから」

「……ならばなぜ聞く?」

「……寂しそうだったから」


 剣には感情の宿るという。

 彼の剣から感じられたのは、怖いくらいの孤独だった。

 思えば彼は最初から、後ろ向きに剣を振るっていたように思える。

 本気で俺を倒すつもりで……だけど、本当はやりたくないと、心の中で葛藤している。

 そんな気がしてならなかった。


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