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97.無間の女王

 リンテンスとアリストが激闘を繰り広げている一方、リチル大渓谷に残された二人も奮戦していた。


「あーもう! キリがねぇーっての」

「文句を言わないでくれ。ほら、そっちから増援だよ」

「みりゃーわかるわ!」


 迫りくるモンスターの大群。

 大小様々な怪物が二人の人間に襲い掛かる。

 並みの魔術師が相手なら、一本も耐えられない猛攻も、この二人には緩やかな(さざなみ)と変わらない。


「まだ増えてんのかよ」

「妙だね。元からここにいたモンスターを呼び戻したのかと思ったけど、明らかに数が多い」

「どっかの馬鹿が送り込んでるんじゃないのか?」

「そのお馬鹿さんはたぶん、うちにリンテンスと戦っているよ」


 つまり、この場へ魔物を送り込んでいるのは別の人間。

 否、人間ではないだろうとアルフォースは予想する。


「悪魔が近くに来ているって言いたいのか?」

「だと思って警戒していたんだけどね~ どうやらそれも違うかもしれない」


 聖域者二人を狙うにしては方法が回りくどい。

 ずっと大したことのないモンスターを送り続けているだけだ。


「もし僕なら、戦ってる二人が弱ったところを狙うと思うんだよ」

「あたしでもそうする」

「おや? 気が合うじゃないか」

「うるさい。ってことは悪魔はあっちか?」

「僕はそう予想しているよ。こちらはただの時間稼ぎで、悪魔の狙いはリンテンスとアリストだ」


 悪魔とアリスト・ロバーンデックが協力関係であることは間違いない。

 ただ、悪魔にとって聖域者は最優先で倒すべき対象だ。

 対等な立場で協力しているとは考えにくい。

 上手く利用して、隙あらば消す……くらいのことは考えていて当然だろう。


「……」

「弟子が心配か?」

「ほんの少しね」

「さっきは心配ないとか言ってた癖に」

「そこを突かれると痛いな~ でもね? 信じることと、心配しないことはイコールじゃない」

「……」

「って前にリンテンスが言ってたんだ」

「だろうな。お前の言葉じゃない」


 アルフォースはまったくだと言って笑う。


「アルフォース、お前何だか変わったな」

「そうかい? 僕はいつでも僕のままだよ」

「あっそ。まぁどっちでもいいわ」


 エルマは呆れたように小さくため息をもらす。


「仕方ねぇな」

「エルマ?」

「お前は弟子の所に行け。お前らなら場所の検討くらいついてるだろ?」

「……いいのかい?」

「なめてるのか? この程度のモンスターあたし一人で十分だ。もし悪魔が出てきたら勝手に逃げるから安心しろ」


 アルフォースは意外だと言いたげな表情で彼女を見つめる。


「何だよ、文句あるのか?」

「いいや、実にありがたい提案だよ。ただ君らしくないと思ってね」

「勘違いすんな。別にお前のためでも、あのガキのためでもない」

「じゃあ何のために?」

「はっ! 決まってるだろ? あのガキに何かあったら、可愛いシトネちゃんが悲しむからだよ」


 エルマはそう言ってアルフォースに背を向ける。


「はっはっはっ、そうか。それは実に、君らしいね」

「だから言ったろ?」

「ああ。ありがとう」


 アルフォースの姿が消える。

 一人残されたエルマを、大量のモンスターが囲む。

 餓えた獣が肉をほっするように、よだれを垂らしながら近づく。


「さーて、お前らは運が良いな」


 パチンッ!

 彼女が指を鳴らすと、彼女を囲うように剣の雨が降り、地面に突き刺さる。


「あたしの実験台になれるんだからなぁ!」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 漆黒の結界に覆われた中は、寒くもなく、熱くもない。

 それなのに寒気を感じる。

 完全な暗闇というものは、そこにいるだけで不安を煽るのだと理解した。

 いや、この場合は不安ではなく事実だ。


「術式が使えない?」

「そうだ。この『無間の女王』は、閉じ込めた相手の術式発動を無効化する。ヘカテーから授かった加護を媒介に開発した俺だけの固有魔術だ」


 術式発動を無効化?

 そんなの反則的な効果の結界魔術があるのか。

 にわかに信じ難いが、実際色源雷術は発動しない。

 術式にどれだけ魔力を流しても、うんともすんとも言わない。


「代わりに夜の加護は消え、術者である俺自身にも制限はかかるが、術式が使えないのは君だけだ。魔術師が術式を封じられる……それがどれほどの意味を持つか、君ならわかるだろう?」


 このとき俺は、彼のもう一つの呼び名を思い出した。

 夜の騎士アリスト・アロバーンデック。

 またの名を、魔術師殺し。

 物騒な異名は、この力から付いたものだったのか。


「本当はこんな卑怯な手を使いたくはなかった。だが君は強い。嘗めてかかれば負けるのは俺のほうだ」


 アリストは切っ先を俺に向ける。

 刃には影を纏わせて。


「すまないな。君になら聖域者になれたと思うよ」


 切っ先のから影の刃が伸びる。

 無数に枝分かれして、上下左右から迫る。

 

「っ……」


 俺は後方に跳び避ける。

 どうやら魔力による強化は可能らしい。

 無効化しているのはあくまで術式だけのようだ。


「良かった。これならまだ戦える」

「どういう意味だ?」

「まだ終わりじゃないって意味だよ」


 憑依装着――

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