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告白

 

 ジュードは昨日から侯爵とポレルモ子爵夫人たちへの追求と処分を寝る暇もなく処理していた。

 侯爵やポレルモ子爵と繋がっている者たち――謀反を企む者たちをこの機会に潰しておかなければならない。

 当然のことながら侯爵は神官長の暴走だとしらを切ろうとした。

 しかし以前から地道に証拠を集めていたジュードは、侯爵たちがアドリアーネに漏らした交友関係を日記で知り、その経路から確かな証拠を見つけたのだ。


 今回の誘拐事件は侯爵たちを拘束する絶好の機会となった。

 ただその代償はあまりに大きい。

 ようやく政情が落ち着いてきたところに、侯爵という大物を謀反の罪で裁かなければならないのだ。


(また俺は残虐王に戻ってしまうんだな……)


 たとえ理由ある裁きでも、元伯爵家の三男が玉座について極刑を言い渡せば残虐だと陰で罵られる。

 国内での醜い争いを終わらせたくて剣を握り多くの者たちを殺め、王位に就いてからも剣を向けてきた者には容赦しなかった。

 矛盾しているのはわかっている。

 それでも自分がやらねばならぬと、少ない賛同者とともにがむしゃらに突き進んできた。


(やはり私に聖王女は――アドリアーネ殿は分不相応すぎたのだ……)


 最初は婚約者としての名前を借りるだけのつもりだった。

 だから手紙が初めて届いたときには驚き、返事を書くのもためらわれ難儀した。

 それがいつしかアドリアーネとの文通はジュードの癒しとなり、婚約解消の手続きを先延ばしにしてしまったのだ。

 ジュードはひと月前、婚約者一行が――アドリアーネが聖王国を発ったとの連絡を受け、そこで自分の行動が遅すぎたことを知った。


(しかも出迎えたときには記憶にあった幼い少女じゃなく、美しい女性となって現れたのだから、動揺するのも仕方ないだろう)


 だが残虐王と呼ばれる自分と聖王女ではあまりに不相応であり、早々の婚約解消が必要だった。

 それができなかったのはジュードの弱さだ。

 純真でひたむきに自分を想ってくれるアドリアーネに変わらず癒しを求め、いつしか心から惹かれるようになっていた。

 身分差だけでなく年齢差を考えても望むべく相手ではないのに、アドリアーネの好意に甘えてしまったのだ。


 目を閉じ己の愚かさを反芻し、深く息を吐き出す。

 普段から徹夜は慣れているのだが、今回に限っては疲れがずしりと体に重くのしかかっていた。

 ジュードは目を開けると鬱々とした気分でまだまだ残っている仕事を処理しようとした。

 そこにノーハスがやって来る。


「ジュード様、こちらをアドリアーネ様の侍女から預かってまいりました」

「アドリアーネ殿の?」


 アドリアーネとヘレオン王子一行が昼過ぎに隣街から聖王国に向けて出発すると聞いていたジュードは驚いた。

 この時間では急いで帰らなくては出発に間に合わない。

 それなのに自分の侍女に手紙を託すなど、余程のことなのではないか。

 ジュードは何があったのか心配になり、ノーハスがいる前で手紙を急ぎ開封した。


 ジュードは手紙を読むと、信じられない思いで再びしっかりと目に焼き付けるように読み返した。

 やはり思い違いではない。

 自分の願望が錯覚を起こさせているわけではないことを確認すると、壊れやすい宝物を扱うようにそっと手紙を封に戻し上着の中へ――胸の内へとしまった。


「ジュード様、お返事はいかがされますか?」

「……返事?」

「今すぐお書きになるのなら、王女殿下が出発される前にお渡しできるでしょう」

「出発……」


 まるで夢を見ているようでぼんやりしていたジュードは、ノーハスの言葉にもすぐには反応できなかった。

 かなり珍しいジュードの様子に心配してノーハスが眉を寄せる。

 ジュードはそんなノーハスを見て、ようやく我に返った。

 ここでぼんやりしている場合ではない。


「ノーハス、出発の準備を! アドリアーネ殿を引き留めに――いや、アドリアーネ殿を迎えに行くぞ!」

「――はっ!」


 ノーハスは嬉しさを堪え、ジュードの決意に満ちた言葉に返事をした。

 すぐさま踵を返して部屋を出ていく。

 ジュードもまたあとを追うようにして部屋を出ると一度足を止め、ノーハスとは別方向へ急ぎ進んだのだった。



 ~*~*~


 親愛なるジュード様


 このたびのことは非常に残念でなりません。

 ですが決してジュード様の責任ではないのです。

 今になってようやくジュード様がこの結婚を渋っていらっしゃった理由が理解できました。

 私という存在が皆の心を惑わし、このような事態を引き起こしたことは間違いありません。

 それなのにジュード様は私や罪を犯した者たち以上の苦しみを抱え込んでしまっている。

 どうすればその苦しみを取り除くことができるのか、何もできない自分がもどかしく悔しくもあります。

 ですが愚かで身勝手な私はジュード様を諦めることができそうにありません。

 今はただ兄の決定に従うしかありませんが、一度国へ戻り改めてお父様にお願いしようと思っております。

 ただ今回のようにジュード様にご迷惑をおかけするわけにはまいりません。

 そのために、私はもっと強くなれるよう、力をつけられるよう励みます。

 ですからどうかわたしを見捨てないでください。

 大変我が儘な願いだというのは重々承知しております。

 それでも私はジュード様の妻になりたい。幼い頃からの夢を叶えたい。

 想像でしかなかったジュード様とこのひと月の間に直接触れ合うことができ、確かな想いへと育ったのです。

 私はジュード様をお慕いしております。

 いいえ、そのような曖昧な言葉では表せないほどに大好きです。愛しています。

 必ず戻ってまいりますので、どうかそのときはジュード様が受け入れてくださることを切に願っております。

 このひと月、楽しい時間をありがとうございました。

 また必ずお会いできることを信じております。


 愛をこめて アドリアーネ




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