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アンネローゼの身の上話 その3

当然だけど、王子だけではなく、その場にいた侍女たちもあっけに取られた顔をして私をみていたわ。それはそうでしょうね、王子の婚約者が約束もなくやってきて、持参したドレスに今から着替えます。なんて宣言したのですから。

私は一緒に来たメイドたちと、隣の控え室に入り仕立てたばかりのドレスに着替えを始めたわ。そんなに難しい髪型はできなかったけれど、新しいドレスを着て、王子の前に現れ優雅にお辞儀をすると、少しだけ王子の顔が笑ったように見えたわ。

私は、少し俯いて、はにかみながら、

「似合ってますか?」

と、消え入りそうな声で王子に聞いてみたの。そうしたら、王子は、

「よく似合っているよ」

って、答えてくれたわ。これを聞いて、私は内心両手をあげて喜んだわ。だって、王子がこちらを向いたのですもの。

他人に関心がないくせに、婚約者である私からは注目されたい、他に目を向けさせたくない。そのくせ、何も努力しない。そんな王子が私を見て褒めてくれたのよ。

「他にも沢山ありますの」

私は、とびきりの笑顔を王子に向けて、すぐに別のドレスに着替えたわ。間を開けてはいけない。って、とにかく、こちらのペースで進めなくては!って感じだから。

持ってきたドレスを全部王子に見せ終わって、ようやく私は来てきたドレスにもどって、王子の傍らに落ち着いたの。隣に座るのではなく、向かい合って座るわけでもなく、王子の傍らの床に、愛らしく膝をついたの。

王子の目が驚きをかくせていなかったわ。その驚きを隠さないまま、

「どうして、隣に座らないんだい?」

そう、聞いてきたのよ。作戦は成功したわ。

「まだ、許可を頂いてはおりません」

私は、少し首を傾げて王子の目を見つめながらそういったの。そうしたら、王子の目が悦びに溢れたのが分かったわ。

こーゆーのがお好きなんでしょう?って、私は内心毒づいていたの。自分は何もしないくせに愛されたいのよね。ああ、違うわね、私を束縛してるのよね。自分だけを見つめて欲しいから。私を誰にも触れさせたくない、でも、私を自慢したいのよね。

だから、だから、よ。

「ああ」

王子がなにか言おうとした時、私はそれを遮るように話し始めたわ。

「聞いてはくださいませんの?」

私は、下から王子を見つめながら話し始めたわ。

「新しくドレスを仕立てるのに、王子好みをお伺い致しましたでしょう?」

「そうだな」

「ですから、1番に王子に見せたかったのです」

「聞いたな」

「邸から着てきては、他の男性に見られてしまうではありませんか」

私は、わざとらしく頬を膨らませて見せたのよ。そうしたら、王子は私を食い入るように見つめたわ。

「他の男性、とは?」

ああ、引っかかった。そうでしょう、あなたが言って欲しいことでしたでしょ?私はちゃんと分かってますのよ。

「邸にはお父様、お父様の、執事。弟もおります。御者もそうですし、王宮に来たら、門番、護衛の騎士たち、王宮に務める文官、ああ 」

私はそこまでまくし立てて、あら、いけない。と、可愛らしく口を手で抑えて、

「国王陛下も…」

そう言ったら、王子はますます目を見開いて、私をマジマジと、見つめてくれたわ。本気で言っているのか?って、目が問いかけているのが分かったの。だから、

「不敬にあたりますかしら?」

私は、目を潤ませて王子の目を見つめ返したわ。こーゆーの、お好きでしょう?あなた好みでございましょう?って、内心毒づきながらね。

「いや、大丈夫だろう。君は僕の婚約者なのだから」

王子が戸惑いながらもそういった時、

「嬉しい!」

私は王子の、首に抱きついてやったの。子犬がちぎれんばかりに尻尾を振るように、王子に頬ずりを、したのよ。

「ああ、わかったよ、アンネローゼ」

私が、全身で喜びを表現したものだから、王子はかなり戸惑ったみたいなんだけど、

「ああ、申し訳ございません。はしたない真似を…」

そう言って、今度はものすごく王子から離れたの。そうして、俯いて、とても恥ずかしそうに、

「こ、こんなことは…王子の、前だけですわ。きちんと、淑女の教育を家庭教師から受けておりますから…」

私が恥じらいの仕草をすると、王子はとても満足そうに笑ったわ。それを見て、私はああ、私ってば、よく出来た。って自分で自分を褒めてあげたのよ。

「明日もきます。明後日も!」

「え?」

「だって、私は王子の婚約者でございましょ?毎日来ます。王子はお忙しいですから、私が毎日こちらに参ります」

私はそう言うと、それはそれは丁寧に、淑女の礼をして部屋をあとにしたわ。

もちろん、王子の返事なんて聞かなかっわよ。


帰りの馬車の中で、私たちは声を潜めてハイタッチをしたわ。だって、上手くいったんですもの。これで毎日王宮に、お出かけができるの。王子のことが大好きな可愛らしく一途な婚約者のご令嬢アンネローゼになれたのよ。王子がどこまで誤解してくれたかは分からなかったけれど、少なくとも周りの侍女や女官、護衛の騎士たちはそう受け取ってくれたわ。

国王陛下と、女王陛下は、王族のしきたりを幼いながらに受け止めて、王子を慕ってくれる心優しい可愛らしい婚約者と、私を認めてくれたようで、私のために王子のティータイムは長めに、そして用意するお菓子は王子の好みだけではなく、私の好みのものも用意するよう取り計らってくれたのよ。

メイドたちは、毎日お出かけができるし、王宮の美味しいお菓子は食べられるし、綺麗なドレスは見られるし、とても喜んでいたわ。ずっと屋敷に閉じ込められる令嬢のメイドとしてだと出会えなかったような騎士様や文官がいるのだもの。より良い結婚相手が見つけられるし、行儀見習いもハイスペックなものが受けられて一石三鳥よね。

お父様もかなり驚いていたけれど、王子がすこぶる機嫌が宜しい。ということで、私専用の馬車を用意してくださったわ。毎日王宮に行くのに、私が馬車を使ったら、お母様がお出かけする時の馬車がなくなってしまうでしょう?

私は、きっちりとカーテンがひけるようにお願いをしたわ。道中、私の姿を誰にもみられないように。って、お父様はものすごーく、納得をしてくれて、取り付けるカーテンは布地の厚いものにしてくださったの。

王子の気にいるようにして差しあげて、あらぬ疑いをかけられないようにして、これ以上枷をはめられないように努力したわ。

王子のお部屋に行く前に、必ず女王陛下にご挨拶をして、礼儀正しく振舞って、サロンにいるご夫人方に淑女の挨拶をして、王子の婚約者のご令嬢として隙のないように振舞っていたのよ。

だから、王子が学校に入る時は、静かに目の前で泣いて差しあげたわ。もともと2歳年上なんですもの、婚約した時点で王子が1年もしないで学校に入ることは分かっていたことでしょう?

でもね、私はこの世の終わりかの如く王子の前で悲しげに泣いたのよ。そうしたら、

「アンネローゼ、ごめんよ。学校通うのはこの国の国民の義務なのだよ。王族も貴族も平民も関係なく、この国があるために大切な事を学ばなくてはならないのだ」

王子が最もらしいことを言って、私をなぐさめてくれたわ。もちろん、私はそんなことはよく分かっていましたけど、王子を慕いすぎている婚約者のご令嬢に徹していましたから、そこは泣かなくてはいけませんでしょう?

「もちろん分かっております、王子。王子が立派な王になるためには、学校に通い、全ての国民が国を成り立たせるために必要な存在であることを学び、優秀な人材を育みそのものたちと有効な関係を築く必要なあることは、もちろん、重々承知しております」

でも、会えなくなるのは寂しいのです。って涙を拭いながら訴えれば、王子の心は安堵したでしょうね。

「アンネローゼ、君もあと2年したら学校に通うのだよ」

「分かっております。でも…1年しか王子と共に通えないのは、やはり寂しいのです」

そう言って、胸の前で手を組めば、庇護欲そそられる儚げなご令嬢に、なりますでしょう?

こうして私は、王子好みの令嬢を上手いこと演じ続けてきたのです。

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