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ブロッサム商会


「準備整いました!」


「では、ブロッサム商会。開店致しましょう」


「「「「「はい!!」」」」」


 リーンの掛け声と共にオープンした商会。

 初めは遠巻きに見ている人も多かったが、1人また1人と買い物客が訪れ、そのお得さに大量購入。

 それを見ていた人達は驚き、その噂は瞬く間に広がって3日もすれば大繁盛店になっていた。

 勿論これによる利益はない。仕入れ値以下で売っているのだから、むしろマイナスだ。

 今は貧困層の生活改善が最優先事項。

 客が本当に貧困層の者なのかは《鑑定》を持つシュミットが1人づつ確認しているし、お金がなくとも腹が満たされる様少しずつだが、パンなどの試食も用意した。 

 従業員達も漸く流れを掴めて来たので、そろそろ本当の仕事に取り掛かる。

 今日は午前中に予め決めていた3家の1つ流通業界のドンであるガーデンシュタール子爵家、午後には後の2家ロビティーの領主ソマリエ伯爵家、王室筆頭魔道士団団長ランドマーク侯爵家が来店する予定だ。

 この3家は英雄で知られるシェアマス家に味方していた貴族で、あの疫病大流行から10年たった今も尚、お上から目をつけられている。

 他にも何家か味方はいたが彼らは別格だ。

 王室からの要求に従わず持っていたポーションを全て無償でシェアマス家に譲り、配る人員も提供していた。更に自領の領民のために自らの財産を削り、税金を工面して経済活動をなんとか維持し続け、困窮者には援助を惜しまず、無職者には仕事の紹介も手配させていた真面目な人達だ。

 本来なら彼らも自らシェアマス家と共に反旗し、ポーションを民へ配る予定だったのだが、当時のシェアマス家当主に全員が居なくなればそれこそこの国の終わりだ、と言う言葉に涙ながらに納得し、彼の生き様を見守り支えた貴族達だ。

 今も王国からの圧力や報復に耐え、起死回生を目論む…これが本物の貴族達だ。


「私、ガーデンシュタール家当主エーデルワース・ガーデンシュタールと申します。本日はお招き頂きありがとうございます。噂のお方にお会いできて光栄です」


 一体どうした事だろう、使者を送ってくるかと思いきや、当主自ら出てくるのは想定外の自体だ。

 ただ本人が来てくれたのは正直有難い。

 色んな意味で今日中に全ての取引が完了するからだ。


「ガーデンシュタール卿。本日はご足労頂き、誠に有難う御座います。私は、当商会の長を務めております、ハルトと申します」


「ガーデンシュタール卿。早速ですが来店頂けたという事は、条件を完全に呑んで下さると、言う事でよろしいでしょうか」


「勿論だとも、レスター君。私達は10年前の出来事からずっとこの時が来るのを待っていた。シェアマス家のお嬢様が居なくなって…正直もうダメかもしれないと諦めかけていたよ」


 眉毛を下げて疲れたような、悲しむようなそんな笑顔で言うエーデルワース。


「では、契約鍮を交わさせて頂きます。条件は以下の通り。私達は資源をダーナロ王国の民に還元し、その際に生じた王室や貴族関連の圧力等は御三家のご協力で排除して頂く。また、私どもの開発した商品を購入、宣伝、仲介に協力し、その際に発生した金銭は全て此方に譲る。仲介には私レスター・サンダーク、又はシュミットを通すこと」


「全て飲むよ。宜しく頼む」


 真剣な目と苦しそうに歪ませた口元をリーンに向けて静かに言った。

 速やかに契約鍮を交わし、リーンはレスターに。エーデルワースは執事に預ける。


「それで、あの“タオル”とやらは一体おいくらになるのかな」


 エーデルワースは先程までの顔は消した。流石に買い物まで情けない表情は見せれないとでも言いたげな振る舞いだ。


「あれから、うちの職人が色々工夫してくれまして先日お見せしたものよりも更に数段柔らかく滑らかなになりました」


 リーンはそう言ってレスターに改良版のタオルを持って来させる。この世界のタオルと言えばただの布だ。綿で出来ている為、水の吸収性はそれなりにあるがそれだけだ。

 タオルの吸水性の高さ、柔らかく包み込まれる感覚、肌を傷つけない滑らかさとその弾力。ここではかなり画期的なものだった。


「これは…また何と素晴らしい物を考えたのだ…」


 最初にできた物は勿論布よりは良かったが、粗品としてもらえる手拭き位の安物レベルだった。それでもなかなかの進歩だったが、アリアからの2時間にも及ぶ質疑応答に耐え抜くとたった2日後にはお中元、お歳暮レベルまで引き上げて来た。

 その後も研究を重ね、今では高級今治タオルにも劣らない素晴らしいものが出来た。

 そこから更にジェシーによるミシンの改良と生産機の作製により本格的な製造体制が整い、3段階の品質のタオルを大量生産出来た。

 流石に今治レベルはアリアの手作業が主だが市場に卸すレベルの物は特に問題はない。


「前回お見せしたのはタオルだけでしたが、その他にも色々ご用意しておりますよ」


「此方は“マットレス”お持ちのベッドのサイズでお作り出来ます。そして此方は“トイレ”自動で汚水を流し、そのまま浄化の魔石で洗浄します。一緒に“ティッシュペーパー”と“ウォシュレット”もおすすめです。一押しは此方の“冷蔵庫”此方は小さな氷冷庫になっていて常に魔石と特殊な魔法陣によって低音を保ち食材を痛めません」


 シュミットの簡潔かつ興味を惹かせる話術に感心していると子供の様に目を輝かせたエーデルワースはマットレスで飛び跳ねたり、ティッシュペーパーを無駄に巻き取ったり、冷蔵庫の冷気で涼んだり、と相当興奮していた。


「他にも色々ありますが、今日はこれくらいにしておきましょう。この後、ロビティー領主のランドマーク侯爵もいらっしゃるので」


「そうですね、私が侯爵様達よりもお先に手にする訳には行きませんから」


 楽しそうに笑うエーデルワースは何処か吹っ切れたように見えた。リーンもそれに笑顔で返し、エーデルワースの帰宅を見送った。


 それからは同じ事の繰り返しを後2回。差別化を図る為、食に五月蝿い伯爵にはプラスでたこ焼きなどが出来る“ホットプレート”とたこ焼きの作り方も披露し、その他のレシピはその都度買ってもらうことになった。最近妻と娘と仲が宜しくないと嘆いていたランドマーク侯爵には御機嫌取りにとプリンと洗顔、化粧水、美容液、乳液、クリーム、ハンドクリームの美容セットを一式を紹介しご購入頂いた。


 その後のハプニングとしては侯爵夫人と御令嬢ニフカ様とナターシャ様が乗り込んできた事ぐらいだった。これは美容パックを勧めて何とか一難去った。


「ハルト様。本日は、バッハラップ家、コーネリア家、ルーデンス家の者が変装して居ましたので入店拒否しておきました」


「また、バッハラップの所の者が…懲りませんね」


 これは想定済みの案件なので特に問題はない。いくら貴族だとしても安く食材や生活必需品が手に入るならそれに越したことは無い。貧困者に紛れて使用人達が買いに来る事は予想通りだ。

 彼らには悪いが、貴族の関係者に得させる訳には行かない。例え彼ら自身が欲して居ても屋敷に居れば餓死する事はない。

 現に使用人達の食事に金がかかり過ぎだ、と当主から言われ抑えるために安さが売りのうちを訪ねた、と言うのが真相のようだ。

 貴族から巻き上げたいので微々たる支出でもこればかりは我慢してもらうしか無い。


「明日は運良く王室主催のパーティーが行われる予定です。ランドマーク侯爵夫人はかなり気合いが入って居たので美容関係はかなり話題になるはずです」


「美容関係もあの3家にしか卸さないように気をつけて下さいね」


「はい。ハルト様の仰せの通りに」


 本当の勝負は明後日からだ。

 無しか産み出さない貴族も、害にしかならない王国も丸ごと飲み込む覚悟を決める。


「リーン様。明後日が楽しみですね」


「レスター…」


 意気込みが伝わったのかレスターの綺麗な笑顔に少し安心して屋敷へ戻るのだった。





 

 

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