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入学祝いパーティー



 リーンがまず初めに取り掛かったのはアリスの勧誘だ。初めから味方にするのは少し危険だと判断したライセンはアリスの引き入れについて難色を示したので、敢えてアリスに本当と嘘の情報を与えててどのようにディアブロへ報告するのか、そして、ディアブロはどの情報に食いつくのかを確認する事になった。



 今日は昼から夜までアーデルハイド家ではパーティーが開かれる。大広間はいつにも増して豪華な調度品が並べられており、眩しすぎるくらいだった。

 このパーティーはマロウの入学を祝う為のものだ。

 リーンも朝食後から支度を開始し、正午の鐘が鳴った今し方終わったところだ。いつもより重たい衣装に身を包み、どうせ抱っこなのだから疲れないように軽くすれば良いのにと口には出さなかったが、喉まで出かかっていたのは言うまでもなく。


「今日はマロウ坊ちゃんが主役なのでいつものような派手な感じは辞めておいたのですが…リーン様は何を着ても目立ってしまうのですね…」


 サンミッシェルは垂れた目尻をより垂らして、感慨深そうに呟く。呟きにしては少し長い呟きは終わってからも目で訴えかけてくる。当たり前にリーンは苦笑いだった。


「リーンさ、ま…」


 ノックの後サンミッシェルがはい、と返事をするとこちらも白い軍服のような形の正装にこれでもかと惜し気もなく装飾が施された衣装を着こなしたマロウが扉を開けたまま立ち尽くしていた。


「マロウ様とても素敵な衣装ですね。まるで騎士様のようです」


「リーン様もとても可愛らしい。思わず見惚れてしまいました。本日のお礼をと思っていたのですが、とても素敵なプレゼントを頂いてしまいました」


 頬を染めて歯が浮くようなセリフをさらりと言いのけたマロウにリーンは微笑みを返す。

 何と言っても今日は地味めらしいのだ。いつも以上の重さの割に豪華な刺繍はなく、小さな真珠が胸元に2つ付いている以外は装飾品もない。色もクリーム色のような淡い感じだ。腰からしたは全てフリルとレースの段が交互に床まで続いており、相変わらず肌を見せないように首元も手首も胸元にもフリルとレースをふんだんにあしらったドレスだ。とにかく生地が尋常じゃない程多いので重たい。

 これで地味と言えるのかどうもこっちの感覚が掴めないでいるリーンだったが、確かにマロウのギラギラ光る宝石や絢爛豪華な刺繍を見ると地味めなのかもしれない。


「さぁ、リーン様。本日は兄ではなく私がエスコートさせて頂きます」


「はい、よろしくお願いします」


 マロウに笑顔を向け、スカートを持ち上げて軽くお辞儀をした。

 マロウはリーンを軽々と持ち上げる。12歳の男の子が20キロ近い重さを苦もなく持ち上げるとは流石にリーンも想像していなかった。

 更にはリーンがボリュームのあるドレスを着ているせいで抱っこするマロウのせっかくの装飾を隠くしてしまっていた。

 しかし、マロウは全く気にする事なく、リーンを初めて抱っこ出来た事に寧ろ喜んでいた程だった。

 確かにマロウが抱っこするまでも無く、リヒトやジャンが常に抱きかかえているために他の人がリーンを抱っこする機会はそうそうない。

 マロウは入学祝いにリーンを抱っこする権利を願った。それが今実現しているのだが、それをリーンが知る事は無かった。


「少し緊張します」


「リーン様も緊張するのですね!大丈夫です!とても可愛らしいのですから!」


 一体何が大丈夫なのだろうか。全くもって分からない。しかし、そんな事を言う隙もなく、扉の前で待機していたログスによって大広間の扉が開かれた。


「「「おめ…?でとう…?御座います………」」」


 沢山の拍手で出迎えられた2人だったが、やはりリーンの存在を見て集まっていた者達は一様に困惑の表情を浮かべる。

 困惑してないのは言うまでもなくリーンを知っているリヒト達だけだ。


「本日は参加させて頂けて本当に光栄です。アーデルハイドは末の息子さんまでも優秀で羨ましい限りですな〜!」


「これはこれはダガーラス子爵殿。遠い所からわざわざありがとうございます。息子は魔法の才があったようですが、これからですよ」


「…して、其方の可愛らしいお嬢様はどちらのお家の方なのでしょうか。てっきり私はアレシア嬢と入場されるとばかり思っていたのですが…」


 マロウに挨拶に来た人達にアーデルハイド伯爵であるノーランは何度も同じ質問を投げかけられ、何度も同じ答えをする。


「こちらは遠い異国の貴族家の方で今はその御身を一時的にお預かりしてるのです。それ以上は何も言えません。しかし、アレシア嬢と入場と言うのは些か可笑しい話ですな。嬢はマロウにとってはタダの知り合い程度ですよ」


 アーデルハイド伯爵に会うのは勿論、今日が初めてだ。更に言うなら、この大広間に入った今初めて会ったのだが、さすが伯爵。それを全く感じさせない。

 きっとリヒトから事前に話くらいは聞いていただろう。しかし、聞いてたくらいでここまでの対応をしてくれるとはリーンも思ってなかった。アーデルハイド家一丸となってリーンを守護してると公然と言って退けたのだから。


 それにしても、先程から会話に名前が出てるアレシア嬢とは誰なのか、リーンは素朴な疑問から神示を頼る。

 アレシア・ビルマガール。ビルマガール伯爵家令嬢の次女で13歳。とても可憐で聡明な令嬢だと噂される噂の人。本人も自分の美しさと知的な話術を武器にあらゆる縁談を取り付け、12歳の社交界デビュタントでは一躍時の人となり、今最も注目を集める令嬢だ。

 更にビルマガール家は伯爵夫人であるマライト夫人が一代で築き上げたマライト商会と言う美容系の商品を多く取り扱う貴族御用達の大商会を持っており、伯爵家としてはアーデルハイド家に並ぶ財力を持っている。

 子供同士のお茶会でマロウに一目惚れをしたアレシアは猛アッタクを繰り返すが相手にされず、しかし、諦める事を知らないのか周囲に婚約間近だと言い触らす。正直迷惑な存在だと言っても過言では無い。

 本当に知的なのか、とリーンは更なる疑問が浮かんだが、マロウの手ずから食べていたケーキのホイップが付いた口元を拭われて考える事を辞めた。


「リーン様、お口元失礼致します。ご無沙汰しております。その節は大変お世話になりまして、お会い出来ればご挨拶をと思っておりました」


 綺麗な赤毛をクルクルさせた可愛らしいメイド姿の女性が真っ白な布でリーンの口元を拭いながら言う。


「お元気そうで何よりです。あの時貴方にはとても助けられました。此方こそお礼を申し上げたく存じます」


 クルクルの赤毛をぶんぶんと振りながら、滅相も御座いません、と言うメイドにリーンは微笑む。

 彼女はトット・チベットの事件の時に囚われていた女性の1人で身寄りがなく、行く宛もないと言う事でアーデルハイド家に拾われた。

 そう、あの時初めに勇敢にも声を上げてくれたその人だ。


「リーン様が拾ってくださるよう話を通して下さったと聞きました。囚われていた時はどうなるかと苦心しておりましたが、今は囚われる前よりもいい生活を送っております」


 そう笑顔で言った彼女をリーンは笑顔で見つめる。あの時は本当に彼女のお陰でスムーズに女性と子供を連れ出せたのは言うまでもない。


「これからは何時でもなんなりとお申し付けください。リーン様には何にも変え難い御恩がありますので、一生を掛けてもお返ししていきます」


 そう笑顔で言い彼女は持ち場に戻っていった。


 パーティーという名にふさわしい催し物、オーケストラの生演奏が始まる。聴きながらの歓談、気にせず人脈を繋げようとする者や音楽に聴き入る者など、其々目的を持っているようだ。

 勿論リーンは食事する者だ。マロウが話す隙を与えないかのように次々と新しい物を取ってはリーンに食べさせる。その間リーンはひたすら人間観察をしていた。

 そう、何を隠そう“暇”だったのだ。パーティー参加者の爵位や仕事などを予想しては神示で覗く、を延々繰り返していた。言わば、神示の新しい使い方だ。

 そんな事を繰り返していると、要らない情報も入ってくる。不倫だの隠し子だの妾だの。何もない人は居ないのかとついつい溜息も吐きたくなる。

 

 それでも夜は更ける。オーケストラの生演奏をそっちのけにしていた人達もダンスはしたいらしい。男性にエスコートされて何人かが踊り出している。中にアーデルハイド夫妻もいる。

 爵位順に踊り出すようで今か今かと待ちわびる者、誰かに誘われないかとソワソワしている者、想い人に熱い視線を送っている者。其々の想いが込められた時間がゆっくりと流れていた。









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