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決意の日




 その日は朝からポール、ライセン、リヒトそれにジャン、ミル、ライナ、ゼルの私兵4人組に【オリハルコン】のカート、そしてリーンがグランドール邸に集まっていた。

 レスターは他の用事で少々遅れる予定だが、直に現れるだろう。


 それはともかく、このメンバー全員が顔を合わせるの今回が実は初めてだ。私兵の4人はそれぞれ別行動が多く、特にゼルを見かける事はアーデルハイド邸に入り浸って居るリーンですら殆どない。


 この男だらけの重苦しい空気の中リーンとリヒトただ2人だけ呑気にしているこの状況は側から見ると何とも可笑しい。

 暇だと言わんばかりのリーンをリヒトは見下ろしニコニコするだけ。今日は頼みの綱のサンミッシェルさえもいないのでリーンの心を代弁してくれる者は1人もおらず、ただただ暇を持て余していた。


「お世話する者はいるのですか!私はリーン様の専属メイドです!ご一緒する権利があります!一緒に行きます!」

 

 と言うサンミッシェルの強い願いをリヒトが取り合わなかったのはリーンにとって痛恨の痛手だった。

 勿論、リリアもこの場に来ようと必死の形相で先程まで粘っていたが結局のところポールに部屋から締め出された形になった。



 今は何をしているかと言うと、兎にも角にもレスターが現れない事には何も始まらないので待機している状態だ。そもそもこの会議が開かれるのはリーンがレスターに頼んだ頼み事がきっかけであり、又それを知っているのはリーンだけなのでリーンと何故かリヒトのみが呑気でいると言う謎の構図が生まれた訳なのだ。


 レスターから送られてきた手紙には特にこれと言った詳しい事は書いてなかったらしい。ただ単に報告があるとか、作戦会議をしましょう、とかだけで、事情を知らず何故か呼び出されて今の状況に至る。


「お待たせしました…って、何故こんなに重苦しい雰囲気なのですか…」


 グランドール邸の執事と共に現れたレスターは若干呆れた様子でリーンとリヒトの呑気さが寧ろ普通だと言わんばかりに珍しく陽気に話す。

 レスターが陽気に話してると思っているのはリーンだけだが、レスターももちろん陽気なつもりだ。レスターが陽気なのはリーンから直接頼まれごとをされ、それがこれから聖王国をビビアンに取り戻させるに当たりとても重要な事で、尚且つその重要な内容を自分だけが知っていると言う優越感があるからだ。

 リーンがレスターの隠し切れていないその小さな優越感を可愛いと感じるのは些か可笑しいようにも思えるが。


「早速ですが、彼方が動きました」


「彼方とはどちらだ」


「聖王国です」


「おい、まだカートからはそんな情報は入ってないぞ」


 傍に控えているカートに目を向けながらポールは言う。わざとらしく意味ありげにレスターは言いながら、リーンに微笑みかける。

 ポールは部下達に聖王国の動きを見張らせてたのか、とリーンが考えているとレスターから送られてくる視線に気付いてき笑顔を返す。


「リーン様。あの話はもうお話になられましたか?」


「いえ、まだです」


「では、私からお話ししてよろしいでしょうか?」


 リーンは肯定するように微笑みながら頷く。それに満足げな表情のレスターに一同呆れ気味だ。


「私は数日前にリーン様からご指示を頂いて枢機卿のベノボルトと接触。此方からの要望通り昨日の夜極秘裏に帝国へ入られました」


「なるほど、リーンちゃんはさすがですね。リヒト君はそれに協力してたから色々知っていたのですね」


「おいおい、全く話が見えない。俺をお前らと一緒にするな。一から説明してくれ」


 ベノボルトが帝国に極秘に入った、と言うだけで話がわかるライセンはただただ凄いとしか言いようがない。ポールのように説明を求めるのが一番正しい。一番おかしいのはリヒトだ。リーンを膝に抱えながら結えている髪を黙々とクルクルしているだけだからだ。

 話は聞いているのだろうがこの状態でリーンの髪を弄っているのはどういう感情からの行動かは不明だ。


「トット・チベットを捕らえ、昨日から尋問しているところですが、これと言った大きな情報が出てくる事はなく行き詰まっているのは明らかです。そんな中、聖王国はまた新たに奴隷を探しています。そこでリーン様から託されたお手紙をベノボルト枢機卿、ハーニアム公爵様、アーロン商会の大店主ハロルド様に届け、現在お返事を待っているところだったのですが、ベノボルト枢機卿は昨日動き出しました」


「ベノボルト枢機卿は協力して下さるのですね。良かったです。ハーニアム公爵は折を見て接触致しましょう。ハロルド様は予定通り面会してくださると良いのですが」


「リーン様。アリスは無事アーデルハイドにメイドとして入れる事が出来ました。今はアーデルハイド邸にてサンミッシェルとログスが監視しつつ様子を伺っています」


 小さくリーンの肩を叩き、リーンの視線が自分に向いたのを確認するとリヒトが笑顔で言った。


「リヒト様ありがとうございます。では、これからは詳しくお話ししましょう。今後の作戦についてと皆様が知りたがって居るであろう“あの”事柄について」


 リーンの言葉に内容を知っているレスターとリーンに構い続けるリヒト以外は大人しくリーンが話し始めるのを息を飲んで待つ。


「お話を聞く前にひとつだけリーンちゃんに聞いておきたい事があります」


「はい、ライセン様。私が答えられる事ならお伺いします」


「何故急に作戦や情報を全て晒す事にされたのですか?リーンちゃんが敢えて全ての情報を出さず小出しにしていたのは何か理由があるのでしょう。昨日のアレが堪えましたか…?」


 ライセンが言うアレとはきっと娘が帰えってこなかった親達の悲痛の叫びの事だろう。


「はい…。正直に申しますが、かなり堪えました。私が初めから全て晒し出しもっと早く手筈を整える事が出来ていれば…。などと思う所は有ります。ただそれだけでは有りません。これから相手にする敵は…かなり手強い相手でしょうから、私が小出ししている余裕が無くなった、と言うのが1番の理由です」


「リーンちゃんが責任を感じるのは間違いです。貴方が居なければ未だに事件は解決もせず、誘拐され奴隷に落ちる者達の被害は続いていたでしょう。それに今まではリーンちゃん自身が表舞台に出て来ないようにしていた理由は良く分かります。我々も貴方がそうしていてくれたお陰で守り易かった。そして今表舞台に立つ理由が昨日の事ならば私は止めざるを得ない」


 ライセンはリーンが立てた作戦がリーンの身の危険に晒される事に気付いたのか。


「リーン様。約束を覚えていらっしゃいますか?リーン様がなさりたい事を叶えるのが私達の役目だとお伝えした時のことを。私はリーン様が表舞台に立つと決断されたので有れば、この身をもって全ての脅威から必ず守る切るだけです。ご自身の御心のまま突き進んで下さい」

 

 そしてそれはリヒトも分かっていたのか。リーンの頭を撫でる手がとても優しい。


「リヒトくん。…私は…」


「ライセン様。私の考え方が浅はかでした。皆さんに守られている自覚が足りていなかったこと心からお詫び致します。…ですので、これからお話しする作戦に不備が有れば訂正と解決案を頂ければと思います。私は誰の身も危険にならない方法を考えたいです」


「分かったよ、リーンちゃん」


 レスターは何も言わずにそのまま空いている席にそっと腰を下ろしてリーンがこれから話す内容に補助する為に用意していた資料や情報の詰まった走り書きのメモ書きを机に並べ始めた。


(レスターも分かっていたの…ね)


 並べ始めた資料はどれもリーンが表に立たないで済む方法に導く為だけの物に感じた。何故ならその殆どがレスター自身が危険に晒されなければならない案ばかりだからだ。


「レスター君。ここに書いてある、ビビアン司教が追放の可能性と言うのは?」


「教皇が目の敵にしているのはリーン様から聞き及んでいますでしょうか?教皇からすればビビアン司教は次に教皇になり得る1番の敵なのです」


「なので私は枢機卿を捕らえる為にベノボルト様に協力を取り付けたいのです」


「リーンちゃんの言う通りだよ。この資料の通りにすればレスター君はかなり危険だ。ここは変更しよう」


 リーンとリヒト、レスターの思いと、その全てを理解した上でライセンが作った作戦は明日から始まるのだった。



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