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最終決戦




 浄化の作業が終わって一週間が経った。

 

「高さはこんなもんで良いんですかい?」


「はい」


「それにしても大きな塔ですね」


「塔よりも中身のこの石っころの方がヤバいだろ」


「禍々しいですね…」


 順調に最終決戦に向けての準備を整えている。

 私達がしなければならないことを今日ここで全て終わらせる。

 リヒトと約束したから。

 例えこれが間違えであっても貫き通すしかないと。


「それにしてもこんなに早く完成するとは思わなかったね?」


「うん、ちょっと急がしたから…」


「リーン、それは仕方がないよ。世界がかかってるんだから」


「ありがとう。リヒト」


 そうだ。この瞬間にもこの死に行く世界の何処かで誰かが苦しんでいて、何処かの誰がが悲鳴をあげている。

 此処で全てを終わらせなければならない。


「リーン様」


「はい、行きましょう」


「「「「「「はい」」」」」」


 降り立ったのはエルムダークの中心。

 世界中のマナを作り出している世界樹のある場所。


「リーン様、お待ちしておりました」


「お邪魔しますね」


 私がこの世界に出した答えは至極シンプルだけど、間違えればこの世界は無くなる。謂わば、諸刃の剣。だけど、煮るも焼くも全てはこの世界の人間達で私ではない。

 勿論、ディアブロでもないのだ。


 これから私がやるのはこの世界に与える尽きることのない恵と、この世界の住人達に架す制約だ。

 もし、私がディアブロのように神に見放され、この大いなる力を失ったとしても、この呪いとも思える私からの恩恵と制約が永遠となるように。それが突き通すべき私の答えなのだから。


「すみません。私の身勝手で世界樹を傷つけることになって」


「いえ。身勝手なのは我々の方。神である貴方様からのご慈悲を無駄にし続けた我々の罪の結果。…それに世界樹は傷付くのではありません。その姿を変えて永遠となるだけです」


「…ありがとうございます」


 私は本物の神が作り出した世界樹を媒介にして、この世界全てに大いなる恵みが永遠と注がれる仕組みを作る。

 だけど、例え私が神の化身であったとしてもそれだけの事をすれば世界の均衡は瞬く間に崩れ、誰が何をしなくとも直ぐに立ち行かなくなるだろう。

 だから、同時に制約も立てる。

 それは勿論この世界の成長を止めるものではいけない。それではディアブロと同じくなってしまう。


「世界樹よ、私の願いを聞き届けよ」


———大いなる我らの母よ 我に何を望む


「私がお前に望むのはこの世界の安寧。永遠に枯れることのない恵」


———彼らことのない恵


「我が子達が小麦の種を巻けば、必ず黄金に輝く稲穂が畑一面を覆い尽くすように」


———黄金に輝く稲穂


「我が子達が鉱山を掘り進めれば、必ず籠一杯の輝かんばかりの鉱物が与えられるように」


———籠一杯の鉱物


「我が子達が漁に出ればたちまち大漁になり、狩に出ればたちまち豊作になるように」


———大漁と豊作


「我が子達が飢餓で苦しまず、働く場所があり、自分の価値を見出せるそんな幸せな世界を」


———幸せな世界


 私が望むのは全ての人々が人としての尊厳を損なわれない最低限の生活を営むことができる優しい世界。

 勿論、そんなものは人が人として生きていく限り不可能に近い。だけど、出来ないからと言って与えないのは違う。人はそこから成長することができるはず。


「世界樹よ。其方にはそれを望む」


———承…


「世界樹、そんな事をすればどうなるか分かっているだろう」


「…ディアブロ。いや、ベンジャミン」


「まさか此処まで馬鹿だとはな。この世界の奴らに与え続けた結果がどうなったかお前も知っているのだろう?醜い奴らは求めるだけ求め、感謝せず、恐れ、しまいには忘れたんだ」


「はい」


「全てを悟ったつもりか?自分は善良であり続けると?そんなのは偽善だ。そして結局この世界が壊れていくのをただ何もせず、与えるだけ与えて見ているつもりか?」


「コロン、エイフリア」


「「お任せ下さい」なのね」


「…なんのつもりだ」


「貴方の時間稼ぎに付き合うつもりはないので」


 一瞬驚くような素振りを見せ、しかし私の目から視線を外すこともなくニヒルな笑みを浮かべる。


「なるほど、流石だと言っておこうか。この私に打つ手はないとはな」


「油断させようとしても無駄ですよ」


「そんなつもりはない。ただ、最後に叶うならお前の答えとやらを知りたい」


「はい」


 大丈夫、全て予想通りだ。

 神様も言っていたじゃないか、ベンジャミンにはもう残り香程度の力しかないと。

 なのに何故震えが止まらない?何が不安なのだ?

 原因が分からない。得体の知れない何かが危険だと私に忠告しているかのようだった。


「世界樹、始めなさい」


 世界樹は葉を一枚、また一枚と光らせていく。その光景は荘厳であるが、同時にとても物悲しいものを纏っていた。


「この世界を支え続けた世界樹をこんな姿にしてまで人間どもを助ける必要があるのか?」


「ありません」


「…言っていることとやってる事が違うぞ」


「世界樹もそう思っているのは分かっています」


「世界樹、良いのか?お前が傷付くのは変わらず人間達のせいなんだぞ」


———貴方は何か勘違いをしている


「…なんだと」


———確かに私は一度貴方と約束した

   それは確かにあの時の最善だった

   世界は荒廃し、しかし、人々は何もしなかった

   ただ荒れていく世界を、ただ傷つけるだけだった


「そうだ。この世界は私がいなければ無くなっていた!」


———私が貴方とした約束は一つだけ

   貴方が私の崩壊を止める代わりに

   私はこの世界の崩壊を止める


「その時約束は果たされたはずだ。今もなお私は約束を守っている。人間どもがお前を傷付け度に、守って来ただろう。その約束を破るつもりか?」


———約束を守れないことは申し訳ないと思う

   ただ、お前が使う権能は壊すばかりだ


「壊さなければこの世界は守れない!」


———しかし、彼女は壊さずに守る


「そんな事を出来る訳がない」


「私は世界樹に願う前にこの世界に呪いをかけました」


「…のろい?」


「私は貴方のようにこの世界を愛する事は出来なかった。いや、違いますね。この世界に対する貴方の愛が深すぎるのです」


「何…抜かしたことを、言ってるんだ」


「その代わり私は人々を愛しました。勿論、貴方の仰ることは分かるし、正直全て正しい。私よりも貴方の方がこの世界の為を思ってるし、為になることをしているのでしょう」


 ベンジャミンは何も言わずただこちらの話を聞いている。

 

「これは貴方が望む形ではないのでしょう。だけど、私はこの世界の人々にチャンスを与えたい。貴方がこの世界を愛したように世界を愛してほしい」


 彼と私、違いはそんなにない。

 この世界を救いたいのも同じだし、愛してもいる。

 だから、私は彼のする事を止めはするが、否定する気はない。

 だって一番止めて欲しがっているのがその本人だから。









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