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洗礼と水晶鏡



 洗礼式が始まる。

 洗礼式は原則8歳で行うハーフセレモニーと16歳で行うアダルトセレモニーの2回なのだが、今回マロウが受ける洗礼は学院の魔法科や騎士科、武術科などの戦闘に特化した学科に入学する子供に義務付けされている主にステータス確認がメインの洗礼だ。


 8歳のハーフセレモニーでは基本的なステータス確認ができ、16歳のアダルトセレモニーではこれまでに伸ばしたステータスの数値によって“クラス”がプラスされる。

 ステータスとは簡単に言うと強さの事だ。成長や努力で習得出来る“スキル”や“技能”をレベル1から10までで数値化し、レベル1〜3で初級、レベル4〜6で中級.レベル7〜9で上級、レベル10は最上級となる。レベル10に関しては到達した人は世界でまだ2人だけだ。

 レベルは訓練や戦闘などで上がるため入学前に正確な数値を学園に提出する事になっている。他にも月水晶と言う学校や王城、行政府にある小さな水晶で確認する方法もあるが、教会にある陽水晶程詳しく見る事は出来ない。魔法科に関しては特に魔力量や属性値など細かいステータス確認が必要だ。

 どの“スキル”や“技能”のレベルを上げたかでクラスが決まる。例えば“技能”の剣技や盾術、乗馬などを上げれば騎乗戦士。“スキル”の光魔法や速度加速、“技能”の剣技などを上げると聖騎士。と組み合わせ次第でクラスが無数に存在する。

 ただ、スキルは生まれつきの素質が強く、自分のなりたいものに必ずなれる訳ではない。


 しかし、例外もある。例えば先程ビビアンが言っていた【賢者】だ。【賢者】はクラスなのだが、“スキル”や“技能”で授かる訳ではない。神が選んだ者だけがなれるクラスで、【賢者】を授かると【賢者】スキルを一緒に授かるらしい。この世界には【賢者】の他に4つの特異クラスが存在しており、助祭が言うには現在世界で唯一聖王国に【賢者】がいるらしいがその話にリーンは全く興味を示さなかった。

 



 洗礼式はなかなか時間がかかるらしい。リーンの神示を使えばすぐ確認出来るのだが、そんな事言う訳にもいかない。マロウが助祭に連れられてどこか奥の部屋に入って行って、見送ったリヒトが戻ってきた。

 

「リーン様お待たせしました。マロウが洗礼を受けている間にビビアン司教とお話しをしてしまいましょう」


「はい」


 リヒトがリーンの隣りに座り、いつものニコニコ顔とは違う少しキリッとした顔でリーンに言う。リヒトの意図が少し分かった気がした。

 トットの目を欺く為だけならマロウの洗礼だけでカモフラージュは成功しているはずだ。なのに、トットに追われる身のリーンを連れてきたのには別の意味がある。そして、それはリーンでないと出来ない事なのは容易に想像できた。リーンに何か手伝って貰うつもりだろう。

 ちなみに、リーンは余程の事がない限りこの話し合いに関わるつもりは無かった。出来れば自分の存在は余り知られたくないのと、いつもの様に何故そんな事を知っているのかと質問されても答えられないからだ。

 しかし、今はどうだろう。この作戦においてビビアンが最重要人物である事は間違いない。ライセンが立てたその後の作戦にも大きく関わってくる。

 だからと言ってリーンが表立って行動したあの件以降、トットは追手を未だに送って来ている。それにポールは条件を飲んでいるので何も聞いては来ないが、毎回探る様な目や疑うような目をされているのは、何時も居心地が良くなかった。

 万が一の為に付き添いはする。それがライセンの狙いだろうと妙に納得した。ライセンがリヒトに交渉を任せたのはリーンがリヒトに関しては諦めたり、委ねたりする傾向にある事をライセンが気づいているからだろう。ライセンという男はそう言う個人の感情さえも作戦に組み込むのだからタチが悪い。

 そして、リーンはライセンの意図を気づいてないフリをする事にしたのだ。



「リヒト様、マロウ様が助祭から受け取っていたあれは何だったのですか?」


「あれは、水晶から出たステータス情報を記録するための水晶鏡と呼ばれる物です。水晶鏡に映し出されたステータス情報を後ほど書き写します」


 この世界にガラスは存在しない、事になっている。なので水晶を謳って水晶鏡と呼ばれているのだ。

 現にこの世界の鏡は青銅製の物で日本で使っていた物と比べれば雲泥の差である。しかし、あの水晶鏡と言うものはほぼリーンの知っている鏡と同じものだった。板の厚さは均一で表面も滑らか。この時代の技術でどうにかなる代物ではない。そして、リーンが教会に来た理由もこの水晶鏡に興味を持ったからだった。

 

「リーン様申し訳ありません。あの水晶鏡は聖王国で祭事や儀式の時のみ使われる大変貴重な物で、尚且つ出回る事はなく作り方も秘匿されており、手に入れる事は出来ないのです」


 リヒトはリーンが水晶鏡を欲しがっていると思い込んでいるようでオロオロと必死に説明する。決して、リーンは欲しかったのではなく気になっていただけなのだが、必死に説明するリヒトが可愛らしかったのであえてそれ以上何も言わなかった。



 リーンが水晶鏡に興味を持ったのにはいくつか理由がある。リーンがよく知る鏡に似ていたものあるが、その作り方。あの水晶鏡と呼ばれる物は正しく鏡だ。作り方や材料は地球の物と全く同じく、水、銀、そしてガラスだ。流石に化学の利用までは行っていないが、銀を溶かし平たいガラスに塗りメッキ加工している所まで完璧に再現している。

 ただ、製作時に石窯や道具などは使う事はなく、魔法を使うという異世界感満載の作り方で、主に錬金術と言われる物だった。

 そして錬金術が使える者なら材料さえ揃えられれば簡単に作る事が出来る。

 が、この世界の現状で此処までの技術が生まれるとはとても思えない、と言うのがリーンの見解だった。

 しかし、この事について神示を覗いても情報量が多いにも関わらず、分かったのは昔の人が作った、と言う事だけだった。それも水晶鏡に興味を持った理由の一つだ。


 リーンが何度も不思議に思う事。この世界の人々はかなり知的で魔法と言う科学的根拠を覆す技術をもっている。

 なのに何故この世界は成長しないのか。鎖国をしているわけでもなく、教育機関が無いわけでもない。根本的な原因をリーンは掴めないでいたのだが、今日で色々と分かった。

 お金に困っている聖王国なら売りに出しそうなそれを決して売ろうとしない。それは、単に作れないからだ。現存する物しかない。新たに生み出せない。なので売れない。現物をどんなに高値で売ろうとも売り切ればそれまで。それでも資金は必要なので水晶鏡を神物化し、崇めさせる事で教会の必要性を高めていったのだ。

 しかし水晶鏡の価値ばかりが上がれば自ずと盗みや略奪が起こる。それを危惧したかつての教皇は陽水晶と月水晶と言う新たな価値を作り出し、水晶鏡だけではステータス情報を完全には見れないと言う嘘をついたのだ。2つの水晶で見れるステータス情報は同じだ。種族、名前、年齢、レベル、犯罪歴だ。水晶が無くても水晶鏡単体で細かいステータス情報が表示されるので教会以外でも見る事が可能だ。要は水晶の大きさは全く関係ない。では何故水晶の大きさで見れる物が違うと偽っているのかと言うと陽水晶は持ち運べない大きさなので教会に行かないと細かなステータスを確認できないと思わせる為だ。これによって持ち運びが出来る月水晶は主に国境や学校、皇宮などに。持ち運びが出来ない陽水晶は教会に置かれて水晶鏡の価値を下げたのだ。水晶鏡の価値を下げてもステータス情報さえ見れれば聖王国の価値が下がる事はないのだ。

 言ってしまえば全国民が水晶鏡を手に出来れば、常にステータスを確認出来るようになる。そうなれば、必然的に教会の必要性が減り、現在信者達から集めている献金は減収。各地にある教会の縮小は避けられない。

 聖王国は水晶鏡のお陰で栄華を極めているという事だ。

 

 そしてもう一つ分かった事がある。錬金術師なら水晶鏡を簡単に作れてしまうが錬金術師がいないという事。

 研究され作り方を見つける者も現れるだろう。然程難しいものではないし、材料も多少のお金さえあれば簡単に集められる。でも、錬金術師がいない。

 神や魔法と言う神秘の力は時として可能性を狭めてしまう。水晶鏡は神の物だから作れない、そう思い込み挑戦もせず諦める。

 なので水晶鏡が広まる事はなく、今の形になって行ったのだ。

 

 神が言った一言がリーンはずっと気になっていた。“発展こそしていないが平和な世界だ”と神は言った。発展して欲しいと言っているようにリーンにはそう聞こえたのだ。色々な思惑が混ざり合うこの水晶鏡はこの国の、いや、世界の発展に大きく関わるものだ。そういった物はまだまだたくさんある。

 それらを国が秘匿し保有するのではなく、世界に広めて行けば、神が望む発展する世界になるのではないかとリーンはずっと真剣に考えていたのだ。


(まぁ、これは勝手な想像なんだけど。赴くままにって言ってたし、私の為に頑張ってとも言ってた。発展させる事は悪いことじゃないよね)


 やる気のない神様だった、と思い出してリーンは心の中で苦笑いをした。


 

 

 

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