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王の気持ち



 静まり返る部屋の中。

 リーンとバルドゥルはお互いに視線を逸らす事なく、ただただ見つめ合っている。


「お、王よ。女神様はアルエルムで起こっている厄災の原因を取り除いてくださると私に仰いました」


 リーンのあまりの唐突な発言に言葉を無くしていたバルドゥルにガビロンは言葉を補う。

 

「…女神よ、厄災を鎮めることが叶うのですか…?」


「はい」


「我々ドワーフはここデロスを一瞬でも離れれば、その身は闇に包まれて二度と戻っては来れないのです」


「その対策は出来ていますし、原因も分かっております」


 デロス島にかけられた厄災。とも言い、呪いはある日を境にドワーフ族全員をこの島に閉じ込めてしまった。それは一時的に島の外にいた者たちも同じで、一度島に足を踏み入れると以降、二度と外に出る事は叶わなくなる。


「…それで我らはどのくらいの間国を離れなければならないのでしょうか」


「半年。それくらいは見て頂かないと行けません」


「ど、どのように厄災を退けるのでしょうか…?」


「この島の全てを掘り起こします」


 決断を迫られる。

 この災いを解く事は彼らにとって長年の夢だ。他の種族がいるので外との交流が断たれる訳でもないし、食料や日用品に困ることもない。でも、彼らはアルエルムどころかデロス島ですら出ることは叶わない。

 ずっと息苦しかった。島の外に出るのはもはや夢のようなものだった。それが叶う。

 だが、それを実現する為には今まで培ってきた物の全てを投げ出さなければならず、一年経ってこの島に帰ってきても何も残っていないという事。


「…」


 再び言葉を無くす王にガビロンは必死に何か言葉を発しようとするが、いい言葉が見つからない。


 龍族を含め亜人、と呼ばれる全ての者たちが人族に一方的に迫害を受け、争い、土地を奪われ、沢山の同胞達を亡くした。

 そんな時に手を差し伸べてくれたのがドワーフ族だった。

 彼らは行き場をなくした全ての種族達に無償で島を与えて、自立して生活が出来るようになるまで食糧や日用品などは勿論、彼らに合った仕事も与えた。

 彼らはその恩からドワーフ族に絶対的な信頼と忠誠を誓い、感謝と敬愛を捧げてきた。


 辛い出来事が少しずつ風化し、全ての種族達がお互い助け合って生活し、久方ぶりの平和が訪れた頃。

 厄災が訪れた。

 厄災はデロス島をたった一夜にして呪われた島に変え、ドワーフ達を閉じ込めた。それに気付かずに外に出てしまって今もなお眠り続けている者も多い。王の息子もその一人だし、王の実の弟も国外に出たまま帰ってこれない状況だ。


「…神よ、申し訳ないがワシの一存では決めかねる。国民達に是非を問わなければならない。時間を頂けるだろうか」


「王!我々亜人達は今も尚、あなた方ドワーフ一族に恩を感じております。住む所が代わるくらいで文句を言うような者はおりません!」


「しかし、もう皆の暮らしはこの島に根付いている。それをワシらドワーフ一族の事情で一方的に追い出す事は出来ん」


「しかし!バルロフ様は今も尚眠ったままに御座います!我々国民はバルロフ様の一日でも早いお目覚めを望んでおります!」


 食い下がるガビロンに痛いところを突かれてしまった、とバルドゥルは視線を落とす。

 王だって出来る事なら今すぐにでもリーンの言う通りにして最愛の息子バルロフと再会したいと思っている。だが、自分は王だ。個人的な理由で突っ走る事が出来ないのもよく理解している。


「ガビロン。其方の言葉はとても嬉しい。正直なところワシも歳を取った。其方の言う通り我が息子に一目会いたい。しかし、我は王なのだ」


「しかし…!」


「バルドゥル王。こちらにも少し準備があります。私は一度帰りますので一ヶ月後に再び相見えましょう」


「…感謝いたします」


 王の意志を尊重し、リーンはリコースと共にお城を一度去る事にした。

 リコースはバルドゥルとの面会中一度も声を発することも、地面を見たまま視線を上げることもなかった。ただただ、侍女のように壁際に身を寄せて佇んでいた。


「女神様。つかぬことをお伺いしますが…彼らの住む場所は一体何方に…?」


「ヴェルスダルム大陸の一部の土地を買い取り、そこに街を開きました。と言っても今の所の住人は私の使用人やお抱えの職人達だけですが」


「私も其方に伺う事は可能でしょうか?」


「…?構いませんが、デロスでのお仕事に差し支えるのでは?」


「私、何かと便利だと思いますよ」


 マダム・リコースはふふふ、とお上品に笑いながらリーンに囁く。

 確かに彼女はとても有用だ。

 人族を嫌う亜人族達が住まうデロスという島国でやってきた忍耐力、そんな状況でも領主と対面するだけの度胸、更に良い関係を築いてしまうほどの人柄と交渉術、それでいて頭が良く、先見の明に優れている。極め付けは聖王国秘伝である転移魔法陣を使えると言う点。

 リーン自身は特に必要はないが、転移魔法陣があるとないとではやはり人流に置いては天地程の差がある。


「では、参りますか?」


「はい、ご一緒致します」


 リコースは女神であるリーンに気を使っているのを嫌味がないように見せつつも、いい意味で遠慮がなくて此方に気は使わせない。

 こう言うところが彼女の良いところで好かれるところなのだろう。


「リーン様…とマダム・リコース」


「先日振りで御座いますね、レスター様」


「レスター。マダム・リコースには暫くご協力頂ける事になりました」


 何を考えているのか分かりにくい微笑みを向けるリコースにレスターは無言で丁寧な一礼する。


「…畏まりました。それでバルドゥル王は同意されたのですか?」


「貴方の見立て通り国民に是非を問う時間が欲しいと言われました。なので1か月後にと伝えておきました」


「では、今後はラテから聞いていた通りで」


「お願いします」


 レスターは再び二人に頭を下げて部屋を出て行く。

 扉が閉じるのを最後まで確認してからリコースは窓辺まで移動して、街並みを見下ろす。


「此方に皆さんをお連れするのですか?」


「そうですね」


「では、早速魔法陣をお作りしますね」


「無理のない程度でお願いしますね。ティリスに迷惑をかけたくないので」


「畏まりましたわ」


ーーーコンコンッ


 見計らったかのようなタイミングで扉をノックする音が聞こえて来て、ゆっくりと扉が開く。

 顔を覗かせたキールはリコースに子供らしいのに何処か艶やかな雰囲気の微笑みを向ける。


「…」


「キール、マダムを書士室にご案内して貰えますか」


「畏まりました。はじめまして、マダム・リコース。女神様の使用人をさせて頂いておりますキールと申します。お部屋の方にご案内させて頂きますね」


「…お願い致しますわ」


 少し苦笑いをするリコースにリーンはただ笑顔だけ返して送り出した。

 




 

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