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鳥影

作者: 京本葉一

 私が子どものころ、祖父の朝食はトーストと決まっていた。


 祖父はパンの耳を食べなかったので、当時の私は、それをもって近くの池に向かい、カメたちに与えていた。水面から顔を出して、パンの欠片をくわえる姿が、妙にかわいらしかったのだ。

 餌を与えている人は、ほかにもいて、人もカメも慣れたもの。菜箸をつかって与えるベテランの女性もいて、すぐに押しよせてくるコイの軍勢が、カメを押しのけ、バッシャバッシャと水面を荒らしまわるたび、その人といっしょに文句を言っていた覚えがある。


 いまでは私も、朝食にトーストを食べている。パンの耳を残すために食べているようなもので、餌として与える相手は、わが家の庭を訪れる、野鳥たちだ。

 野鳥といっても、スズメ、ときどきハトになる。

 カラスはこない。

 細かくちぎったパンくずなので、カラスには不向きなのだろう。


 パンくずを庭にばらまく時間になると、スズメたちが近くで待ちかまえている。距離もそこそこ近い。数が増えてきたので、トーストの枚数を増やそうかしらと思ったりもしている。時間でもないのに様子を見にくるスズメをみつけると、いまからトーストを食べようかしらと思わないこともない。


 ある日、黄色と緑が鮮やかな、カラフルな小鳥が庭にいた。


 小型のインコとおもわれる鳥は、スズメといっしょになってパンくずをついばんでいた。野生化したインコなのか、飼い主から逃げ出したのか、それとも捨てられたのか。


 美しい小鳥は、スズメたちが去った後も、塀のうえで羽をやすめていた。


 やはり人に飼われていた、手乗りインコなのだろうか。

 私は鳥を飼うつもりはない。最近、フクロウが可愛くて仕方がないわけだけれども、鳥を飼うつもりはない。

 だがしかし、もしもあの小鳥が私の手に止まり、愛らしく鳴いたりしたのなら、私の心の天秤は大きく揺らいでしまうかもしれない。


 私は食パンを焼くことなく、パンくずを用意して庭に出た。

 塀の上にいるはずの、カラフルな小鳥の姿を探したが、どこにも見あたらない。


 さっきまですぐそこに──


『残像だ』


 どこからか、落ち着いた声と、小さな羽ばたく音が聞こえた。

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