逃げた先には、2
前世の台所で大量のゴキブリに追いかけられ最後はゴリラに殴られ終わるという最悪な夢の世界から意識を取り戻し、一気に覚醒した西村は
「見えない天井だ…」
と空を見て呟いた。
視界の端にはしっかりと壁があるのに、あるはずの天井が見えなかった。
「なくて悪かったな、天井」
隣からさっきも聞いたような声が皮肉を放った。
西村はあえてそっちを向かずに、
「いや、雨の日にはお風呂がいらねえじゃねえか」
この異世界でしかも魔物のゴブリンがお風呂と言う概念を知っているのだろうかと疑問を持ちながらも皮肉を返す。
そんな疑問も杞憂でありしっかり伝わったようだ。
「テメェ!ぶっ殺されてえぇかっ!!!こっちは週に一回も入ってんだよっ!!」
「十分汚ねえよっ!!!こっちは毎日入ってますーー!!!!」
皮肉と変顔で西村は相手を煽る。
「はっ!お前なんかが生きて入れるわけねえだろっ!!!」
しかし鼻で笑われ嘘だと決めつけられる。しかも、その目には煽りなどはなく本気でそう思っているのだから言い返す言葉が出てこない。
そのまま口をもごもごさせていると、
「こらーーーッ!!!テメェらまたケンカしてんのかっ!!!」
どしん、どしんと足音をたて壁にできている穴からぬっと力士並みの体格を持ったゴブリン、いや怪物が入って来た。
人口密度はまだ小さいはずなのに急に窮屈になり、同じ壁に寄る両方。
それまで怪物を見ていた2人だが肩がかすり、お互いに存在を知った。目線が相互した瞬間、同時に地面を蹴って家の角まで離れる。
「なんだっ!?お前ら仲いいんじゃねえかっ!!」
おかしな勘違いをした怪物は凶悪な笑みでこっちに笑いかける。
ビクッと恐怖で固まった隙を狙い、怪物は西村を片手で持ち上げる。しかも鷲掴みだ。
見るとゴブ剣も剣と一緒に捕まっている。鷲掴みで。
「よしっ!!!よく戻ってこれたな我らの子よっっ!!!」
どしん、どしんと怪物は歩き出し西村は訳もわからず泥の家から出る。
「ちょっ!何元気よく手振ってんだっ!!!吐く、吐いちまう!!!」
抗議の言葉は虚しくそいつの耳にも届かなかった。
一分ぐらい歩いている怪物は口から下手な鼻歌を歌いだした。
そしてゴブ剣と西村は口からゲロを吐きだした。
「ぐへっ!」「うぐっ!」
急に怪物に放られ情けなくこける。
打った腰を抑えながら立ち上がり、あの怪物を睨もうとキッと顔をあげる。
しかしそこにあるのはあの怪物ではなく、あの泥家の近くにあるものとは思えないほど美しい、いや神秘的な神殿だった。
ギリシャにあるような細かな彫刻が刻まれてあり美しいとかではない。
よく見るとただの石を積み上げたただの建築物である。
高さも三メートルもない。
しかし、敬意を払わずにはいられない。
下にはあの怪物もゴブ剣もただの小動物でさえもひざまづき頭を下げている。
西村は動けず、ただ立ち尽くしていた。
そして、
ーーー声がした。