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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

火曜の早朝に僕はジャンプを読む

作者: 関谷 雄大
掲載日:2016/12/31

 少子高齢化、若者や生産年齢人口の減少、年寄りの増加、就職氷河期、長らく続く不景気、世の中はそんな状態だ。それは僕が週刊少年ジャンプを手に入れることを少しずつ困難にしていっている。

一般的には嘆かわしいことだと思うが、僕には生産性というものが備わっていないため、抗議の声をあげるつもりは毛頭ない。


 火曜日


 まず、住処を出る前にシャワーを浴びる。

 悲しいことに僕は無職だ。収入はネット関係で多少。安定したものではないし、それもいつ終わりが訪れるか分かったものではない。

なので、毎日シャワーを浴びるのは経済的に辛いし、外に出ない日にはその必要性もないと思っている。しかし、ジャンプを手に入れるために外出する月曜の深夜だけは、諸々に気を使ってシャワーを浴びることにしている。

あと、通販の宅配物が届く日も、そのことを覚えていたら浴びている。

住処の隣にある空き地から車のものと思われるアイドリング音が聞こえ始めた。

「またか」

月曜の夜になると決まって、聞こえてくるノイズだ。僕がジャンプを手に入れるために外に出て、戻って来るという時間を経ても、その車は自らの駐車場へ戻らない。僕のシャワーシーンを覗き見ているわけでもないだろうに、何がしたいのだろう、少し気持ちが悪い。

僕のような存在が気にするのもどうかと思うが、平日の深夜に人がほとんど住んでいない地域で時間を潰していて、仕事などは大丈夫なのだろうか。

「ふう……」

 ため息をついて、学生であったころよりも随分と長くなった髪を振り、水を飛ばす。

「かったるいな」

 僕のような容姿の人間が昼間に外に出たなら、嫌悪の対象にしかならないだろう。

それでも僕はジャンプを読み漏らしたくないので、人通りの少ない深夜に行動する。


 陰鬱な気分で駐輪場とは名ばかりの軒下に置いてある自転車に跨り、住処を後にした。

 荷物は、電子マネーが搭載された携帯電話、毎週使っているバームクーヘンのように膨らんだタオル、内容量一リットルのペットボトル。

 空き地に停まっている怪しい車の前を通るのは嫌なので、迂回して、市街へ向かう。

 夜は本当に良い。

 まず、人が少なくて煩わしくない。

 次に、暗くて、落ち着く。

 万が一、知り合いのお母さんに出会ったなら、夕飯や次の日の弁当の残りを貰えることもある。通販でまとめ買いのカップ麺とコーラに錠剤のビタミンの組み合わせに飽きた頃にそのワンクッションがあると、とても満たされた気分になる。

 嫌なことを挙げるとすれば、街灯の光が何の作用をするのか、死んでしまった旧友の顔をフラッシュバックさせることが度々あることだ。一瞬、幽霊が現れたのかと思い、自転車から転げ落ちそうになった。夜だったからよかったものの、もし、昼間だったなら、赤っ恥もいいところだ。


 そして僕はジャンプを手に入れた。

 外出記念に携帯電話で写真を撮る。


 住処の近くまで戻って来たところで、不快なアイドリング音を思い出し、誰のものかも知らない畑を迂回し、駐輪場に自転車を停め、鍵を掛ける。

今日も何事も無く戻って来ることが出来た。

深夜の職務質問ほど厄介なものはない。

 パソコンを起動し、SNSにログインし、わが街のジャンプ読者コミュニティーをネタバレに留意しながら巡回し、小遣い稼ぎのホームページを更新する。

「あー、終わった」

 最後に、ホームページのアクセスカウンターをチェックする。

 

 もう、早朝と表すような時間になっていた。

 毎週この時間に僕はジャンプを読む。

 いつの間にか、アイドリング音は聞こえなくなっていた。


 水曜日


 昼頃に起床し、ウェブでニュースをチェックする。

『B市で殺人事件』

 B市とは僕の住んでいる市に隣接する地域だ。物騒な世の中になったものだと思う。

 案外、空き地でアイドリングさせているヤツが犯人なんじゃないだろうか。

 存外、犯人は身近にいるものだ。

 そんな妄想をしたものの、その後のストーリーを紡ぐことが出来なかったので、事件のことはどうでも良くなって、SNSの巡回に性を出す。


 気がつくと太陽は沈んでいた。

 さすがにネットの巡回を打ち切るろうと思い、ホームページのアクセスカウンターをチェックしてから、パソコンをスリープモードにした。

パソコンを使わないで可能な娯楽がこの住処には殆ど無いので、ジャンプを読み返して時間を潰した。


 木曜日


 昼頃に起床し、通販サイトに特売の商品がないかをチェックした後、ウェブでニュースをチェックする。

『B市の殺人事件はA市で起きた事件と関連性が!?』

 A市とは僕の住んでいる市だ。

 とはいえ、A市は広い。まあ、横浜市ほどでは無いのだが。県内では広いほうだ。

しかし、横浜市くらいの発展の格差はA市にも存在する。僕の住処はA市の中でも、もっとも田舎と言っていいだろう。というか、ここはほぼC市のような扱いを受けている。ガスの管轄だってC市の会社だ。C市の社員様は山を越え、川を越え、家の辺りまでやってくる。本当にご苦労様だ。しょっちゅうガス料金を滞納する僕のせいでごめんなさい。悪いとは思っている。

しかし、見出しに、『!?』と付いているし、ゴシップ系ニュースサイトなので、注意することもないだろうと思い、パソコンをスリープモードにした。


 日曜日


 今度の月曜日が祝日のために、昨日の土曜日がジャンプの発売日だったことを僕は失念していた。

 僕はカレンダーなんてめったに見ない。昼頃に起きて、ネットして、寝るというサイクルの生活をずっとしているために、祝日という概念は意味を成さなくなっていた。

 時刻はすでに日曜日の午前三時。とはいえ、世間一般の皆さんが起きるまでにはまだまだ時間はある。特に急ぐこともなく、ジャンプを手に入れるために、シャワーを浴びることにする。

 シャワーを浴びていると、なにか違和感があった。

 そうか。

僕がシャワーを浴びている日なのにも関わらず、今日はアイドリング音が聞こえない。

だが、静かなことは良いことだ。

「ふう……」

 僕はさらに伸びているのであろう髪を振り、タオルでしっかりと拭いた。


 土曜日発売のときは手に入りにくいので、ハシゴを覚悟し、市街へ向かうためにペダルを踏む。

 カゴには、電子マネーが搭載された携帯電話、毎週使っている膨らんだタオル、内容量一リットルのペットボトル。

 今日は空き地に車が停まっていないので、気分良く最短ルートで市街へ行くことが可能だ。


 自転車に鍵を掛けて、目的のブツを手に入れに建物に入る。

「これだから、土曜日発売のときは……」

 僕はめげることなく二軒目へ向かう。

 ミッションコンプリート。

 僕はジャンプを手に入れた。

 記念に携帯電話で写真を撮る。


 土曜の深夜は、月曜の深夜よりも、心なしか人が多い。

 他人と接触を持ちたくないため、出来るだけ裏通りを抜け、住処へ戻る。


今日も何事も無く、戻って来ることが出来た。

 パソコンを起動し、SNSにログインし、わが街のジャンプ読者コミュニティーをネタバレに留意しながら巡回し、ブログのようなホームページを更新する。

「あー、終わった」

 最後に、ホームページのアクセスカウンターをチェックする。

 もう、朝のニュースもバラエティ色の強いものに変わる時間になっていた。

 僕はジャンプを読む。


 火曜日(Ⅱ)


 火曜日の早朝は習慣でシャワーを浴びたくなる。水道代が少しもったいないという気持ちになりながらも、シャワーを浴びることにする。

「チッ」

先週と同じアイドリング音に思わず舌打ちをした。

 本当にうざったい。

山に近く、静かな場所であるため、余計にその音を意識してしまう。

 毎晩空き地で停車しているわけでもないから、住所不定というわけでも無いのだろうに。

 排気ガスで空気が汚れていく気もする。

 今日、外に出る用事があったなら、ナンバーを覚えて、警察に文句を言ってやろうかとも考えるが、あいにく今日は外に出る用事がない。本当に残念だ。

出来ることなら関わりたくないので、よかったという気持ちも無くはない。


 しかし、今日は空き地にほとんど留まることなく帰っていったようだ。

 ノイズは僕がシャワーを浴び終わる前に聞こえなくなっていた。


 水曜日(Ⅱ)


 昼頃に起床し、ウェブでニュースをチェックする。

『A市でまたも、殺人事件。凶器は鋭利な刃物』

 鋭利な刃物なんて、何処にでもあるだろう。そんな情報を得たところで、被害者はどう仕様も無いではないか。

 例えばガスコンロだって鋭利な刃物になりうる。なぜなら僕は、高校生の時にガスコンロで五針縫う怪我を負ったことがある。ガスコンロは注意力が散漫ではあるが、綺麗に拭やろうと思って手を突っ込んだ善良な生徒に怪我をさせるくらいだ。そんなものに悪意を持って加工を施せば、人の首を掻っ切ることの可能な物の作成は容易だろう。……こんなニュースを見たせいで、裂いてしまった親指から流れる血と白くなった皮膚を思い出してしまった。少し不快だ。

 そんなことを思い出したら、事件のことよりも武器の作成方法について興味が湧いた。その方法について、ひと通り検索をした後に、SNSの巡回に性を出す。

 巡回が一段落をしたところで、ホームページのアクセスカウンターをチェックしてから、パソコンをスリープモードにし、読みすぎてくたびれた色のジャンプを読み返す。


 火曜日(Ⅲ)


 最近、一週間が経つのが早い気がする。

 歳を取ったということなのだろうか。相対性理論は僕らに優しく成り立っていない。

 風呂場に行く前から、不快なアイドリング音が聞こえてくる。

 ――今日こそはナンバーを控えてやる。いつもより気持ちが高揚している気がした。


 蛇口を捻り、シャワーを出し、温度を調節する。それを頭からかぶり、排水口へ飲み込まれていく水流を見送りながら、十五分ほどの時間を使い、これからすべきことを整理する。

 悲しいことに僕は無職だ。収入は会員制ホームページのアクセス権の課金をすることで得ている。更新も多くて週に一回だ。最低でも隔週に一回はしているが、それでは収入は安定しない。

だから、毎日シャワーを浴びるのは経済的に辛いし、誰に会うわけでもないから毎日、綺麗にしておく必要性もない。しかし、ジャンプを手に入れるために外に出る月曜の深夜だけは、街行く人々の不審感を最小限にするためにシャワーを浴び、髭を剃り、髪を整える。あくまで年相応に。

 まあ、人に遭遇しないのが一番いいのだけど。用心に越したことはない。

 月曜の夜は外からアイドリング音がする。

なんとなく、その理由は想像が付いてきた。想像通りだったとすれば、その原因は僕にあるのだろう。

僕の人生は最低だ。

 たぶん、空き地の貴方の人生もかなり酷いと思う。

 長くなった髪を振り、水を飛ばす。

「――さて、用意しますか」

 剃刀を手に、肌を削ぐ。

 長くなった髪にリンスを塗りこみ、艶を出し、無駄な長さを誤魔化す。

「そろそろ切りたいけど……」

 シャワーを止め、体を拭きながら、洗面用の鏡に呟いた。

評判のよいサロンで切ってもらうような金銭的余裕はない。心理的側面からも避けておきたい。そのうちにハサミで適当に切ってしまおうと思う。

 バスタオルで水気を少なくした体に、夜歩きには適さないであろう、無地で黒のロングティーシャツと、濃い紺のジーンズを付ける。

 軒下に停めてある自転車のカゴに、写真機能付きの携帯電話、ガムテープを包んだタオル、中身が十分に入っていて重いペットボトルを入れ、スタンドを外す。

 今週は空き地の前を横切り、停まっている車のフロントガラスを眺めると、車内には、液晶の青白い光に照らされ、血走った眼が浮かんでいた。

 その眼から、空き地にいる理由に確信を覚えながら、僕はペダルを踏み込んだ。


 目的のコンビニエンスストアを見つけ、その店舗の駐輪場に自転車を停める。

ロックを掛け、不必要に研かれ、鋭くなった鍵を引きぬき、コインポケットに潜ませる。

 一度、店内に入り、串に刺された唐揚げを買って、ゴミ箱の前で食べる。しっかり、ゆっくりと噛み締め、味わいながら。

 僕は、自転車がそこに変わらずにあることを確認し、他人の視線がないことに注意を払い、カゴの中の荷物を取り出し、手に持つ。

そして、SNSで調べておいた住所へ歩いて行く。調べる上で必須とする条件は、比較的古い一軒家であること、大通りに面していないこと、あと勿論、ジャンプを購入していること。

 道路から見えづらいであろう窓を探す。

「――ここにしよう」

 タオルでくるんでおいたガムテープを貼り、中身が十分に入っているペットボトルの底を使って、釘のように突き立てた鍵を叩き、ガラスに亀裂を作る。

慎重にガラスを外しながら、家屋へ耳を澄ませる。

 別にこの家にこだわっているわけではない。

 ネットのマップでアタリをつけておいた少々古くてガラスの薄そうな家は他にもある。

――中から物音はしない。

 ロックを外し、中へ侵入する。

 居間らしき空間で、先週号から一つ進んだ数字のジャンプを発見した。

ミッションコンプリート。

僕はジャンプを手に入れた。

 それを侵入した窓の近くに置き、コインポケットに利き手を忍ばせ、寝室を探す。

 ――それらしき部屋があった。

 いつからか、僕は寝室を見つけると、少しだけ笑顔になってしまうようになっていた。

 それはいつからだろう。よく覚えていない。

これだから、僕の人生は最低だ。

既に暗闇に十分に慣れた目で、

 タオルを誰かの口に押し当て、

 コインポケットから取り出した鍵で、

 誰かの首を引き裂いた。

 ひどくもがくものの、タオルを少し押しこめば大して声も漏れてこない。

 それが過ぎればあっけないものだ。

僕の人生は最低だ。まあ、それすらも、どうでもいいのだけれど。

 シャッター音を殺した携帯電話で死体の写真を撮り。

誰かの寝室を後にし。

ジャンプを拾い。

侵入した窓から。

既に作るのに慣れた、何食わぬ顔をして、出て行く。

 コンビニエンスストアに停めた自転車に跨り。

荷物を一つ増やした僕は、市街から去った。

僕の人生は最低だ。

だが、絶対評価で考えるのならば、その順位は一つ浮上したはずだ。


 夜は本当に都合が良い。

 まず、人が少ないから、目撃者の心配が昼間より煩わしくない。

 次に、暗くて、多少返り血を浴びていたとしても大丈夫だと、落ち着いて殺せる。

 万が一、知り合いの家に侵入してしまったなら、飯を食い散らかせば、多少なりとも、昔に味合わされた体験の気も晴れる。ついでにつまらない食生活の気分転換にもなる。

 嫌なことを挙げるとすれば、僕が以前に殺した知り合いの顔が街灯の光が何の作用をするのか、闇に浮かび上がる気がすることが度々あることだ。一瞬、幽霊が現れたのかと思い、自転車から転げ落ちそうになった。夜だったからよかったものの、もし、昼間だったなら、赤っ恥もいいところだ。


 住処の近くまで来たところで、不快なアイドリング音を思い出し、何をしているのかということの答え合わせをするために、その車のフロントガラスを眺めると、中には僕が市街へ出かける前と変わらず、液晶の青白い光に血走った眼を浮かび上がらせる男がいた。

 彼がここにいるのは、月曜の深夜。

それも毎週。

 ジャンプの発売日だからここに居る訳ではない。

 それならば、発売日が変わった土曜日の深夜には現れなかったことの説明がつかない。

 恐らく、彼は人目に付きづらい空き地に車を停め、月曜日の深夜に更新されることが多いホームページの更新を楽しみにしているのだろう。

 その会員制のサイトには首を裂かれ、死んでいる人の画像がアップロードされているだけだ。

 そんなものを見るために、金を払う人がいるのは、僕にとっては滑稽であり、とても助かることでもある。

 そんなに死体が見たいのなら、自分で作ればいいのだ。そうすれば、それぞれ理想の死体が完成するのに。

 血走った眼をして誰かが用意してくれるのを待ち望むことも必要がなくなる。


 住処の付近へ差し掛かり、僕はアイドリングの煩わしさと、一人分の課金からの収入を天秤に掛けた。

 どっちでもいいなというのが結論だ。

 ただ、辺りに漂う栗の花の香りと、空き地に猫の手くらいの大きさに丸め捨てられたテッシュペーパが気に入らないと思った。

 その二つに因果関係がある可能性は低いのだろう。

だが、因果関係が無いとは言い切れないのではないか。

 僕はペダルに少しだけ力を込め、車に近づき、自転車を停め、鍵を抜いた。

 ガラスをノックする。

 そうすると、パワーウインドウが作動した。

 僕は、彼の右手がまだウインドウを下げる位置にあることを確認し、反撃の危険性を幾つか思い描きながら、首を裂いた。

 しまった、口を塞ぎ忘れたなあ、と思ったが、半開きの窓から叫んだところで届く距離は知れたものだ。こんな僻地から他人に届く声などあるはずもない。

彼は眼を見開き、その後に安らかな顔をし、「貴方が管理人さんですね」と言ってから沈黙した。

 僕は、「正解です。おめでとうございます」と言ってから、何が、『めでたい』のかと思い、苦笑した。

 彼の車からは栗の花の匂いはしなかったので、あのティシュペーパーは彼のものでは無かったかもしれない。しかも、あのティシュペーパーでは、自慰行為をするには少なすぎるだろうに。課金者に対して冷静さを失ったことに少し反省をした。

 彼が操作していたノートパソコンを見ると、僕のホームページのショートカットがデスクトップに作成してあった。さすがに僕の住処の近くで死なれて、パソコンがこれでは、少し困ったことになる可能性がある。申し訳なく思いながらも、ショートカットを他のスプラッタ画像のあるサイトに切り替え、履歴を適度に削除し、キーボードをタオルで拭いてから、住処へ戻った。

 彼が自宅で僕のホームページを見てくれていれば、僕だって課金者を一人失わずに済んだし、彼も死なずに済んだのに。

 しかし、人には人の事情がある。

 僕には彼の事情が関係無かっただけだ。


今日はイレギュラーがあったが、帰って来ることが出来た。

月曜日深夜の職務質問ほど厄介なものはない。

 ガラスを割るためにバーナーを持っていったことがあるが、その時に、『ちょっといいですか』をされていたら僕は今頃、檻の中だろう。液体窒素を魔法瓶で運搬するなんていうのは論外だ。試行錯誤したが、今日の方法がベストだと思う。ガラスの破壊音で住民が起きたなら、ガムテープで補修された自転車で逃げればいいのだ。

空き地に置いてある彼だったモノに誰かが気がついた時のことを考え、鍵は自転車に挿しっぱなしにしておくことにした。手元に凶器を置いておくよりは幾分か安全だろう。鋭利な鍵の隙間に残った朱色のそれは、血だと意識しなければサビに見える。なので、軒下の自転車が盗まれ、乗り捨てられたとしても問題は少ないと考える。

 パソコンを起動し、SNSにログインし、わが街のジャンプ読者コミュニティーをネタバレに留意しながら巡回し、次のターゲットを数軒リストアップしてから、ブログのようなホームページに、今日、撮影した写真を載せ、更新する。

 さすがに空き地にいた彼の写真をアップロードする度胸はない。

「あー、終わった」

 最後に、ホームページのアクセスカウンターをチェックする。

 きっと、来週からは一人は減っているのだろうなと思うと少し勿体無いという気持ちになり、それと同時に知り合いを殺したときよりも心が動かされていることに気がついた。

 でも、やはり、どうでもいいな。と思った。なぜなら、そんな気持ちは僕の衝動を抑えるファクターになることはないのだから。


 もう、早朝と表すような時間になっていた。

 僕はジャンプを読む。

 アイドリング音は消えていて、これからもしばらくは聞こえないのだろう。

 空き地を訪れるのであろうサイレンが僕の耳を攻めるのはいつのことになるのだろう。

 そのサイレンが僕の元へ来るのはいつになるのだろう。

 ふと、空き地の彼が捜査中の刑事である可能性を考えた。

 確かめに行くのが面倒だし、別にそれでもいいと思った。

ジャンプを読む人が減っていて大変だ。

それは、僕のせいでもあるのだけど。


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