鴎雨
冷たい床。
それだけで、状況を読めたのは誉めたものだろう。
起き上がるとそこは、階段の踊り場。だけど、知らない学校だ。さっきまでの階段とは別だった。
いきなり、なんだ。夢を見ているのか。頭でも打って、気絶して…。
とりあえず僕は立ち上がった。混乱した頭で何を考えても無駄だ。まず行動、と思ったわけ。人はこういう場面になったときに意外と冷静でいれるものだ。もしかすれば、何かすれば覚めるかもしれない。
ここが何階なのかはわからないけど、上へ向かうことにした。まだ人の気配は感じない。
少し急な階段を上がり、廊下に出ると仄かな明かりが広がっている。なんとなく、夏ではないような気がする。
足は止まろうともせずただ勝手に前へ進んだ。
学校の構造は、うちの学校より古いが綺麗ではあった。廊下にゴミやホコリが落ちていないのを見ると、無人学校ではないのは確実だ。味方か敵かは会ってみないことにはわからないけど。
「理科準備室……」
ふと目にとまったその教室からは、何かを感じた。具体的に、と言われれば困る。とにかく人が居る気がした。躊躇なく扉を開ければ、独特な空気が通り抜ける。
「誰かいませんかー?」
もし中にいるのが凶暴な何かだったらどうするんだ、という心配事は声をかけた後に出てきた。もう後には引き返せない。それに事情を話せば…って、これは夢。夢なんだから、自分の悪いことは起きない。はずだ。
少し待ったが返事は来ず、中に入ることにした。中は廊下よりひんやりと涼しく、快適。長居すると身体を冷やしそうだ。
薄暗くてなかなか見えないけれど、理科ならではの物がたくさん置いてあり、物々しい雰囲気である。
「誰だ」
周りに気をとられていて、部屋の隅にいる人物に気がつかなかった。暗くて見えないが。声からして女性。年はわからないが、はっきりした声。でも何か苦しそう。
「あの、ここは」
「……見たこと無い顔だな。『来校者』か?」
「来校、者?」
ここの学校でない者、という意味であればそういうことになるけど…何かニュアンスが違う気がする。
「気づいたら、ここに居たんです。夢ですか、これ」
我ながらアホの質問したな。
「ほう。なるほど……。『生徒』か。ならば歓迎せねばならないな。……だが時期が悪かった。来てくれ、説明する」
女性は立ち上がると、こちらへ向かってきた。
近くなったことによってわかったが、緩くウェーブのかかった紺色の髪は腰まであり、目は鮮やかなペリドットの色だ。服装からして年は近いとみた。
だが、ところどころ解れていたり汚れていたりでボロボロだった。何かと戦ったあとのような。
「あまりジロジロと見ないでおくれ。言いたいことはわかる」
「ごめんなさい。あの、名前は?」
「オウメ。森鴎外の鴎に、空の雨で、『鴎雨』。年は18だ」
僕は今16。鴎雨さんは先輩ってことになるのだろう。
「よろしくお願いします、鴎雨さん」
「君の自己紹介は後で良い。時間が無いんだ。頑張って付いてきてくれ」