プロローグ
見渡す限りの草原。しかし其の色は緑ではなく、朱だ。
聞こえてくるのは鉄と鉄とがぶつかり合う音、鉄が肉を断つ音、人の悲鳴、怒号、雄叫び。
ーーーそう、ここは戦場だ。ーーー
フォルト王国、アミガヴェル王国、コレット王国、この三国の対立は何百年も前から続いている。そのため、戦争は珍しい事ではない。今回もいつも通り各地で争いが起きていて、戦いが止まる気配は微塵もなかった。
そもそも今回の戦争の原因はフォルト王国の貴族にあった。
王国を経済面で支える数多くの貴族、そのうちのスカーレット家は王国への忠誠が一番厚く、ほかの二国を他の誰よりも邪魔だと思っていた。
そのため、三国対話の際に二人の王を暗殺するという計画を立てたのだ。
その暗殺自体は未遂に終わったが、殺そうとしたことは他の二国に伝わり、両国が宣戦布告、戦争へと発展したのだ。
長く続く戦乱。いつもは数ヶ月で終わるのだが、今回は既に五年の月日が流れていた。これをどうにかしたいと考えたフォルト王国の王、アインスラッド・デルタニア・フォールトは長い思案の末、一つの答えを出した。
それはーー
暗殺を企てたスカーレット家と共に、王自らの命を差し出すことだった。
これは真っ当な判断だった。ここまで荒れた国々が主犯格の死だけで止まるとはもう思えないからだ。
勿論臣下は猛反対、皆が口を揃えて、王だけは亡くす訳にはいきませぬ、と言った。こうする他ないと分かっていても、自分達が心から信じている人の死だけは受け入れられない。
その言葉を嬉しく思った王だが、ほかに手はない。
ーやらねばならぬのだ。許せ。お前達を心から愛しているよ。ー
王はこう言い残した。
そして数日後、アミガヴェルとコレットの国境でスカーレット夫妻とともに王は公開処刑された。
そのお陰で戦は終わりを告げ、平和が戻ってきた。
そしてフォルト王国の新しい王はアインスラッドの息子、ツヴァイオレン・ドルトニア・フォールトに決まった。
これは王か残した手紙に綴られていたことに従ってのことだ。
また、スカーレット家の子は他の貴族に引き取られた。
ーーそれが十年前の事だ。




