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魔女は祝福から逃れたい。  作者: しろいくま
10/11

09

残ったフルーツサンドをアイテムボックスに仕舞って、私とグレイが結界の中に入ると、中に居た数人の冒険者たちが外へ出て行く。


ケインは結界の中に残っているのが私たち二人だけになったことを確認して頷くと、地面に刺さった円柱に認証魔法を展開した。

すると円柱同士が赤い光で結ばれ、私とグレイを囲んでぐるりと輪を描く。

戦闘が終わるまで他者の出入りを禁止するためのものだろう。

その結界に沿うようにぞろぞろと観客が移動していくのが見えて、変な汗がでてきた。


ああ…帰りたい…。



私が観客の視線を感じて憂鬱になっていると静まり返った演習場にケインの声が大きく響いた。

変声魔法でマイクのような効果を出しているのだが、前世のマイクよりもエコーが掛からず普通に話している声のようにはっきりと耳に届く。


「これよりランク登録試験を行います。今回は未登録者が対象の異例の事態となっていますが、対象者であるサラ様は高位魔女様でいらっしゃるため、特例としてその実力に応じたランクへの登録が可能となりました。サラ様の強さを正確に測れるよう、Sランク冒険者であるグレイが試験相手を務めます」


ケインが私が高位魔女であると告げた辺りで周囲がざわつく。

遠目からではただの魔女か魔術師に見えたのだろう、ひそひそと「あれが…」「初めてみた…」などと話す声が聞こえる。

その都度凝視されるのを感じて、思わず私はやめて!みないで!と悲鳴を上げて蹲りたくなった。

そんな行動をとったら余計注目されるのは目に見えているので、もうそこに設置されている銅像の気持ちで直立不動に佇んでいる。


「では、試験内容を説明します。試験相手であるグレイは5分間はサラ様に攻撃しないこと。回避行動だけ許します。その間にサラ様はグレイを好きなだけいたぶってください」


「オイ!」


「ごほん、失礼…。グレイは5分が経過したらサラ様を捕獲してください。サラ様はどんな手段を使ってもいいので出来る限り逃げてください。捕まったらその時点で攻撃を終了してくださるようお願いします」


「わかりました」


周囲にも分かるように大きく頷いて了解を示す。

ケインの説明が丁寧だったため、要約する必要もなさそうだが、簡単にいうと最初の5分間で私の魔法のレベルを見て、グレイの体力を消耗させた後、私の体術がどれほどのものか見るのだろう。


先ほどケインに魔法で雷を食らわされてもぴんぴんしていた様子からグレイに遠慮はいらなさそうなので全力でいかせてもらうことにする。


向き合うように対峙するとグレイはにやりと笑って、通常は両手で持たなければ耐えられないだろう大きさと重量を誇る大剣を軽々と片手で持ち上げ、そのまま肩にかけた。

普通なら防具も何もつけていないその剥き出しの肩はかけられた刃で傷つくはずなのに、奴の筋肉は一体何でできているのか、かすり傷一つつく様子がない。



「サラ!全力でこいよ!?じゃなきゃ意味ねえし、何よりオレがつまらねェ!」


先ほどの子供っぽさなど忘れるぐらいに、闘争本能をむき出しにして叫ぶグレイはまさしくSランク冒険者に相応しい威厳がある。


その声につられる様に、私は気分が高揚していく。

戦闘のスイッチに切り替わるのを感じて、思わず口角が上がる。



「…死なないでくださいね?」



「…っ!」



「では、始めっ!」




ケインの開始の声が響くと同時に私は浮遊魔法で空中へ飛び、複数の攻撃魔法を展開する。


「ッげぇ!?」


グレイには先日私の戦闘スタイルが串刺し戦法であることを話していたので、予想はついていたみたいだが、どうやら彼の想像の規模とはだいぶ違っていたようで、頭上にびっしりと現われた氷柱に驚いた様子で声を上げていた。

それに雷電を纏わせるとグレイ目掛けて降り注がせる、と同時に地面を槍の様に隆起させて針山にする。


それを結界内いっぱいに永遠と繰り返せばいいだけなので私には非常に楽で簡単な作業だ。



「マジでえげつねえなお前ええええッ!!」


叫びながらグレイは降ってくる氷柱を避けようとしたが、それに追尾機能が付いている事に気づいたのかすぐに剣で破壊する行動に切り替え、それと同時に地面から現われる槍も破壊しつつ回避していた。

恐らく複数の魔法も使って相殺している。

雷電を纏った氷柱は剣で触れると感電するため、剣を土魔法でコーティングして斬るのではなく砕いているようだった。


ちなみにグレイの上記の行動の大半は肉眼では捉えられないため、魔力の動きで感じとったものだ。


……グレイって、人間だよね?



結界内で起こっている予想外の出来事にケインも含めて周囲は唖然としているようで、口を開けたまま絶句していた。


その光景を上空でのんびり眺めていると、5分経過のタイマーが鳴り響き、同時にグレイが動く気配を感知した私は慌てて氷柱の弾幕を突き抜けてくるだろうグレイを回避するため、下へ降りる。



「チッ!」


逃げられたことに舌打ちをしながら追ってくるグレイに私は戦慄した。



完全に目が据わっていらっしゃる…!


あれこれ殺されないよね!?捕獲しようとしてるだけだよね!?


地面に降りてしまえば捕まるのは時間の問題なのだが、命の危険を感じた私は捕まるすんでのところで伸ばされたグレイの腕を掴み、勢いを利用して投げ飛ばした。


見事な一本背負いである。


「ぐえっ!」


が、グレイはそのまま地面に触れることはなく、気づいたら私はグレイの肩に担ぎ上げられていた。

肩から突っ込んできたのか、腹部に衝撃が走り潰れた蛙のような悲鳴をあげた私は、魔力で覆っていなかったら確実に内臓破裂していたと思われるその衝撃に先ほど食べたフルーツサンドをリバースしそうになった。


そこで唖然と眺めていたケインがようやく停止した私達の姿を見て正気に戻ったようで、慌てて終了の合図をかける。


「そ、そこまで!」


ケインの声を聞いて緊迫していた糸が切れたようで、わぁっと周囲が歓声を上げた。


それと同時にグレイは私を担いだままどしゃりと地面へ座り込み、ぜいはあと肩で息をする。


「…お、まえ……まじで、ねえわ…」


たった5分といえどあの攻撃をかすり傷程度でやり過ごしたあたり、やはりこいつは人間じゃないと私は思った。


とりあえずお腹が苦しいのでいい加減離して欲しいのだが、グレイは疲労でそれどころではなさそうなため、私の腹部共々回復魔法をかけてやる。


「……あ?…サンキュ」


グレイは回復していく体力と傷に落ち着いたようで、ふうーっと大きく息を吐いた。

しっかり全快したことを確認した私は腹回りを一周するようにがっちりと固定された腕を叩く。


「グレイ、回復したならいい加減離して欲しいんだけど」


「あ、ああ…悪い」


言われてから気づいたのか担がれたままの私を見てグレイの腕に一瞬力が入り、その後何故か少し戸惑った様子で巻かれていた腕を解かれる。


ようやく開放されてほっと息をつくと、横で奇妙な動きをしているグレイが目に入った。

先ほど私を抱いていた右腕を難しそうな顔で眺めながら手のひらを閉じたり開いたりしている。



…何してんだこいつ。



「グレイ…何してるの?」


「いや……なんか、お前見た目よりずいぶん小さかったような気がしたんだが…。妙に軽かった気も…」


うえ!?…やばい!!


どうやら認識阻害魔法で小柄な成人女性ぐらいに見えるよう誤魔化していた身体のサイズに、グレイは直接触ったことで違和感を覚えたらしい。


「や、やだなぁ…グレイってば。女性に体重のことは禁句だよ?それに違和感も、疲労のせいで感覚が一瞬おかしくなったとかじゃない?」


「そうか…?」


微妙に納得していないような表情を浮かべていたが、そのうちめんどくさくなったのか、グレイは「そうだな」と頷いた。



「…そういえばそのローブのせいで忘れがちになるが、お前…サラは女なんだよな…」


「そうだけど、何を今更…」


私に話しかけているのか独り言を呟いているのかわからない微妙な声色でぼんやりと話すグレイに首を傾げる。


…かすり傷しかないと思ってたけど、実は頭とか打ってたりする?



「さ、サラ様!!」


「うわっ、ケインさん。びっくりさせないで下さいよ」


急に近くに現われたケインに驚いて仰け反る。

やってきた勢いのまま感激したように目を輝かせながら私の手を両手で握り締めるケインの姿に既視感を覚えた。


「あんな…あんな素晴らしい光景を生きているうちに見られるなんて思いませんでした!サラ様は高位魔女様の中でも歴代トップに違いありませんよ!!もう、もう私はサラ様しか目に入りません…是非私と結婚してください!」


「いえ!一生独身でいたいのでごめんなさい!」


勢いが余りすぎてプロポーズをかましてきたケインに思わず即効で断りを入れてしまった。

私の返答に一瞬で地に沈んだケインを見て、グレイが呆れたように「アホか…」と呟き、立ち上がる。



「あー…くそっ。サラのせいで服がぐちゃぐちゃじゃねえか」


体力は魔法で回復したものの、流した汗までは消えないため搾れるぐらいに濡れた服が気持ち悪いのか、グレイは公衆の面前であることもかまわず突然脱ぎだした。

上半身は黒いハイネックのノースリーブのような服を一枚着ていただけなのでそれを脱いでしまえばグレイは上半身裸になってしまう。



「ふぎゃあ!何考えてんの!?」


男性の裸に免疫があるわけもない私は悲鳴を上げて慌てて後ろを向いた。

そんな私と対照的に観客の女性達は嬉しそうにきゃあと黄色い悲鳴をあげ、ところどころ「素敵!」「抱いて!」という声も聞こえてきて、この世界の肉食系女子さん達に思わず尊敬の眼差しを送ってしまう。

というか観客いること忘れてた…。



「あん?…お前、もしかして」


挙動不審な私に一瞬怪訝そうな表情を浮かべたグレイは何かに気づいたようですぐににやりとあの笑みを浮かべ、上半身裸の状態で私に抱きついてきた。


「ひぎゃあああッ!!」


「あっはっはっは!!やっぱり男慣れしてねえのか!」


必死で振りほどこうとするが実に楽しそうに嫌がらせを行うグレイの力が強くて中々抜け出せない。


くそっ…厄介な弱点を一番厄介な相手に知られた…!!



「こ、ここここ高位魔女の私がそんなのしてるわけないでしょおおお!!」


「もがっ」


叫びながらアイテムボックスからフルーツサンドを取り出しグレイの口につめる。

驚いて腕を放した隙に距離をとると、口に手を当てたグレイが目を丸めながらもぐもぐと咀嚼していた。



「…うまい、おかわり」


「……言いたい事はそれだけか…」



何事もなかったように次のフルーツサンドを要求してくるグレイに思わず脱力する。

額に手をあてて疲れたように、はぁ…と溜息を吐く私を見て、地に沈んでいたケインがおもむろに立ち上がった。


「二人とも随分と仲良くなったみたいですね」


「…え?」


今までの流れでどうしてそうなったのかと私が首を傾げると、ケインはおや、と意外そうな表情を浮かべた。


「気づいていませんか?サラ様はグレイにも敬語を使っていたでしょう?それが取れていますよ」


「あ…」


「ああ、そういえばそうだったな。…めんどくせえから別にそのままでいい」


「それはどうも…」


もはや敬語を使う気力も残っていなかった私はそのまま頷いて、未だに次を要求して差し出されていたグレイの手にありったけのフルーツサンドをアイテムボックスから落としてやった。








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