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輝石のトキ ~流星騎士団病院の物語  作者: シバ万
1章 新人騎士兼看護婦の暁トキです
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第5話 団長も変態?!

 とにかく扉の多い建物だ。医師や看護婦らの住居区域にもなっている上層部に入るまでに、いくつものあの「半自動」の扉を通り過ぎた。

 

 「患者が間違って入ってこないようにだよ」

 鈴里は言うが、輝石術師ジュエリスタで体力に自信のないトキにとっては頭の痛い生活上の問題になりそうだ。


 第二層に入ってからも迷路のような通路とたくさんの扉を通りすぎた。補修と増築、改築を繰り返して複雑な構造になっているのだ。

 散々に歩いて二人は、ようやく青銅製の重厚な扉の前に到着した。鈴里はドアについた鉄製の輪をがちゃんがちゃんと鳴らす。


 しばらくして扉が静かに内側から開いた。中から出てきたのは、線の細い、雪のような青みがかった白い肌をした女性だった。年齢は鈴里より少し若い二十歳前後だろう。腰まである金色のまっすぐな髪。完璧と言ってもいいのに、どこか寂しげな顔立ち。ベロアの紺のドレスがその美しく流れるような体の線をあらわしている。


 ――まるで精霊みたい。

トキは心の中でつぶやいた。


 「よう。ミーチャイ。新入りを連れてきたよ。団長いるよね?」


 親しげに鈴里から話しかけられたその女性は、トキに静かなのに通る声で話しかけた。


 「暁トキさんね。話は聞いていたました。ようこそ騎士団へ。私は団長秘書のミーチャイ・イルハノンです。よろしくお願いしますね」


 同性相手なのに声を掛けられてなぜか動揺しながらあわてて頭を下げた。


 「暁トキです。未熟者ですが、よろしくお願いします」


 くすりと微笑んだミーチャイは赤い絨毯が敷かれた部屋に二人を招きいれた。細長い部屋の右側にはミーチャイの机とソファがあり、待合室としても使われている。

 奥の正面にある木のドアの前でミーチャイはトントンとノックし「団長入ります」と、声をかけて扉を開けた。




 トキは部屋の明るさに驚いた。団長室の正面の壁一面がガラス窓で、月の光が差し込んでいたのだ。看護婦の詰め所の三分の一程度の広さだが、部屋の真ん中に黒檀の大きな机とソファセットがあるだけなのでやけに広く感じる。


その机に肘をついて、「やあやあ、いらっしゃい」と高い声で話してきた男がどうやら団長らしい。


月の明かりが逆光となっているが、二十代にも見える若さだ。しかし、笑みを浮かべる顔面がどこかぎこちない。まばたきをほとんどしない目、あごは不自然に割れており、鼻の先はよく見ると少し崩れている。


 ――え? どうして団長がこんなに若いの? それにちょっと変かも。


 トキは不思議に思いながらも、スカートの端をつまんで、ひざを折り曲げて丁寧にお辞儀をした。


 「暁トキです。看護高等学校一年です。未熟者ですが、みなさんの迷惑をかけないようにがんばってがんばって、がんばります」

 「うん、よく来た、よく来た、トキくん。まあそこに座ってね。鈴里くんも座ってちょうだい」


 ソファに座るよう促すと、団長は椅子から立ち、大きな机をぐるりと回ってソファに近づいてきた。その姿を見て、トキは顔を赤くした。

 水色のシャツのフリルの襟がガバッと開いて胸毛がのぞかせているのはまあいい、しかし、下半身には、真っ白なぴっちりとした白いタイツ。それも股間は隠そうともせずにこんもりとしている。看護の実習をしてきたトキにはそれがなにだかは無論知ってはいる。


 ――だ、団長も変態さんでしたか……。


 耳まで赤くさせたトキの顔を横で鈴里がニヤニヤして眺めている。そんなことも気にせずに団長は挨拶を始めた。


 「ワシがここの団長、山下五一です。年齢が五十一歳だから、ご、い、ちです。来年は、ご、に、と名前を変えますからね。トキくんのおじいさんと会ったときは山下十七という名前でしたよ、ははは」


 笑っているのに表情が変わらない不思議な顔で不思議な自己紹介をした。


 「へえ。団長とトキちゃんのおじいさんって知り合いなんだ」

 驚く鈴里の横目で、突然祖父のことを言われて意味が分からずポカンと団長の顔を見つめるトキに気づいた団長が説明を始めた。


 「ん? ワシの顔が変かい? 実は、整形外科の若い医師たちのために積極的に実験台になっとるんじゃ、ははは」

 「いえ、そうでなくて。いや、それも疑問ですけど……。どうしておじいさまのことを知っているのですか?」

 「そりゃあ、そうさ。カスカバラ神国、前国王の暁正宗殿とは、初陣が一緒だったのですよ。皇太子の正宗殿と馬を並べて、帝国兵をバタバタとなぎ倒したもんよ、ははは」


 今度は驚いたのは、鈴里だった。


 「ト、トキちゃんって。カスカバラのお姫さまなの?」


 ――ここでも皇女扱い・・・


 少しの沈黙をおいて、きつく唇をかんできたトキが口を開いた。


 「はい。実はそうなんです。でも団長、鈴里さん、お願いです。そのことはみなさんに黙っていてはもらえないですか? 私は皇女だからって特別視されたくないんです」


 トキは中等学校でも高等学校でも、回りから引いた目で見られ、なかなか友達ができずにさびしい日々をすごしてきた。だから、勉強を頑張り学年でトップの成績をとり、騎士団に入団の資格を得た。しかし、そのときも、同級生から「やっぱりお姫さまのコネかしら」とひそひそ陰口を言われたのだ。


――あんな経験はやだ。私はただのトキなんだから。


 力のこもった話し振りに団長はうなずいた。


 「もちろんそれは構わないですよ。どんな生まれでも騎士は騎士ですから。鈴里くん、じゃあこのことはみなさんには内緒ということで」

 「分かりました。でもお姫さまだって騎士になったら仲間だよ。気にしないで大丈夫、トキちゃん。でもすごいなあ。お姫さまならケーキは食べ放題なの?」


 「こら、鈴里くん。よだれが出てるよ。ははは」


 「うそ! 分かっちゃった? へへへ」


 さっきと変わらず笑い合う二人の姿に、トキはほっとした。

――ここならきっと、頑張れる。


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