第3話 意外な助っ人
トキは、貧しく村八分を受けているという少年の家の前に着いた。ボロボロの扉を開けると、土間と板張りの空間があるだけの小さな家だった。布団の中には、チャプタイの母がうなりながら寝ている。
さっそく家に上がると、トキは鞄から器具を出して診察を始めた。
「こ、これは、破砕土病」
すぐにトキは気付いた。左足が黒ずんでいる。小さな足の傷から破砕土菌が入り、その毒素が広がったのだ。アルチャット大陸の風土病だが、初期なら簡単な薬で防げる。しかし、ここまで重くなると命にもかかわる。そして、チャプタイの大切な母親は一刻の猶予もない重体だった。
「どうですか? お母さんは」
診察に集中しているトキは、心配そうに見つめるチャプタイの問いかけに答えない。汗がこめかみから首筋にすーっと流れる。まずはパンパンに膨らんだ患部を切開して血を出さないといけない。メスを取り出すと、少し腿を切った。すると、腐った臭い黒い血が飛び出し、トキの顔と胸を汚した。それに気にせずトキは治療を続けた。
「よかった、あった!」
トキは少し安堵した。偶然にも、数少ない宝石の中に、体内の毒素を浄化する高レベルな輝石術に使えるアレクサンドライトがあったのだ。高価で貴重な石だが、未練はない。
日中は濃い緑色だが、暗闇の薄明かりの中ではアレキサンドライトは赤く輝き、真の姿を見せる。石の力を出し切るには暗い夜がちょうどいい。
トキは石を患者の顔の前に掲げ、術を唱え始めた。
すると、元気だったころは相当美しかったとみえるチャプタイの母は石に気付くと、力を振り絞ってトキの術を遮るように言った。
「……そんなに大切な石を使うなんてもったいないからやめて下さい。お金もありませんし……」
「お金のことは心配しないで下さい」
トキは躊躇せずに術を再開したが、心では「なぜこの人はこの宝石が高価な種類だと知っていたんだろう」との思いもかすめた。
「再解溶霊!」
赤い光が寝ている女の体を包む。すると、皮膚の毛穴の一つひとつから黒い霧がにじみ出はじめる。と、同時に体が突然、暴れ出した。術を続けているトキは動けない。
「毒素が抵抗しているの、チャプタイ、体を抑えて!」
あわててチャプタイが母親にしがみつく。しかし、母親の、いや毒素の力は強く、子供の力では抑え切れそうにない。
――まずいわ。ここで術がとぎれたら、もう石はない。
その時、トキの背中で扉が大きな音を立てて開くと、黒い影が近づいてきた。
影の正体はリリィだった。こっそりと様子をうかがっていたリリィは、トキが貧者にも差別しない心を持っていることを知り、自分を恥じて飛び出したのだ。
「あたいも手伝うよ」リリィは力強く患者の身体をおさえた。
「誰? 助かったわ! えっ、リリィ!」




