My Love
I want to set you free from my jealousy.
Please my dear...
Tell me,
"(You did)Love me??"
[Would you leave me alone?]
I just had your smile in mind.
机に肘を立てて、少し離れた君を見る。
授業は終わり、皆があっという間だと嘆く休み時間に入る。だというのに、俺は授業中に引き続きぼーっと君を見つめるのだった。
他の可愛い女子と一緒にケラケラと明るく笑う姿を見るのは好きだ。お花畑が見えるくらいに可愛らしい。
だけど君は異性にも好かれていて。他愛ないことでもニコニコと話す。それを見るとどうも息苦しく思えた。
勿論俺と付き合っていることはこのクラスはおろか、学年のほぼ全員が知っている。牽制すれば俺を敵に回す奴がいないことも分かっている。ただの友達として話しかけているだけだ。
はじめのうちは俺も笑っていた。別に気にすることじゃないって。元々彼女になる前は、そんな下らない束縛なんて嫌いだと思っていた。
だけど違ったんだ。君はあまりにふわふわと飛びすぎていて、ニコニコと愛想を振りまきすぎて。俺は心配で心配でもうもたないくらいだ。
「おい……ああ、いいや」
友達が苦笑いしながら去っていく。俺の視線の先にあるものに気付いたらしい。いつも「困った奴だ」と苦笑される。
溜め息をつきながらも、俺の愚痴などを黙って(勿論奢れと煩いが)聞いて、慰めてくれる。そんな友達は全て悟ったかのようにしてくれて。本当にありがたい。
それもこれも、俺の友達にはそんな奴ばっかりだって知ってるのに。
君と初めて出会った時は、君は強がって笑うことを拒んでいた。
「よろしく」
その時の微かな笑顔を見たくて、いつも笑わせようと頑張ったっけ。
だけど君はツンとすまして、絶対に笑わなかった。同性とキャッキャ、と遊ぶことはあっても、俺や他の男子に笑うことはあまりなかった。
だけどそんな君を変えたのは中学のとき。中学はバラバラになってしまった俺たちは、高校で再開した時にはお互い変わってしまったみたいだった。
中学の友達が良かったのだろう、久々に見た君は別人のように華やかに笑った。
「頑張ってるみたいだね、バスケ部のエースさん」
噂聞いたよ、と告げた声は変わらずに高く澄んでいたけれど。
失いかけた友情もすぐに取り戻し、互いに空いた時間は教えあって埋めた。
そして半年後、付き合うことになった。
ふと、意識が元に戻る。今まで別を見て、色々な人と喋っていた君がふとこちらを見た。
この時の判断が間違っていたんだ。慌てたせいで、すぐに俺の方から目をそらしてしまう。気まずくなって目を閉じる。
だから君が少し顔を歪めていたなんて、気付きもしなかったんだ。
放課後、君は「帰ろ?」といつものように笑顔で来た。
「おう、ちょっと待ってて。支度するから」
大して入ってない鞄に、大して出してない教科書類を詰め込む。チャックを閉める寸前、君の指が俺の指輪に触れた。
少しゴツい、だけどお洒落な指輪に触れる。それは君と俺だけが知る合図、約束だった。
溜め込む癖は相変わらずで、素直に甘えられないところも変わっていなくて。だから俺は付き合いたての頃に言ったんだ。
『もし寂しくなったり甘えたくなったら、この指輪に触って。絶対俺気付くから』
それから何度か、甘えたくても甘えられないときにこの合図は使われた。俺も一回も見逃したことなんてなかった。
今日も俺はそれに気付くと、君の髪を優しく撫でた。
「ん?どーした?」
「ううん。今日何か作ってあげるね」
「えっまじまじ?やった!」
喜んでいると君は嬉しそうに笑うから、俺も嬉しくなった。まだ大丈夫だって、慰められているようで。
If it were not for the promise,
would we break off our love before?
何故か俺はそれ以来、君を少し避けるようになってしまった。君が楽しそうに笑っているのを見れない。
それが醜い嫉妬だと気付くのに、そう時間はかからなかった。このままでは君にあたってしまいそうで、怖くなった。
そんな俺に、君ははじめは「どうしたの?」と変わらない笑顔を向けてくれた。だけど俺の「大丈夫」ってとってつけた言葉に、いつも眉を潜めて。
徐々に溝が出来た。
そんな悲しい顔させるなんて、彼氏失格だね。
"You are my love"
好きな曲の歌詞にそう書いてあったね。その曲を二人でイヤホン分け合いながら聴いたっけ。
だけど、その歌詞の二人みたいに俺たちは永遠を信じることが出来なかった。弱さも受け入れ、話して、認め合うことも出来なかった。
弱かったんだ、幼過ぎたんだ。初恋は実らない、先人たちが残した言葉は痛いくらいに突き刺さった。
"Who has appear at your dream now?"
"I want you to think about me."
なんだか、「デジャヴだ」と思った。
「待ってる」
そう言って、結局君は来なかったあの頃と同じだ。
だらりだらりと、優しくしたり、戸惑ったりの繰り返しを数ヶ月続けて。
同じ大学を目指そう、そう言って笑った俺たちの夢は無様にも消えた。俺が不甲斐ない所為で。
「私、もっと上を狙うことにした」
中学も同じところだよ、と約束していた俺ら。でも君は受かってから「私立に行くね」と言った。もしもっと前から言ってくれれば、同じところを受けたのに。
その時と変わらない状況。だけどその言葉の裏にある本心を、俺は容易く読み取ってしまった。
ああ、もう駄目だ。それと同時に、これで良かったんだ。そんな想いが交錯する。
「受験勉強、大変だよな」
「そうだね」
「時間、取らせちゃ悪いよな」
狡いんだ。君がその雰囲気を出すのを待っていた俺は。
「もう……」
「今まで一緒にいてくれて、ありがとうな。楽しかった」
だけど言わせることは出来なかった。君から告げさせるのは、違う気がした。
「私からもありがとう。最後に一つ、聞いておきたいことがあるの」
「なに?」
「何で、避けたり優しくしたりしてたの?」
「それ、は……」
言わなきゃいけないんだろう。短く息を吐いて、正直に告げた。
「それは、俺が子供だったから。些細なことに嫉妬して、そんな自分が嫌になったから。だから傍にいたらもっと醜くなりそうで怖かった」
「吐き出して、よかったのに」
「それを支えあえる程、俺たちは大人じゃなかったと思うよ」
だからこれで良かったんだ。
そう告げて笑えば、君も泣きそうながらも笑ってくれる。気丈な君は、今度はしっかり包んで守ってくれる人を好きになるんだよ。弱音の吐ける、大人な人と幸せになるんだよ。
自分から切り出した別れなのに目の前が滲んで見えたから、俺は顔を背けた。
「応援してる」
最後の最後は、優しく笑いかける彼氏みたいなこと……許して。
俺はバスケで推薦をとっていた。
君に別れを告げた後、俺はその推薦を受け入れた。
もしかしたら、君は分かっていたのかもしれない。二人で同じところを目指そうとするがために、その推薦を断ることになることを。
そう考えたら、申し訳なくて。涙が溢れそうになって。だけど泣きたいのは君のはずだから、俺はずっと笑顔でいると決めたんだ。
卒業式の日、目が合った俺らは目を細めて笑いあった。あの頃と何も変わらない、温かい笑み。
だけどこの日で繋がれた糸はするすると解ける。それが現実だ。
「ありがとう」
いつか輝いてみせるから、君も違う舞台で輝いて。
背を向けた姿を、日差しがふんわりと包んだ。
微かに指輪に触れたその指に、俺は気づかないふりをした。
We broke off our love
and never met again.